俺達のプロレスラーDX
第20回 拝啓 ブルーザー・ブロディ様/ブルーザー・ブロディ
拝啓 ブルーザー・ブロディ様
あなたがこの世を去って四半世紀が経ちました。
今回、私は天国のあなたに捧げるために手紙を書きます。
数々の激闘を繰り広げた唯一無二の怪物であるあなたは私の神でした。
私があなたに出会ったのは1992年。
今や廃刊になっているプロレス雑誌の記事。
その記事は「ブロディ事件から4年…その真相は?」という内容でした。
出会った時からあなたはもうこの世にはいなかったのです。
その時にあなたの経歴やグラビアを観ました。
プロレス雑誌発売当時三冠ヘビー級王者だったスタン・ハンセンや"スーパーフライ"ジミー・スヌーカと組んで世界最強タッグ決定リーグ戦に優勝していたことや新日本にスーツ姿で乱入したことが記されておりました。
それからすぐのことです。
当時三冠王者だったスタン・ハンセンが田上明を破り防衛を果たした試合後、あなたの名前を出したのです。
涙を浮かべながら「ブロディのために負けられなかった」と話したのです…
ハンセンが涙を浮かべながらそこまでいうブロディとはどんなレスラーなのか?
私はあなたがどんなレスラーなのかを探究することにしました。
調べていくにつれてあなたは偉大で知的、革新的なレスラーだったと知るのです…
あなたは1979年に全日本プロレスに初来日。
タッグながらあの御大ジャイアント馬場からピンフォールを奪う異例の扱いを受けます。
またプロレス界に「革命」という概念を持ち込んだのはあなたが初めてでした。
毛皮のベストとリングシューズを身にまといチェーンを振り回し、モーゼの「十戒」の如く観客が群がる花道を荒々しく切り開く。
「ワウッ、ワウッ!」というブロディシャウト…
どれもオリジナルでした。
あなたの試合スタイルはパワー&テクニック&インサイドワークを駆使した独特なもの。
インテリジェンス・モンスターとはよく言ったものです。
野性と知性の融合…
それが超獣と呼ばれたあなたでした。
あなたは怪物でありながら何故知性的なのかの理由もわかります。
あなたはレスラーになる前は新聞記者だったんです。
そこで培った批評精神があなたのスタイルを形成させたのだと私は思ってます。
「プロレスには様々な要素があるが大きく分けるとフィットネス、クレバー、タフネス、テクニック、ハイ・スピリットの5つになる。
私はそのすべての要素を満たしている」
あなたの言葉です。
完璧主義者なゆえにブッカー、対戦相手とのトラブルも絶えません。
ブロディという商品価値とそれに耐えうる対戦相手、ブロディを懐柔しようとするブッカー達との見えない戦いはあなたが亡くなるまで続きます。
「僕が見たビートルズはテレビの中」(斉藤和義)という歌が日本にはあります。
この歌に準えると「僕が見たブロディはテレビの中」でした。
あなたのさまざまな激闘を観ました。
その中で印象に残っている試合があります。
1988年3月全日本でのインターナショナルヘビー級戦。
あなたは一度離脱した全日本のリングにいました。
自らライバルと認めたジャンボ鶴田に挑戦するために。
試合はあなたが定義したプロレス5大要素を満たした激闘でした。
試合は得意技であるキングコングニードロップであなたが勝ちました。
対角線コーナーから猛ダッシュして決めた渾身の一撃でした。
自らが長年巻いていたインター王座を奪還。
そして試合後、異変が起こるのです。
あなたは右腕を天高く突き上げたのです。
強さを誇示するためではなく、うれしさのあまりに右腕を突き上げていたのです。
なんと目には涙で溢れてました。
超獣の涙、私はこの試合しか見たことはありません。
試合後もあなたはうれしかったのでしょう。
ロード・ブレヤースPWF会長や、トロフィーを渡しにきた立会人にも抱きつきました。
「ブロディ」コールの雨に包まれる武道館。
あなたは驚きの行動をします。
リング下に降りたあなたはリングサイドのファンに次々に抱きついたのです。
ファンと一緒に咆哮を上げ、よろこびを共有。
いつの間にかファンが作った紙吹雪が舞っていました。
なんて素晴らしい光景なのでしょう。
私がプロレスを見た中で最も感動的で美しい光景はあの日のあなたの姿でした。
ブロディ革命を叫び、完璧主義者であるはずの超獣が、うれしさのあまりに人間に戻ったあの姿は神々しかったのです。
しかし、運命とは皮肉なものです。
4か月後の1988年7月にあなたはプエルトリコでブッカーのホセ・ゴンザレスに会場控室内で腹部をナイフで刺されてしまい、亡くなってしまいます。
無念だったと察します。
あなたの死後、プロレス界は大きく変わりました。
盟友ハンセンは引退し、ライバル鶴田も天国に旅立ちました。
ただあなたの雄姿は我々に今も残り続けています。
あなたは以前このように語ってます。
「あのスタイルはプロレスを初めて見る子供やお年寄りに『あのチェーンを振り回す奴は誰だ』という印象を与えるためである。
また自らの気持ちとファンの気持ちを高めることができるのだ」
あなたがいうブロディ革命とはもしかしから自らがリングを去っても断片になってでも生き続けることではなかったのかと考えるようになりました。
あなたの革命とはリング内外だけではなかった。
それはあなたが亡くなって20年ほど経った全日本のリング。
そこで三冠王者に君臨していたのは鈴木みのるという選手です。
あなたが亡くなる1か月前に新日本でデビューしたレスラーです。
鈴木は三冠のベルトをまるであなたが入場するときにやるチェーンを振り回すような扱いをしていました。後に鈴木はその振る舞いにはあなたの影響があったと語ってました。
試合スタイルや歩んだ道も全く違う鈴木みのるというレスラーにもあなたは影響を与えていたのです。
このエピソードが全てを物語っています。
ブロディ革命は永久に続くのです。
最後になりますが、私は今後もあなたとはどんなプロレスラーだったのかを探究します。
これはプロレス考古学の世界です。
あなたのおかげでプロレスがもっと好きになりました。
いつかあなたのような存在が再びこの世に生を受け、プロレス界に現れたとき。
それは紛れもないブロディ革命第2章の始まりなのです。
あなたは特別です。
なぜならあなたは"神"なのですから…