■主審:ハワード・ウェブ(ENG)
採点:3
TV画面に主審であるハワード・ウェブと話をする西村雄一の姿が映し出された。“レフェリー 知られざるサッカーの舞台裏”で放映されたように、第四審判も主審とコミュニケーションシステムで話をする。時には、主審にとっては重要ではない情報を与えてしまい注意されたり。だからこそ、主審がなにを求めるのかというのも理解することも重要になる。このシーンを見る限り、二人のコミュニケーションに問題はなさそうだ。
それにしても、まさか日本人がジュールリメ杯とピッチ上で交わる所を、生きている間に見られるとは思わなかった。今大会、西村が残した軌跡は、日本の歴史を変える偉大なものとなった。尊敬の念を抱かずにはいられないし、Jにそこで学んだものを還元して欲しい。一方で、‘西村だから判定は間違っていない’にはせず、しっかりとレフェリングも見て欲しいとも思う。
ピッチに選手たちが入っていった時点で、視点はハワード・ウェブに切り替わる。プレミアリーグというやや特殊な基準出身の彼がどのようにレフェリングをしていくか。
47秒、足を蹴る格好になったファンペルシーのファウル。1分にもイニエスタの足に影響したためファウルをとる。3分にもセルヒオラモスへのファウルをとるなど、プレミアリーグらしからぬ丁寧なレフェリングをする。前回の割り当てとはうってかわったように、やはり試合のテンションを考えているのだろう。素晴らしい判断だ。
とは言え、影響がないものやファウルを貰いにいくプレーは、絶妙なポジションから‘見ていたよ’というジェスチャーで流していく。
11分、セルヒオラモスが素晴らしいシザースでPA内を突破。すると、オランダ選手は手を掴もうとするが、まったく影響されずシュートをはなつ。これぞ、日本の育成年代に必要なプレーだ。解説にはもっとフォーカスして欲しかった。
15分、足にスライディングする格好になったファンペルシーに警告。注意ですませてうやむやにしない毅然とした対応だ。16分、ロッベンに裏からスライディングタックルする格好になったプジョルに警告。22分、イニエスタの太ももにハードタックルしたファンボメルに警告。
23分、カイトの足にスライディングしたということでセルヒオラモスに警告。これは足に入っておらず、少し厳しく感じる。
24分のプジョルのロッベンへのチャージはボールに対するプレーということでノーファウル。25分、スナイデルのホールディングをしっかりととる。
28分、アロンソに前蹴りをしたデヨングのファウルを迷わずとる。退場でもおかしくないが、意図はないという判断から警告で収める。
41分のスナイデルのアタックはボールに対するプレーということで、注意で収める。48分のシャビアロンソとのコンタクトは互いにボールにいっているためノーファウル。なによりシャビアロンソも‘ノーファウルだろうな’という感じで主審に目もくれず、ポジションに戻っていった。これぞタフなプレーだ。
54分、ワンツーで抜けようとしたセルヒオラモスを手でとめたファンブロクホルストに警告。56分、アドバンテージで流した後に、送れてビジャにアタックしたヘイティンガに警告。67分、裏に抜けようとした所をひっかけたカプテビラに警告。73分、遅れてイニエスタにアタックしたヘイティンガのファウル。
78分、イニエスタがプレー後、少しアタックするとオランダ選手が大げさに倒れる。ウェブ主審は最初気付かなかったようだが、副審か第四審判からの助言でファウルをとる。警告かと思われたが、警告まではいかないということで注意で収める。カードが必要だったかは別として、審判チームとして機能したシーンだった。
82分、抜け出したロッベンをプジョルが一瞬、手でとめようとするが、ロッベンはこれを弾き飛ばす。これをロッベンには影響していないと判断し、ノーファウル。ロールバックも当然なし。
アドバンテージをとるべきだったか。影響していないという判断で良いか。議論できる判定といえる。
この判定に対する異議でロッベンに警告。
延長に入り92分、シュートするシャビの足に入ったようにみえたが、ボールに対するフィフティなプレーということでノーファウル。ボールにプレーできておらず、PKに感じるが、今日の簡単にはPKをとらないという基準もあり、ギリギリ裁量内の判定といえるかもしれない。
109分、イニエスタが抜けようとした所を引っ張ってとめたヘイティンガに警告。2枚目で退場に。110分、イニエスタを遅れて引っ掛けたファンデルフィールに警告。
112分、笛が鳴った後にロッベンがボールを蹴ってしまう。カードかと思われたが、注意で収める。
115分、スナイデルのFKがワンタッチするが見逃してしまう。
116分、ゴール後、副審に異議を唱えたマタイセンに警告。また、ユニホームを脱いだイニエスタにも警告。120+1分、遅延行為でシャビに警告。
試合後、ハワード・ウェブ主審の下には、握手ではなく、異議を唱える選手たちが集まった。おそらくゴールシーンの一つ前、トーレスのクロスに反応したイニエスタがオフサイドだという異議だろう。特に今大会は副審の誤審が多く、ゆえに選手も疑心暗鬼になってしまっている。試合後の光景は、今大会の審判団の総括、副審が信頼を失っているというあらわれに見えた。
とは言え、試合のレフェリング自体は試合に影響のないものといえるだろう。カードが多かったのは、選手自身が‘一枚ならOK’と割り切っていた部分が大きい。もちろん、他にコントロールの仕方がなかったとは言わないが、充分、拍手に値するレフェリングだったと思う。
08年の欧州選手権ではポーランドの首相から批判を受け、割り当てもわずかなものとなった。それでもこの舞台まで上りつめたハワード・ウェブ。
以前、【審判の判定全てを非難するのではなく、ミスとなった判定を非難する。また、試合の流れを変えてしまうようなミスでなければ、選手と同じで槍玉にあげる必要もないと思う。一度大きなミスを犯した審判だから全てが違うという理論は笑いものにしているのと同じだ。】と書いたのは、このようなことがあるからだ。
主審をどう評価するか。そんなことを考えさせられる試合だったのではないか。
~採点基準~
5:彼なしに試合はありえなかった
4:普通に試合を終わらせた
3:ミスにも見えるシーンがあったが、試合に影響はなかった
2:試合に影響はなかったかもしれないが、カード・得点に対する微妙なシーンがあった
1:ミスから試合の流れを変えてしまった
0:試合を壊してしまった