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彼は、私の死んだママのことが忘れられない。
一方通行の片思いたち


素人小説です

「るみ!」

その声に振り向くと香篠君が笑顔で駆け寄ってくるところだった。

「リレー招集かかったんだ。応援しててね」

そう言ってから気が付いたように千歳を見て、誰?というような顔をした。

「彼が香篠君?」

千歳がそう言ってすっと私の横に立った。

「え?うん。そう」

「初めまして。春海がいつもお世話になっています。今年もリレー出るんだ?頑張ってね」

にこやかに挨拶をする千歳に、香篠君は不審げな表情をしながら会釈を返した。

「あの、お隣さんで、幼馴染の人」

「真野千歳です」

「…初めまして」

顎をちょっと突き出して拗ねたような態度をとる香篠君に構わず、千歳は笑顔で続ける。

「春海、ちょっと愛想が足りないところがあるけど、大丈夫?」

「…大丈夫ですよ。別に、そんなこと思ったことないし」

「そう?ならよかった。春海のこと、よろしくね」

まるで保護者のようにそう言って千歳は私の頭に手を置いた。

「じゃ、俺もう帰るわ」

軽く手のひらで頭を叩くと、あっさりと千歳は帰っていった。

「今の、何」

香篠君が低い声で呟いた。

「え?だから、幼馴染だってば」

「ずいぶん馴れ馴れしく触る人だね」

随分と険のある声で言うので、焦ってしまう。

「兄っていうか、家族みたいな人だから」

「家族、ね」

香篠君はふんと鼻を鳴らした。

「それにしてはあの人のこと、俺聞いたことなかったけど。あの人の方は、俺のこと知ってたね」

「それは、」

「もう召集行かなきゃ」

私の下手な言い訳なんてまるで聞く気が無いように、香篠君は背を向けて行ってしまった。

 また間違えてしまった。けど、と恨めしく考える。千歳だって、普段はあんな不用意なことをする人じゃないのに。香篠君を不快にするためのようなその行動は一見嫉妬のように見えなくもないけれど、そんなものじゃないことは自分が一番よく分かっていた。父親としての牽制、ただそれだけ。

 のろのろとクラスの応援席に戻ると、丁度リレーの選手が入場してくるところだった。

「春海もっと前で応援しなよ。彼氏出てるんでしょ」

私の気分なんて知らない、クラスのお節介な女子に前へと押し出される。

「相変わらず金髪目立ってるね。手、振ってみなよ」

そう言って無理やり私の右手を持って高く掲げさせる。

「ちょっと、やめてよ」

一瞬香篠君がこちらを見た。けれど、その目に何の表情も浮かべずにすっと逸らされる。

「あれ、気が付かないね」

ようやく手を離してくれた彼女が不満そうに呟く。

「こんなに人がいるから無理だよ」

無視されたことに沈む胸に気が付かないふりをしながら、私はそう言って誤魔化してみせた。



次話




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