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彼は、私の死んだママのことが忘れられない。
一方通行の片思いたち


素人小説です

 ある日夏期講習を終えて携帯を開くと、香篠君からメールが入ってきていて思わず一度携帯を閉じてしまった。
 瞳には呆れられているけれど、未だに香篠君と話し合うどころか声もかけられない生活を送っていた。あちらもまるで親しくもない先輩に接するような態度しかとってこず、まるで私が悪かったみたいに思ってしまう。それなのに、何を今更。
 一度深呼吸をして再び携帯を開いた。無題、と書かれているそのメールを開くと、そこには素っ気ない文字が並んでいた。
『明日、お祭り行こう。6時に去年と同じ場所で』
 不意によみがえってくるあの日の思い出。明確な言葉を成さない人々のざわめきと過剰な密度。まるで夢みたいな笛と太鼓の音。しっかりと馴染んでしまった、繋いだ、手。たった一年前のことなのだと新鮮に驚いてしまう。あの日の私から、なんだか遠くに来てしまったと胸がつんとした。
 どうして香篠君はまた夏祭りに誘ってきたのだろう。彼の考えていることは分からなくて、いつもあと少しというところで指をすり抜けてしまう。いつだって私だけが振り回されて独り悩んで報われない、と思ってしまう。けれど。
『分かった』
それだけ返信して私はそっと瞳を閉じた。その手をもう一度掴むにせよ、もう二度と触れられないところまで離してしまうにせよ、今のままではまるで彼の虚像に触れているだけみたいだ。

 人込みの中にその黄色い頭を見つけるのは、しばらく二人で出かけていない今でも容易なことだった。
「…お待たせ」
そっと声をかけると香篠君は一瞬肩を揺らしてこちらを振り向いた。
「そんなに、待ってないです」
白いTシャツからすっきりと伸びる首筋が、ほのかに日焼けしている。華奢に見える身体が、本当はしっかりとした質量を持っていることを、私は十分に知っていた。
「…行こうか。最初はお参り、でしょ?」
何事もなかったかのように歩き出す香篠君は、今年は手を繋いではくれなかった。
 無言で並んだあとに賽銭を投げて二人並んで手を合わせる。隣の彼がどうしても気になってしまって、何を願えばいいのか分からなくなってしまう。ちらりと横目で伺うと丁度香篠君もこちらを見ていて、ぱちりと目が合ってしまう。ふいっと目線をそらされて、慌てて自分も目をつむって何かを願うふりをした。


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