口づけは夢の中だけ | better than better

better than better

彼は、私の死んだママのことが忘れられない。
一方通行の片思いたち


素人小説です

 眠りに落ちてゆくその瞬間、その感触にサチはまた悟る。
 ああ、今夜は、彼に会える。

「なんだかひさしぶりだね?」
サチは目の前の男を見つめた。
「そうね、最近は、会えなかったわね」
彼が一体誰なのか、一体自分とどのような関係なのか、サチは全く知らない。けれど、もう何度も何度も、こうして逢瀬を重ねている。
「でも今夜はトモに会えるって分かってたのよ。」
トモは嬉しそうに微笑んでサチの頬に触れた。
「淋しかったよ。いくら呼んでも、君は全然振り向いてくれないのだから」
サチはたじろいだ。
「なにそれ。知らないわよ。私があなたを無視するはず、無いでしょ」
そう言っても、トモはさみしげに微笑むだけ。
 まあ、いいか。サチはそっと瞳を閉じた。訳の分からないことに反論するよりも、もっと私たちにはすべきことがある。
 夜の間しか、一緒にいられないのだから。
 そっとおりてくる唇。少し乾いた唇と、微かに漏れ出る吐息。優しく下唇を噛まれて、サチはそっと彼の肩に手を回した。
 夢だなんて思えないほど、その感触は、確かだ。

 じゃあね。そう言われてサチは目を覚ます。いつもの通りだ。目覚ましの鳴る5分前。いつも彼はこの時間にサチをこちらの世界に帰す。
 上半身だけ起こしてため息をついた。まただ。夢の中で私を抱きしめる彼。一体誰なのか、一体自分とどのような関係なのか。全く知らないのに、けれどトモのことをサチはよく知っている。昔からの友人のような、生き別れた兄弟のような。
 トモは昼間はどこにいるのだろう。なんども繰り返した思考をまた始める。サチの夢の中の住人ではないことは感じていた。彼にも彼の生活があって、夢の中で私たちは逢うのだと。
 けれど、すべてを解き明かすには、夢の中の逢瀬はひどくおぼろげだった。



あとがき
お気づきの方もいらっしゃるとは思いますが、この話は連載中のbetter than better
の中で春海たち演劇部が学園祭で上演した物語です。ここからなんやかんやあって(適当!)、あのラストに辿り着きます。


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