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better than better

彼は、私の死んだママのことが忘れられない。
一方通行の片思いたち


素人小説です

「春海が俺のこと好きなのは知ってるよ。でも、あの人は、もっと、それだけじゃない、特別な人なんだろ」
穏やかにそう言われて、言葉に詰まる。その通りだった。どんなに香篠君を好きになろうとしても、どんなに好きになることができても、千歳はずっと特別な人だった。だって今まで何年も何年も、私の中の一番大きいところに居座っている人なのだ。追い出したくても、離れてくれない。
「ふざけるなよ」
その一瞬の逡巡を見透かしたように香篠君は再び表情を険しくさせた。
「いつかは俺が一番になれると思って、最近は成功したと思ってたけど」
全然駄目じゃねえか。そう荒々しく呟くと、彼は乱暴に私の肩を掴むと床に押し倒した。その勢いのままスカートの中に右手を這わせる。
「なにするの!」
両足を蹴り上げて、両手で彼を引き離そうとしたけれど、まるで敵わない。
「やめてよ!」
「うるせえな」
間近に迫った瞳の色に、ひゅっと息をのむ。いつもじゃれついてくる可愛らしい獣じゃない。今目の前にいるのは、ただ私を血まみれにしようとする獰猛な、なにか。
 首筋に唇を寄せられ、痛みを感じるほど強く噛まれる。私の顔を撫でる金色のたてがみからは、汗とグラウンドの砂埃の匂いがする。無理やりにシャツのボタンをはずされる。一つか二つはちぎられたような音も聞こえる。細い指が乱暴に素肌をなぞるたびに、あるはずのない鋭い爪が私を傷つけていく。
「お願い、やめて」
彼の肩を両手で強く押すけれど、無駄な抵抗だと頭のどこか醒めた部分で考えていた。
「何、してるの」
やけに冷静な声がして、二人でドアの方を向く。何の表情も浮かべていない瞳が立っていた。
「部室でそんなことしないでくれる?」
まるで意に介さないように、床に転がる私たちの横をつかつかと通ると、ロッカーの中を漁りだした。
「俺、帰るわ」
その後ろ姿をしばらく茫然と見つめた後、さっきまでの勢いが嘘のように静かな声で言うと、香篠君は私の上から体をどけて、振り返りもせずに部室を出て行こうとした。
「ちょっと、香篠君」
それを瞳が呼び止める。香篠君は無言で振り向いた。
「脚本、読んだわ。使うことにしたから」
「…どうも」
それ以上話すつもりなど無いと言うように、彼は部屋を出て行った。
「香篠君、脚本書いたの?」
何か言わなくては、と焦った結果だとはいえ、自分でも間の抜けた発言だという自覚はあった。
「ええ。結構良かったから学園祭で使うことにしたわ」
すっかり部長職も板についた瞳はそう言って、それよりも、と続けた。
「服、ちゃんと着たら?」
今日は貸してあげる、とベストを投げてよこす。
「…ありがとう」

次話


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