ラストクリスマス、take 2! 5 | better than better

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彼は、私の死んだママのことが忘れられない。
一方通行の片思いたち


素人小説です

「やだあ…」
ぽろり、と涙が流れたその向こうで、呆れたような表情が目に入った。
 天使。
「え?」
「あんた、本当に馬鹿なんだね。せっかくのチャンス、ここまでうまく使えない人間は初めてだ」
渡された紙袋に飾りとしてぶら下がっていたのは、ディスプレイに飾られていたあの天使だ。サイズはだいぶ小さいけれど、人を小ばかにしたようなこの表情は間違いない。
「どうする?結局うまくいかなかったけど」
「どうするって言ったってどうしようもないわよ…」
やけくそになって答える。ふっと顔を上げると、俊基の背中が微動だにせずそこに立っていた。
「え?」
慌てて周りを見渡すと、隣にいる音無くんも、修羅場を伺っていた周りの人たちもまるで時間が止まったかのようにぴたりと静止している。
「どうにかしたくないの?」
再び天使に問われていとおしい背中を見つめる。もう触れられなくなってしまった背中。
「どうにかしたい」
久しぶりにその声を聞いて、その姿を見て、自分で思う以上にまだ彼のことが好きだったのだと気が付いてしまった。当たり前だ。長い間、嬉しいことも悲しいことも、すべての感情は彼とともにあったのだから。
「ふうん、そんな真剣な目もできるんじゃん」
天使はにやりと笑った。
「あんたが辛気臭い顔してたあのディスプレイの前、あそこにもう少しいればその元カレが通りかかるよ。どうする?このまままた彼無しで一年過ごす?それともまた一年後に戻って、喧嘩別れした彼と何の準備もなくご対面する?」
「会うよ」
一回目と違って、今度は私の意志を確認してくる天使にしっかりと頷く。
「本当は一年前に戻らなくたって、ちゃんと自分で連絡とったり行動するべきだったのよね。今度会ったらちゃんと話す。できる限りのことをしないとまた後悔ばかりしちゃう」
「そう?ま、頑張りなね」
そう言って天使は初めて、優しげに笑った。

 私は再びあのディスプレイの前にいた。中を覗くとあの天使が立っていたけれど、もう既に感情無くすました顔で微笑むただの置物だった。
「リカ?」
声をかけられてゆっくりと振り返る。さっき聞いた、けれど一年ぶりのその声。
「俊基」
「なにしてるの」
戸惑ったように俊基はきょろきょろと私の周りに視線を走らせた。
「えっと、一人?」
それに対して頷くと俊基は何とも言えない表情をした。
「だってお前、あの後輩の彼は」
「付き合ったりしてないもん」
彼の瞳から目を離さずにそう言うと、一瞬その目を見開いた。
「そうなんだ…」
どこかほっとしたような声で言うので、なんだか勇気が出てきてしまう。私はぎゅっと拳を握った。
「俊基、一年前はごめんね。浮気のつもりはなかったけど、でもそういうことしたのは本当に馬鹿だったと思ってる。ほんと、ごめん」
自分でも唐突だな、という自覚はあった。けれどこれだけはちゃんと伝えないといけなかった。思えば、一回目も二回目も、私はちゃんと謝ることすらしていなかった。
「いや、こっちこそちゃんと話も聞かなかったなって思うし…」
ぼそぼそと口にする俊基を見て思わず微笑みがこぼれた。言いにくいことを言う時に右斜め下を見る癖は、変わっていない。
「俊基、今一人?」
「え?うん」
だろうな、と思う。クリスマスに予定がある人だったら、少し先の汚れた靴は履いてこないだろう。
「ご飯食べない?一年前のことちゃんと話したいし、ちゃんと謝りたい。あと、今の私のことも話したいし、今の俊基のことも話してほしい」
だめかな?と表情を伺うと、俊基は一瞬驚いたような顔をして、そして懐かしい顔で笑った。
「いいよ。去年のクリスマスのやり直しだ」

 奇跡は自分次第だよ。天使はそうにやりと笑った。



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