この前、インフルエンザになった。
初夏にインフルエンザになる30代、激レアですよ。
インフル、きっつい。
熱ハンパないし、全身筋肉痛と倦怠感。
回復したりまたすぐ高熱が止まらなくなったりのループ。
しばらく寝込んでたんだけど、あるときふと後輩の言葉を思い出した。
ヤツの名は「伊藤」。
酒は強いし音楽にもまじめだけど、なんだかフラフラした痩せたメガネ男子だ。
もてないくせに女子と付き合うと亭主関白だから、俺は「関白」と呼んでいる。
そんな関白こと伊藤はことあるごとに俺に
「パズドラおもしろいっすよ」
「パズドラ大さんもやった方がいいっすよ」
「俺彼女いないっすけどパズドラが彼女っすよ」←これは言ってない
と言って来たものだ。
俺は全て黙殺して、これ以上言ったらむしろ撲殺すると決めていた。
ところが。
俺は伊藤が勧めるものは絶対に手をつけないと決めていたが、インフルエンザのあまりにヒマな時間に、禁断に一歩を踏んでしまった。
そう、パズドラをダウンロードしたのだ。
パズドラとはiPhoneなどで遊べるパズル型モンスター育成ダンジョンRPGという、もうなんだかわからないゲームだ。
俺はたぶんかなり遅れてはじめた部類に入ると思う。そんくらい流行している。
パズドラをダウンロードしてすぐ
「名前を入力してください」
と出た。
…ほう、ではここは俺の大好きな大好きなあいつの名前にしよう。
「いとうゆうすけ」
と関白伊藤のフルネームを俺のパズドラネームにした。
で、いざ始めたらパズドラ。
…めちゃくちゃ面白い。
なんだこれ。はまるわ。
気付いたらふとしたときにやってしまう。
ただ課金だけはしない。
課金だけは絶対にしない。
伊藤が課金しているから絶対にしない。
あいつは馬鹿だ。その金で彼女を作るために街コンに行け。
ともかくパズドラを始めた。
ある時自分のパズドラのIDをFacebookに公開したことがあった。
するとそれを見た友達は自分にフレンド申請を出来る。
フレンドになった友達は、ゲーム内でも敵を倒すときに協力してくれるのだ。
1日後、俺に友達申請してきたやつの中にへんな名前がいる。
詳細は伏せるが、間違いなく伊藤であろう名前だ。
仕方がねーから友達になってやるか、と思って承認をした。
そしてその数時間後、とあるダンジョンのクリアのために友達の協力を仰ぐことに。
仕方がねーから伊藤に手伝ってもらうか、と思って伊藤(の育てたモンスター)を連れて行った。
…
…
伊藤のモンスター、超つえー。
俺は思わず感動してしまった。
これが!
半年以上!
彼女も作らずにパズドラとのみ触れ合ってきた!
孤独な男の!
魂の作品か!!!
そう思うと泣けてきた、というのは全くのうそで無感情に「伊藤つえー」と鼻くそをほじりながらゲームを続けた。
とにかくそのダンジョンは伊藤のおかげでクリアした。
あれから数日、パズドラをやって。
気付いたことがある。
俺は伊藤のモンスターの協力なしではどんなダンジョンもクリアできない。
無力。
いつもいつも伊藤に力を借りている。
いつも俺が上から目線でバーカみたいなニュアンスで接してきた伊藤の力を借りている。
今、伊藤に謝りたい。
パズドラ絶対にやらないって言ってごめんなさい。
それなのに始めてごめんなさい。
あといつもバーカとか彼女作れとか高円寺の街コンでいい女探せ横でずっと俺にやついて見てるからとか言ってごめんなさい。
あといつもダンジョンで助けてくれてありがとうごめんなさい。
伊藤くん、ありがとう。
ロマンス!