しんしゃく源氏物語 稽古場より | 谷口礼子オフィシャルブログ「じゃこのおもしろいこと」

演劇にせよ映像にせよ、作り手側が作品のことを「コメディ」とか「悲劇」とか、自分でくくるのはどうなのかと、以前とんがっていたときに思っていました。

なんとなく、「コメディやっているんですよ。」とか「今回は悲劇の物語です」とか言ったり宣伝したりすることが、あまり好きではなかったというか。それは、そうやってひとくくりにしているところに限って、観に行くと「コメディなんで笑わせます!」「悲劇なので涙を流していただきます」というような押しが強くて、いやいや、人間は自分を面白いと思って失敗を繰り返したり、人の感動を誘おうと思って大変な運命に飛び込んだりなんてしないでしょ。と、冷めた気持ちになることが多かったからかもしれません。

しかし、私も年を重ねるうちに知りました
観に来る方は、いったいどんな作品なのかを前もってある程度知りたいものなんだと。
「あらすじはないの?」「どんな話なの?」
そういう言葉をいただく時、あれは便利だと気づいたのです。
「今回は、コメディなんです」「古典なんです」「シリアスな悲劇です」
そして、だんだん、そうやって自分の関わる作品を、一言で表すことに、慣れてきていたのかもしれません。

……と、今日突然思ったのは、
今回携わっている「しんしゃく源氏物語」が、一言で表せない作品だと感じたからでした。
コメディでもあり、古典でもあり、でも現代的アレンジもされているし、笑えるけどなんかしんみりするし、なさけなくもあるし。

舞台は平安時代。登場人物も平安時代の姿で登場して、みんな一生懸命に生きているけど、その一生懸命で一途でまっすぐな姿が、笑えるし、泣けてしまう。
スマホもメールも電話もない時代の人って、自分の想いを伝えるのに、もしかしたら今より素直に、直球勝負で全力を出していたのかもしれない、と思ったのです。

この作品の原作は70年以上前に書かれた作品で、源氏物語を下敷きにしたオリジナルのストーリーですが、これまで多くの人たち(それこそ、高校生から社会人劇団、プロの俳優まで)がこの言葉を話してきたことを考えるだけでも、なにか、ジーンとこみあげてくるものがある。
そういう意味では、もう、古典でもあるわけです。

一生懸命、まっすぐに、ときには意地悪な気持ちにもなりながら、何かを信じたいけど信じられない、信じているけど疑ってしまう、という気持ちの揺れを抱えながら、人と人が支え合ったり影響を与え合いながら生きているというだけで、それはコメディでもあるわけです。

なんだろう。この気持ち。この作品のことを一言でくくりたくない。それだけ、複雑で、だからこそ面白いものが詰まっていると思うのですが、どうでしょう。
わかりやすくて簡単なもののほうが、今の世の中に好まれるということは重々わかっているのですけれど、どうか、人間ってもっとグラデーションで、だから面白いんだって感じる方にこそ、この作品を観に来てほしいなと思ったのです。

あー!
届きますように。





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ふでの会 プロデュース公演
『しんしゃく源氏物語 ―末摘花の巻―』
2022年12月7日(水)~11日(日)
中野・テアトルBONBON
[谷口礼子扱い 予約フォーム]
https://www.quartet-online.net/ticket/fudegenji?m=0efbejj