プロレスをノベライズする瑞佐富郞さんの世界〜「平成プロレス30の事件簿」おすすめポイント10コ〜 | ジャスト日本のプロレス考察日誌

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恒例企画「プロレス本を読んで感じたおすすめポイント10コ」シリーズ32回目です。このシリーズはライターの池田園子さんが以前、「旅とプロレス 小倉でしてきた活動10コ」という記事を書かれていまして、池田さんがこの記事の書き方の参考にしたのがはあちゅうさんの「旅で私がした10のことシリーズ」という記事。つまり、このシリーズはサンプリングのサンプリング。私がおすすめプロレス本を読んで感じたおすすめポイント10コをご紹介したいと思います。

この企画は単行本「インディペンデント・ブルース」発売以降、色々と試行錯誤してましてブログ運営における新しい基軸となったと思っています。今後もさまざまなプロレス本を読んで知識をインプットしてから、プレゼンという形でアウトプットしていきます。よろしくお願いします!


さて今回、皆さんにご紹介するプロレス本はこちらです。





平成プロレス 30の事件簿 (知られざる、30の歴史を刻んだ言葉と、その真相)/瑞佐富郎【スタンダーズ】


内容紹介

プロレスにとって<平成>とは何だったのか?

新日本プロレス初の東京ドーム大会(1989)に始まり、UWF3派分裂(1991)、
新日本vsUWFインター全面戦争(1995)、髙田延彦vsヒクソン・グレイシー(1997)、
アントニオ猪木引退(1998)、小川直也vs橋本真也“1.4事変"(1999)、ジャイアント馬場死去(1999)、
NOAH旗揚げ(2002)、WJプロレス旗揚げ(2003)、「ハッスル」ブーム(2004)、
三沢光晴死去(2009)、「ALL TOGETHER」開催(2011)、天龍源一郎引退(2015)、
高山善廣頸髄損傷(2017)、中邑真輔WWEタイトル挑戦(2018)……。
30年間に渡る激動の平成プロレス史を、名ゼリフ、名シーンを手掛かりに、
『泣けるプロレス』シリーズの著者がその真実の姿を描き出す、渾身のノンフィクション。


著者について

瑞 佐富郎(みずき・さぶろう)
愛知県名古屋市生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業。
シナリオライターとして故・田村孟氏に師事。
フジテレビ『カルトQ・プロレス大会』優勝を遠因に、プロレス取材等に従事する。
本名でのテレビ番組企画やプロ野球ものの執筆の傍ら、会場の隅でプロレス取材も敢行している。
著書に『新編 泣けるプロレス』(standards)、
執筆・構成に関わったものに『告白 平成プロレス10大事件 最後の真実』
『証言UWF 最後の真実』(ともに、宝島社)などがある。


 

 



今回は2018年にスタンダーズさんから発売された瑞佐富郎さんの「平成プロレス30の事件簿〜知られざる、30年の歴史を刻んだ言葉と、その真相〜」をご紹介します。


平成をテーマにしたプロレス本で、非常に興味深かったので、読ませていただいて特に印象に残ったところをクローズアップしつつ、この本についてプレゼンさせていただきます。



★1.著者・瑞佐富郞(みずきさぶろう)さんとは?

この本の著者である瑞さんといえば、名作「泣けるプロレス」シリーズの著者で、かつては伝説のクイズ番組「カルトQ」のプロレス大会で優勝した経歴の持ち主です。

本名でテレビ番組企画やプロ野球関係の執筆もこなすマルチな才能がある方です。

そんな瑞さんが書くプロレス作品の特徴は、カルトQで優勝するほどのプロレス知識が中心となっています。とにかく「ここまで知っているのか」「こんなことを覚えている人はいないだろう」というマニア心をくすぐってくれるのが瑞さんの文章です。

こちらの瑞さんの文章についてのフカホリは最後に取り上げていきたいと思います。

★2.平成元年(1989年)
<新日本プロレス、初の東京ドーム大会開催>
「怖かった。俺の力も衰えたということかな…」
アントニオ猪木

ここからはこの本で取り上げられている数々の平成プロレス事件簿の中で印象に残った記事をクローズアップしていきます。

これがめちゃくちゃ面白いんですよ。
私は1992年(平成4年)にプロレスファンになったので、それ以前の話は知識はあってもリアルタイムで観ていないので、こと細かい話に関しては知らない場合があったりします。

この記事では「マサ斎藤、渡米」(1988年)というニュースなんて知りません。しかもこれはフェイクニュースで実は内密にソ連入りしていたのを隠すためのものだったとか。

新日本がソ連国家スポーツ委員会との契約に合意したニュースがNHKで流れたとか、当時全日本プロレスの天龍源一郎参戦が噂されていたとか…もしリアルタイムで観ていたらこの初の東京ドーム大会についても違った見方をしていたでしょうね。とにかくもう少し早くプロレスファンにはなりたかったものです(笑)

