私は運動が得意ではないので、運動会ではほとんど出番がない。今年も、今終えた女子大縄跳びで参加する競技は最後だ。
晴れた空を見上げて顔をしかめる。運動会日和なのは結構だけど、太陽が張り切りすぎだ。ゴールデンウイークも過ぎてしまえば、ほとんど夏のような日差し。日焼け止めを塗りなおさなければ、と思いつく。
「ごめん、日焼け止め取りに行ってくるね」
一緒に大縄跳びに出ていたクラスメートに声をかけて教室に向かう。誰もいない校舎を足早に歩いて教室のドアを開ける。鞄の中から日焼け止めを取り出して、顔に塗りながら窓際に寄った。グラウンドでは男子の騎馬戦が行われていて、怒声ともとれるような掛け声がガラス越しにも聞こえた。
「遠影、何しているんだ」
振り向くと、担任の教師が入り口に立っていた。
「すみません。忘れ物取りに来ました」
「早くグラウンドに戻りなさい」
急いで日焼け止めをジャージのポケットに入れて教室を出る。
「そういえば、進路のことは保護者の方と相談できた?」
「いや、まだちょっと・・・」
「そろそろちゃんと志望校も固めていかないといけないんだから、ちゃんと話し合いなさい。先生が間に入ってもいいから」
「ありがとうございます」
校舎を出てグラウンドに出ると、先生が隣で驚いたように声を上げた。
「あれ、真野じゃないか」
「え?」
私も驚いて顔を上げると、そこには確かにリクルートスーツを着た千歳が立っていた。
「先生、お久しぶりです」
「久しぶりだなあ。どうしたんだ一体」
「就職先が決まったので、報告をと思って。今日運動会だったんですね。お忙しいのにすみません」
「いや、いいんだ。そうか、決まったか。おめでとう。どこに決まったんだ?」
「朝川商事です。来年から東京に行きます」
ちらりと横目で見られたような気がしたが、千歳はまるで私なんていないかのように先生に答えた。
「そうかそうか。よく頑張った。今日は運動会を見ていくのか?」
千歳はようやくこちらを見た。
「春海はあと何に出るんだ?」
「もう無いよ。全部終わった」
千歳は呆れた顔をした。
「本当、運動会には消極的だよな」
「そうか、二人は知り合いか」
先生の言葉にうなずく。
「じゃあ、真野も遠影の進路相談に乗ってやってくれよ」
「はい」
先生は満足したように頷くと、教職員用のテントへ戻っていった。
「就職、おめでとう」
改めて顔を見てそう言うと、千歳は照れたように唇を触った。
「さっき内定の電話が来たんだ。第一志望だったから良かった」
「東京、行くんだね」
その言葉にすっと目線を逸らしながら千歳は頷いた。
「うん」
「そっか」
私たちはしばらく玉入れをしているグラウンドを眺めていた。赤と、白と、黄色の玉が空に投げ出されては、落ちていく。
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