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彼は、私の死んだママのことが忘れられない。
一方通行の片思いたち


素人小説です

「そんな、大袈裟な」
「大袈裟なんかじゃないわよ」
瞳はさらりと言う。
「高校三年生、最後の学園祭、最後の演劇。それが自分の思うように好きなように考えて悩んで作っていけるのよ。楽しくないわけないじゃない」
私は驚いて瞳を見つめた。
「最後の演劇、なの?」
瞳は少し視線を落として頷いた。
「瞳は大学でも演劇続けるとか、東京出てその世界に入るとかすると思ってた」
彼女と進路の話はしたことが無かったけれど、勝手にそう思い込んでいた。
「しないわ」
瞳は簡潔に答えた。
「そうなの」
なにも言うべき言葉が見当たらず、黙り込んでしまう。予想外だった。瞳は演劇が大好きで、演じることも、劇を作り上げることも、自分には才能があると疑いもしない様子だったのに。
「私、地元の短大に通いながら、いわゆる花嫁修業ってやつをするのよ」
瞳は自嘲気味に言った。
「花嫁修業」
その言葉がまた瞳には似合わず、絶句してしまう。
「うちがね、結構そういう考え方なの。女の子はお嫁に行くのが一番って。短大に通うのも随分渋られたわ」
そう呟いて、私に視線を戻す。
「春海はどうするの?」
「え?」
「進路よ。大学は行くんでしょ?」
私はおずおずと頷いた。
「地元で通うか、東京行くかでまだ迷ってるんだけど」
そう言いながら、選択肢の間で迷い続けていることが贅沢者の傲慢さに思えてきて、目線を逸らした。
「東京か。いいなあ」
あまりに素直に瞳が言うものだから、思わずごめんと謝ってしまう。
「なんで謝るのよ」
瞳は唇を尖らせる。
「いいのよ。私だって本当に東京に行きたければ行けたはずなのよ。その気になれば親を説得できたはずだし、それが無理でも押し切って家出だってやろうと思えばできたのよ。もう18歳なんだもの。それをしなかったのは、私の選択だわ。結局この道が一番良いのかもしれないと思っちゃったんだもの」
「後悔は、してないの?」
「してる。すごいしてる。けれど、やっぱりこれがベストの道だとも分かってるのよ。このまま演劇を続けたってきっと成功しないことだってわかってる。少ない可能性にかけてみるほどの根性が無いことも分かってる」
春海、と瞳は悲しそうな眼をした。
「私、あなたが思うほどタフでも自信家でも無いのよ」


次話


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