映画『食堂かたつむり』 | 辻明佳のナイフとフォーク

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旅、お料理、ときどき女優。

始発に乗る。


22時前には眠れるはずだったのだけど、
その前に観た映画のために頭に血がのぼってしまって
二時間しか眠れなかった。


書かないどこうとも思ったけども
私も一応ものを表現する立場の人間で
いつ誰に批評をされるかわからないということをふまえつつ
レビューしてみようと思う。


おもしろいものが観たいので。


『食堂かたつむり』。
ネタバレあるよ。


柴咲コウ演じる「倫子」が、男にだまされお金も声もうしなって
嫌いだった母のもとに帰って食堂を開くおはなし。


いやしくも食事がテーマの話であるからには
でてくるたべものは、人間の欲求によりそったものでなければならないと思う。


料理シーンはまるでおしゃれなレシピ本の写真をながめてるみたいで
すっごくビジュアル的にかわいらしいんだけど、

倫子が心をこめて作る食べ物のどれもが
なぜかいっこも食欲をくすぐってこない。

登場人物たちにも全然食欲が見えない。
ちゃんとおなかへらして来たのかなみんな?


例えば『南極料理人』に一瞬出てくる
氷イチゴの方が
お妾さんが食べるフルコースよりもおいしそうだった。

はるか極寒の南極に来てまで
いや、来たからこそ
地面にイチゴシロップぶっかけた瞬間に
日本の夏を連想して
氷原をむさぼってしまうひげもじゃの男たち。

そこにおかしくも哀しい、「食」という欲をみて私は感動しちゃったのだ。


そういうのが全然ない。
おいしそうさに説得力がない。
食事が楽しそうですらない。


それだけならまあいい。


お客様は一日一組だけ、というステキな設定から
そのお客さん一人一人の身になって
好みや体調や思い出や天気をおもんぱかってメニュー決めるんだろなーと
誰もが期待するじゃないですか!

べつにそういうこともなし。
むしろただ倫子が作りたいものばかり並べる
独りよがりな料理にすら見える。
(原作では倫子の心の声でいろいろおもんぱかってたらしいんだけど
映画では全カット)


ただ心をこめて、いいもの使って
おいしかったからというだけの理由で

逃げた奥さんから電話はくるわ、
カップルは成立するわ、
喪服のおばあさんは元気になるわのトンデモストーリーでした。


それだけならまだいい。


もうひとつの軸、母との確執。


話の中盤で突然の母の末期ガン発覚。
さらに不必要でシュールな出生の秘密。
てかみんなの人物描写が
うすっぺらくて筆圧弱いもんだから
そこまでの時点で人間たちに興味がもててない。


まあ最終的にもちろん母は死に
死後になっていろんな
「実は愛されてた」エピソードが発覚。
倫子泣く。

に至るんだけど
伏線がうまくないのでなんだかすべてが急な印象に(>_<)
倫子が泣くシーンでは
相当涙腺ゆるいはずの私が引いてしまいました。


さらに
母が溺愛してたペットの豚を殺して
母の再婚パーティーでみんなで食べるという
かなりどぎついシーンがあるのだけど

何の葛藤もなく、いのちへの深い慈しみ感謝みたいな描写もなく
みんなおいしいおいしい言ってにっこにこで食べる。
きつすぎるブラックジョークとしか思えませなんだ。


嫌がらせしてきた昔の親友と
なんのエピソードもなく和解してるのも、なんだろう……。


原作はわりとすなおに
いのちへの感謝
というテーマが描かれているそうなのですが、

映画はブラックメルヘンみたいなもの
を目指したのかな……?
こころがあたたまらない……

ぬーん。


そして衝撃のラスト。


食堂のドアに突撃し死んでしまったハトをみつける倫子。
なまなましいハトの死骸を拾い上げる……

まさか……

次のカットでハトのグリルきたーーーー

倫子食ったーーーーー


「おいしい。……おいしい」


声もどったーーーーーーー


幕。


な、な、なんじゃあこりゃあ( °д°)


役者さん。


柴咲コウの表情だけの演技を堪能しました。
余貴美子さんも、癖のある母親役を怪演。みごと。
ブラザートムもいい味出してました。
ただトムに罪はないんだけどトムの
セリフのほとんどがムダでした。
ただただ倫子の料理をほめるだけのシーンが延々(*_*)


映像は細部まですんごくかわいらしくて色鮮やかで
おしゃれな写真集を見ているようで
とっても癒されました。


嫌われ松子みたいな
シュールなアニメの演出もそんなに私は大丈夫だったのだけど。


だけに、残念。


なんだったのだろう……
この映画はなんだったのだろう……


きつねにつままれたおもいです。
きょとん