明日4月2日は私の誕生日。
付き合って2年になる彼とのデートのために着て行く服を選び始めたのはいいものの全然決まらない。



「やっぱり男の人はワンピース女子が好きだよねぇ」

「あんまり気合い入りすぎだと思われてもなぁ・・・」

「髪型もどうしよ」



結局1時間前から全然前に進んでないで悩んでばっかり。

でも全然嫌じゃなかった。

だって彼には一番かわいい私を見てほしかったし
彼に「キレイだね」って言ってもらいたかった。


それに付き合って2年。

私の誕生日にプロポーズって可能性だってある。
プロポーズしてもらうときぐらいにかわいい服のときがいい。

一生に一回のプロポーズなんだもん。
それぐらい思ったってバチは当たらないよね。



明日のことを思うだけでにやけてしまう。
初めてのデートのときみたいなワクワク感があった。




携帯が鳴った。



彼からだった。




すぐにでも出ることはできたが、なんか私が彼からの電話を待ち構えていたみたいに思われたくなかったから3回だけ着信音が鳴るのを待ってから電話に出た。


「はい、もしも~し」

「あ・・・今ちょっと大丈夫かな」

「あ、うん。大丈夫だよ。ちょっと仕事で使う資料をまとめてただけ。」

なんでこんなどうでもいい嘘をついたのかは自分でもよく分からない。




「あ・・・あのさ、その、なんていうか・・・」

なぜか妙に口ごもっていて彼の様子が変な気がした。



「う、うん」


え!まさか電話でプロポーズとかないよね。
どうせ明日会うんだから電話でなんか止めてよ。
でも結婚しようって言ってほしいような気もあって
自分でも心の整理がつかない状態になっていた。




「なになに、言うんだったらちゃんと言ってよ。」



「うん・・・もう終わりにしようと思うんだ。」


「え!・・・」

いったい何のことを言ってるのか理解できなかった。



「もう終わりにしよう。」


「・・・終わりにするって何が?」

本当になんのことを言ってるのか分からなかった。



「だからもう別れようってこと・・・」

「別れるって嘘でしょ・・・だって明日は私の誕生日でデートするって約束してたじゃん。」

「うん・・・ごめん。」

必死に涙を堪えながら言葉を絞り出す。

「ねぇ、私なんか怒らすようなことしちゃったかな? 嫌なところとか言ってくれれば私ちゃんと直すよ。ご飯がおいしくなかった? まだまだ彼女として未熟かもしれないけど私がんばるからさ。」

涙を堪えるのは限界だった。
一度涙が出ると止まらなくて嗚咽が電話に響いた。



「・・・」


「ねぇ? なんで?」


「・・・」


「ねぇなんとか言ってよ。答えてもくれないの? 好きな人でもできた?」



「・・・ごめん。」



「あ!分かった。今日がエイプリルフールだから私のこと騙そうとしてるでしょ。知ってる? エイプリルフールって嘘ついていいの午前中だけなんだよ。もう夜の10時だからダメなんだよ。残念でした~。」



「・・・ごめん。」



「ねぇ嘘なんでしょ。嘘って言ってよ。私が大好きなこと知ってるでしょ。こんなに好きなのに・・・こんなに好きなんだから別れるなんて嫌だよ。今なら私怒らないから、絶対に怒らないから嘘って言ってよ。」


「・・・」

彼はずっと黙ったままだ。



「別れたくないよ・・・私のことおいてどこ行くの。大好きなんだよ。一人にしないでよ。寂しいよ。行かないでよ!」


好きで好きで 想い溢れて 感情を抑えられなかった。


ただただ本当に一途にあなたのことが好きです。
そう伝えたかった。


「ごめん、とにかくそういうことだから。切るね。」



彼は一方的に電話を切った。




信じられなかった。


すぐに電話を掛け直したが電話を切られてしまった。

それでも何回も何回も掛けたがけして彼は出ることはなかった。



涙がとめどなく溢れて止まらない。


彼への怒りや憎しみといった感情ではない。
彼が別れようと思っていることに全然気づけなかった自分が許せなかった。
彼のことならなんでも知ってると思っていたし
言葉なんて交わさなくたって分かり合えてると思ってた。


昨日も夜にご飯を一緒に食べて、
いつものように笑っていた。
いつものように手をつないであなたが隣にいる幸せを感じていた。
それなのに・・・



いつから彼は別れを考えていたのだろう。
私はこんなに幸せな気分でいたのに彼は違ったんだ。
もう何が本当で何が嘘なのかすら分からなくなっていた。





泣いて泣いて泣いて


泣き疲れたとき


少しだけ夜風に当たりたくなって
近くの公園に出かけた。



公園に行っても頭に浮かぶのは彼のことばかり。

涙は枯れたと思ったのに、また涙が止まらなくなった。




そのとき突然の雨。

当然傘なんて持ってきてない。

降り始めた雨は勢いを増していく。

降り始めて5分としないうちにどしゃぶりの雨となった。


頬をつたるのは雨か、涙か、自分でも分からない。



ただその場に立ちすくんだまま動けなかった。






雨は30分ほどするとすっかり上がった。

ずぶ濡れになった体を気にすることもなく呆然としていた。




あなたとならば この世の果ても辛くないと思っていた。



あなたとならば、終わりはないと信じていた。



あなたとならば、・・・




嫌いになんてなれないよ。

だって今でも大好きなんだもん。


嘘って言ってほしいけど、こんな嘘をつく人じゃないって私が一番分かってる。




雨が上がって晴れてきた夜空を見上げながら思った。


ねぇ聞こえてるかな?

別れようって言われてから私ずっとずっと今まで嫌いになろうってがんばってみたよ。

でもね、やっぱり私にはそんなの無理だよ。

もしも願いが叶うなら時間を巻き戻して
またあなたと一緒に笑ったあのときに戻りたいって思っちゃう。

私ってほんとバカだよね。
よくバカだなって言われたなぁ。
あれは冗談かと思ってたけど本気で思ってのかも
とか今さらだけど思ってたら笑えてきちゃった。



私ね、幸せだったよ。

友達に言ったらまたバカって言われちゃいそうだけど、だって本当なんだもん。

あなたと出会わなければこんなつらい思いもしなくて済んだのかなってちょっとは思うけど、出会わなければこんな楽しい時間もなかったって思うとやっぱり幸せだと思うの。





徐々に気持ちの整理がついてきて落ち着いてきた。


ちょっとだけ期待して携帯を見た。

やはり彼からの着信はなかった。



「あ~あ、泣いてたらなんだかお腹すいてきちゃった。」

そう言うと携帯のアドレス帳にある彼の連絡先を削除した。



再び夜空を見上げるといつもより月が綺麗に見えた。

優しい月灯りは私の心をそっと慰めてくれるているかのようだった。




ありがとう。あなたに会えてよかった。