ラストクリスマス、take 2! 3 | better than better

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彼は、私の死んだママのことが忘れられない。
一方通行の片思いたち


素人小説です

通された席は通りの良く見える窓際の席だった。イルミネーションが綺麗で多分とても良い席なのだろう。けれど私はいつ俊基が目の前を通るかと戦々恐々としていた。
「コースで頼んであるんだ。飲み物だけ決めちゃいましょう」
楽しそうにメニューを見せてくる音無くんに、上の空のまま任せるわ、と返した。鞄の中に入れた携帯電話が震えるのを感じた。きっと俊基からだ。
「ちょっとお手洗い」
鞄を持って席を立とうとすると、メニューを見ていた視線を私に向ける。
「鞄は置いて行って」
その冷えた目にこくこくとうなずく。ハンカチを取り出すふりをして携帯を袖に滑り込ませた。気合を入れずに長袖で来て良かったと安堵する。
 トイレの個室に入って大きくため息をついた。音無くんの豹変は予想外だった。職場でもいつもニコニコと屈託のない彼は年上の女子社員から可愛がられていて、あんなぞっとするような目つきなど見せたことが無かった。面倒くさいことになったな、とこめかみを押さえる。
 携帯を見ると、案の定俊基からのメールが入っていた。今、どこにいる?
 すぐさまダイヤルをすると、懐かしい声が耳に流れ込んだ。
「リカ?メール見た?今どこにいるの?」
その声に泣きそうになりながら必死にこらえて小声で返す。私にとっては一年ぶりでも、向こうにとってはただつきあっている恋人に連絡を取っているだけなのだから。
「なんで?どうしたの?今大阪でしょ?」
しらばっくれてそう言うと、電話の向こうで俊基は得意げに笑った。
「それがさ、仕事頑張って終わらせて帰ってきたんだ。今から会えない?」
家でおとなしくしていればこの得意げな言葉に尻尾を振って会いに行けたのに。一年前の自分を殴れるものなら殴ってやりたい。
「えっと、ほんとごめん。女友だちとの集まりに来ちゃってて…」
咄嗟に嘘をつく。音無くんを説得して帰ることはすでに諦めていた。今日俊基と会うことは諦めてまた日を改めて何食わぬ顔で会いに行こう。もしかしたら食事が早めに切り上げられればちょっとでも今日中に会えるかもしれない。
「抜けられたら連絡するけど、ちょっと厳しいかもしれない…。帰って来てくれたのに本当にごめん」
とりあえず今は浮気がばれないことが最優先だ。
「そっか。そうだよな。もっと早く連絡しなくてごめんな」
嘘をついているのにそんな風に謝られてしまって、良心が悲鳴を上げた。
 我慢。この罪悪感をスルーしてしまえば、私たちは恋人同士のままでいられる。



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