ラストクリスマス、take 2! 4 | better than better

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彼は、私の死んだママのことが忘れられない。
一方通行の片思いたち


素人小説です

「窓の外、そんなに気になる?」
食事の最中そう言われ、ぎくりと彼を見た。俊基が通りかかりはしないかと気にしているのを見咎められたのだろうか。
「さっきから外ばっかり見てる」
「その、イルミネーションがすごい綺麗だから」
取り繕うように言うと、ああ、と音無くんも窓の外を見遣って頷いた。
「店出たら見に行こうか」
嫌だとも言えずに曖昧に笑う。
 デザートが運ばれてきて、ほっと息をついた。もう少しで終わる。もうこれ以上は付き合えないと言ってもさすがに許してくれるだろう。早くこんな緊張感からは解放されたかった。
「リカさんは彼氏と別れる気はないの?」
雑談のように問いかけられて、プディングをすくったスプーンを持つ手を止めた。
「ないよ」
ハッキリと言う。この一年間で自分がどれほど彼を必要としていたのか身に染みていた。大切な物は無くなってから気がつく、なんて馬鹿みたいだけれど。
「絶対?俺の方がいい男でも?」
「うん」
音無くんの目が怖かったけれど、それはごまかしたくなかった。
「そっか。誘ったときは結構ぐらついてる感じだったからいけると思ったんだけど。駄目だったか」
けれど恐れていたような表情でなく、穏やかにそう言って彼は背もたれにもたれた。
「なんかリカさん昨日までと違くない?なんかしっかりしちゃった感じ」
「うそお」
「ほんと。なんかもっと適当な人だと思ってた」
適当な女でしょ、と自嘲する。彼氏とよりを戻したくて一年前に戻ってきたのに、こうして違う人と食事をしている。
「今日はわがまま言っちゃってごめん。明日からちゃんと後輩に戻るので許してください」
そう言う音無くんにちょっと微笑む。そういえばあの日以来、音無くんとも気まずい関係が続いていたのだ。この関係も修復できるのならばそれに越したことはない。
「ううん。私こそふらふらして迷惑かけてごめん。明日から頼りがいのある先輩に戻るから」
リカさんは頼りがいがあったことなんてないですよ、と軽口を叩きながら彼は席を立った。
「そろそろ行きましょう」

 イルミネーションの通りを二人で歩く。
「リカさん、最後にお願いがあるんだけど」
なに?と振り向くと左手を差し出される。
「ちょっとでいいからさ、手つないで歩きたい」
少し考えたけれど、一年前の自分の腹いせに巻き込んでしまった後ろめたさもあって、右手でその手を掴んだ。
「ちょっとだけだよ。あそこの角までね」
「やった」
嬉しそうに笑った音無くんはぎゅっと手を握った。
 誰かと手をつなぐのなんて久しぶりだな、とふと思った。俊基の手の感触はどんな風だっけ。一年たつとそれさえおぼろげになってしまう。
 そんな考え事をしていて周りに気を配っていなかったのだ。さっきまであんなに気にしていた彼の気配を感じ取ることができなかっただなんて。
「リカ?なにしてるの?」
その声に勢いよく振り向くと、じっと繋がれた手を見て立ち尽くす俊基の姿があった。思いっきり手を振りほどく。
「女友達と会ってるんじゃなかったの?」
「違うの、その、彼は会社の後輩で」
「これがリカさんの彼氏?」
上手く回らない舌で弁解をしようとする私を遮って音無くんが肩に手を置いてきた。
「そうだけど。なんで後輩がそんな馴れ馴れしいわけ?」
いつも温厚だった俊基。ああそうだ、あの日もこんな風に怒りをあらわにした声をしていた。
「だって今日、俺らクリスマスデートしてきたんですもん」
「音無くん!!」
悪びれずにそう言い放つので、悲鳴のような声が出た。
 なぜ。さっきまでお互い良い同僚でいようとしていたところじゃない。
「彼氏さん出張なんでしょ?リカさんとは会えないって言ったらしいじゃないですか。なんで今更こんなとこいるんですか」
「お前には関係ないだろ?なあリカ、」
俊基の悲痛な目を見てひゅっと息をのむ。
「リカ、浮気してたの?」
「違う!」
咄嗟に叫んだけれど、説得力なんてまるでなかった。
「違わないよ。男と二人っていうのもあり得ないけどさ、まあ会社の同僚と飲んでるって言われれば仕方ないって思えたかもしれない。けど、女友達と会ってるって言ったろ?リカ、なんで嘘ついたの。浮気だからじゃないの?」
「違うよ…」
弱弱しい声で言う。けれど信じてはもらえないのだろう。
 今度は私はどこで間違ったのだろう?正直に会社の後輩の、男と二人で食事をしていると言えばよかったのだろうか?あの冷たい目をした音無くんを力ずくで振り切って逃げ帰れば良かったのだろうか?
「ねえ、話を聞いて。本当に、浮気なんかじゃないから」
「俺は浮気相手のつもりでしたけど」
音無くんはまた話をややこしくするようなことを言う。
「嫌だよ。クリスマスの夜にこんなことになると思わなかった。俺、帰るわ。リカ、部屋にある俺の荷物捨てていいよ。俺の部屋にあるものも今度送る」
「やだ!ねえ、お願い…」
踵を返そうとする俊基の腕に縋る、とその時彼の手に紙袋が握られているのが目に入った。
 クリスマス仕様のそれは、私の好きな洋服のブランドの紙袋だった。
「ああ、これ?」
私の視線に気が付いたのか、俊基はそれを見て苦々しげに笑った。
「お前へのプレゼントだよ。今日は会えないって言うから、ついでだしさっきまでこの辺回って探して買ったけど。まあ、いいや。俺が持ってても仕方ないし、やるよ」
そう言って押し付けられる。思わず受け取ったけれど、私の欲しいのはこんなものじゃなかった。


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