いやはや、何とも後味の悪い試合になってしまった。
西岡には 大事に至らない事を祈り一日でも早い 復帰を願っている。

事故には 「防げるもの」と「防げない」ものがある。もし、昨日の事故が 「4万8000人の大観衆で声が聞こえない」という事や 「一生懸命 打球を追っていた」という原因なら この先も このような事故は起こるだろう。

というか、このような事故は 過去にも頻繁に起こっている事になる。この事故の原因を お客さんがいっぱい入っている事や一生懸命プレーしている事のせいにしてしまえば 今後の教訓にすることは出来ない。

満員のスタジアムでプレーする事や全力プレーというのは タイガースやジャイアンツでは 当たり前のことである。また、そのような原因で片付けてしまえば 責任の所在もボヤけてしまう。

はっきり言うとこの事故の原因は 指導力である。常に 確認作業したり指示したりということを怠った結果、起こった事故なのだ。

野球は「声を出す」スポーツだ。そこには 大きく 3つの目的がある。

1つ目は モチベーションだ。
チームメイトに声を掛ける事によって相手を励ましたり、あるいは高校野球では よく使うのだが 自分の気持ちを上げたり 反対に落ち着かせたりする目的の為に使う。

2つ目は 確認だ。
よくランナーコーチャーの人がランナーに声を掛けているのが 確認作業の代表的なもので 「ワン、アウト」「ライナー、ストップ」というようにグランド内でもみんなで 確認作業をする。これは 野球において とても 大事な事である。もちろん、こうした確認作業にはフライが上がった時に 当事者同士で声を掛けるということも含まれる。

そして、3つ目は 指示である。
バント処理や中継プレーに於いて 「ファースト」「セカンド」とか、「もっと 腕を振れ」と投手に指示したり、フライが上がった時にも 周りの誰かが 指示をする。

声には このような目的がある。ところが 甲子園や東京ドームの大観衆の中では このような声がかき消されることがしばしばだ。ただし、そんな事は とっくの前から 分かっていることなので その為の対策はチームごとに立ててあるのだ。

それは 「優先権」だ。まず、甲子園の場合なら 浜風がキーになる。外野フライが上がった時の優先順位は レフト・センター・ライトの順である。同時に声を掛けたとき 両者とも捕球出来る時はレフトが一番の優先権を持つ。甲子園の浜風がレフト方向に吹いているので 左側にいる人が取りやすいからだ。しかし、時々、風の向きや強さが変わるので 常に 球場内の旗を見て確認している。

捕手と野手では「 野手」。野手の中でも 左側の人間が「優先権」を持つ。これがドームの場合では 外野手は まずセンターに「優先権」が与えられる。内野手と外野手では 外野手。捕手と野手では 野手。野手の中では マウンド付近は一塁手、その他のエリアは 右側が二塁手、左側が遊撃手、二塁手と遊撃手は 遊撃手。全てに於いて「優先権」が設定されている。

そして、守備位置の確認だ。昨日の試合の場合、打者が投手の大竹である。1・2塁にランナーがいるわけで 当然 福留も前進守備である。ここで 大事なのが 確認作業である。福留と西岡との間に 守備位置の確認や優先権の確認が出来ていれば この事故は防げた。とはいえ、選手の中には攻守に一喜一憂したりで、こうした細かな決めごとを忘れてしまうこともある。そこでこの確認作業を 口酸っぱく言う役目を背負うのがコーチの存在なのである。

「うるさい、わかってるよ」と選手が思うくらい言うのだ。ただ、こうした口酸っぱいコーチは煙たがられても必要なことを言い続けなければならないので、とかく嫌われがちだ。しかし、嫌われるコーチでないと 良いコーチとは言えないのも事実だ。

西岡は 福留との距離が分かっていれば あそこまで 深追いはしていなかったハズだ。また、常に 優先権や守備位置の確認をコーチから口酸っぱく言われていれば 野手同士がぶつかり合う、なんて みっともない事は起こらない。ただ、「優先権」や「守備位置の確認」が大切である、という根本的な事をタイガースの首脳陣が知っているかどうかは 分からない。

コーチとしてスキルの問題だ。そういえば、私がコーチ時代、守備コーチがそんな話を口酸っぱく選手にしているのを聞いたことがない。たまたま、私が聞いていなかった可能性もあるかもしれない。それは 定かではないが 今回の事故はこのような確認作業を怠ったから 起きてしまったことは間違いない。

1988年、ジャイアンツの吉村と栄村の事故の教訓を我々の時代は活かした。野球界全体で もう あのような事故が起こらないように「優先権」や「守備位置の確認」を徹底して再発防止に努めたのだ。あれから 26年、このような事故を起こさない為にはやはり 口酸っぱく言う事の出来るコーチの存在が必要不可欠なのだ。