こんばんは。
早いものでお正月も終わってしまいましたね。
さて、すごく久しぶりに【移り香】を書いてみました。
ありがたいことにアメンバーに申請してくださる方々からの【移り香】の感想を多くいただきまして、ついつい書いてしまいました。
久しぶりに書いたので、以前とイメージが違ってしまっているかもしれませんが、書いた私は楽しかったです( ̄▽+ ̄*)
ちなみに、過去の【移り香】はこちら。
移り香 Side Y / 移り香 Side K
それでは、以下からどうぞ。
↓
~移り香 Side R~
「おかえりなさい。敦賀さん」
そう言って俺を迎えてくれたキョーコは、いつもと少し違って恥ずかしそうにしている。
いつもより短い廊下を早足で玄関まで来ると、モジモジしながら俺を迎えてくれた。
「ただいま」
そう言う俺もキョーコにつられて少し気恥ずかしくなる。
女優としてタレントとして顔も名前も広く知られるようになったキョーコは、セキュリティの関係から半年前に、今まで下宿していた『だるまや』を出て一人暮らしを始めた。
はじめての一人暮らしで何かと相談に乗ったり、今まで以上に俺の食生活を気にかけてくれるようになった彼女と交際が始まったのは今から3ヶ月ほど前のこと。
それでも二人で会うのは決まって俺のマンションで、帰りが遅くなったキョーコを送ってマンションの前までは来たことはあっても中に入ったことはなかった。
『敦賀さん、今度の日曜日は私オフなんです。もしよかったらお仕事の後、私の部屋にいらっしゃいませんか?』
恥ずかしさからか、俺の腕の中で胸に顔を埋めてそう誘ってくれた彼女があまりにも可愛らしくて、しかもそこが俺の部屋で更にベッドの上だったから、そこから先は言うまでもない。
「……さん、……敦賀さん?大丈夫ですか?」
出されたスリッパを見つめたまま、その時のことを思い出して無表情で固まった俺を、キョーコが心配そうに見上げている。
「大丈夫だよ」
ニッコリと微笑めば、安心したように彼女も微笑み返してくれた。
キョーコの部屋は、一人暮らしの女の子らしく1LDK。
彼女好みの明るい色のカーテンに、白を基調とした家具。
所々にメルヘンチックな人形やガラス製の置物が飾られている。
部屋の中は彼女の甘い香りに満たされていて、はじめて訪れたとは思えないほどに居心地のいいものだった。
キョーコに促されソファに腰掛けると、彼女は夕食の仕上げのためキッチンに入っていった。
俺のマンションよりは大分面積の小さいこの部屋では、リビングのソファの上からでも彼女の様子がよく見える。
トントンと野菜を刻むテンポのいいリズム。
ご機嫌なのか鼻歌まで聞こえる。
俺はソファの上で目を閉じて、この幸せを噛み締めた。
食事を終え、リビングのソファに寄り添って座る。
キョーコの部屋のソファは二人掛けで、体格の大きい俺が座ると必然的に密着することになる。
「ふふっ」
突然笑い出したキョーコを不思議に思って見下ろす。
「敦賀さんが私の部屋にいるなんて、不思議な感じです」
「そう?」
「ええ。ゴージャスターの敦賀さんが、こんな小さな部屋で私と身を寄せ合っているなんて誰も想像しないですよ?」
「そうかな…。でも、いいね」
「え?」
「こんなに近くに君を感じていられるなら、ずっとここに住みたいくらいだ」
そういって顔を寄せると、キョーコもゆっくりと目を閉じる。
合わさった唇は次第に深くなって…お互いの唇を堪能した後は、彼女のベッドの上で彼女の香りに包まれながら肌を合わせた。
(キョーコも俺のベッドにいるときはこんな気持ちなのかな…?そうだったらいいな……)
胸が締め付けられるほどの幸福に包まれて、俺たちは夜を過ごした。
***
彼女の部屋で過ごす幸せな夜が終わり、朝、出かけるのを渋る俺を宥めすかすキョーコに何度もキスを強請った後、迎えに行った社さんを車に乗せてスタジオに向かう。
「お前っ!昨夜っ!キョーコちゃんの部屋にお泊りしたな!!」
「……っ!……ゴホッ……はい」
隠していた訳じゃないけど、すぐにバレた…。
俺から漂うキョーコの香りに、社さんはすぐさま気づいた。
昨夜、キョーコはわざわざ俺がいつも使っているアメニティを用意してくれていた。
でも俺はわざと彼女の愛用しているシャンプーやボディソープを使った。
彼女の部屋にいた余韻を感じていたかった。
**
今は連続ドラマの撮影が佳境に入っており、連日朝から晩までスタジオに詰めている。
今回ヒロイン抜擢された女優はあまり演技と真剣に向き合うタイプではないらしく、セリフ合わせをしたいと言ってくる割には、休憩時間も演技とは関係ない話ばかり。
正直共演者もスタッフもかなり呆れているが、ヒロインの機嫌をそこねて撮影を遅らせるわけにはいかないので黙っている。
「あら?敦賀さん、香水変えました?」
何度もNGを出す彼女に頼まれてセリフを合わせるはずが、必ず俺の身体のどこかに触れたまま更に身体を寄せてきた。
「わかりますか?」
さりげなく腕をほどき、距離をあける。
すかさずまた一歩距離を縮められる。
「いつもは爽やかな香りなのに、今日は随分と甘い香りがするから…。
その香りも素敵ですね。
何処のブランドですか?私もお揃いにしちゃおうかしら~」
演技の話はそっちのけで話す彼女に、俺は……
「あぁ、じゃあ彼女に聞いておきますね」
「……………」
さっきまで擦り寄っていた彼女の動きが固まった。
その隙に俺に触れていた手を外して、一歩さがる。
(これでわかってくれたかな?)
この香りのおかげでしつこいヒロイン様には彼女の存在をアピールすることができた。
今日は一日キョーコの香りに包まれて、俺は幸せな気分で過ごした。