そして当日券を買うために徹夜で東京ドームで待つファンに田中秀和リングアナが中心となって温かい缶コーヒーが差し入れたというエピソード、この行為を第二次UWFが崎にやっていたという二つの話は徳光康之先生の伝説漫画「最狂超プロレスファン列伝」でも登場します。

だがこの本ではそのさらに先を行きます。この缶コーヒーの差し入れに、当時新日本の営業マンだった中村祥之さんが「前売り券が余っているのだから、この場で売ればいいのに…」と内心で思っていたそうで、現実はハートウォーミングとはいかないものです。


そしてこの回では、初の東京ドーム大会のメインイベントとなったアントニオ猪木VSショータ・チョチョシビリのあまり知られていないエピソードが飛び出します。初めて異種格闘技戦でソ連の柔道王・チョチョシビリに敗れた猪木はうっすらと涙を浮かべていましたが、そんな猪木を見た勝者のチョチョシビリが泣いたのです。猪木の涙を見て自然と出た涙だったといいます。

ひとつの出来事で知られている話と知られていない話が交錯し、どこかクライマックスに向けてリンクしていくのが瑞さんの作風なのかなと思います。

★3.平成2年(1990年)
<三沢光晴、タイガーマスクを脱ぐ>
「三沢が泣いていますよ!」
竹内宏介(週刊ゴング編集人)

さて、三沢が2代目タイガーマスクのマスクを脱ぎ、ジャンボ鶴田戦のチャンスを掴み大金星を収めたあの奇跡。ここの一連の三沢劇場を瑞さんはどう取り上げるのか。

いきなり瑞さんが持ち込んだのは、なんとジャイアント馬場が試合の入場時に腕時計をつけてリングインしてしまったというかなりのマニアックなオールドファンじゃないと知らないエピソード。ちなみに私はこの話を知りませんでした。

そしてここで瑞さんは三沢が鶴田戦に向けてどのような日々を過ごしてきたのか、あらゆる角度から伝えてくれています。特に「鶴田さんを倒す。期待していいですよ」というコメントがあるんです。確か三沢VS鶴田が初めてVHSソフトで収録されたもので、このコメントが出てくるんです。私は鶴田との前哨戦の試合後に言ったものだと思っていましたが、この本で後楽園大会の試合前のシンポジウムで言ったコメントだったことがわかりました。

歴史に残る三沢劇場。それでも私が知らない話がまだまだあったりします。プロレスは本当に奥が深いです。


★4.平成6年(1994年)
<ジュニアヘビー・オールスター「SUPER J-CUP」スタート>
「これからもこんな素晴らしい日は来ないだろう」
ワイルド・ペガサス

さてここからは私がプロレスファンになってからリアルタイムで知る出来事です。あのジュニアヘビー・オールスター戦「SUPER J-CUP」は大成功した伝説のプロレスイベントですよね。あれは百点満点ですよね。このイベントを運営したプロデューサーの獣神サンダー・ライガーが興行後に、新日本レスラーズが「よくやった!」と拍手で出迎えてくれ、達成感もあい重なり男泣きしたという話は有名ですね。

この大会を見たのは日本のファンだけではない。海賊版の映像を見た海外のファンもいた。

AJスタイルズ「ビデオテープを擦りきれるほど見た」
リコシェ「プロレスラーに憧れた理由のひとつ」

今や世界のスーパースターとなった男たちを夢中にさせたのが「SUPER J-CUP」でした。

この回では、ジュニアヘビー・オールスター戦のきっかけとなった日刊スポーツ発行のプロレス雑誌「爆闘プロレス」の4団体10人のジュニア戦士座談会について触れています。「爆闘プロレス」、懐かしいなぁ(笑)二冊ほど買ったことありますねぇ(笑)爆闘プロレスはとにかく、写真の質がめちゃくちゃ高いんです。しかもA4タイプでカラーページも多い。AERAのようなタイプの雑誌だったですね。

ちなみにライガーが「SUPER J-CUP」を開催する原動力となったのが1979年8月26日の東京スポーツ主催「夢のオールスター戦」だったそうです。

そしてこの大会の初代覇者となったのがワイルド・ペガサス…そう後にWCWとWWEでスーパースターとなったクリス・ベノワでした。試合後、ベノワが満面の笑みで「人生最高の日」と語ったのは感動しましたね。彼の人生は最後に悲劇を迎えるので、このコメントが余計に心に響きますね。


★5.平成11年(1999年)
<前田日明、引退>
「カレリンは、私にとってのゼットンでした」
前田日明

前田日明引退試合となった五輪レスリング三連覇アレクサンドル・カレリン戦。カレリンは人類最強の男と呼ばれた規格外のレスリング・モンスター。ここは是非読んで確認してほしいですね。リングス・ロシア代表のバコージンがカレリンを前田戦実現のために説得するシーンなんて感動して泣けますね。


★6.平成15年(2003年)
<長州力「WJ」旗揚げ>
「選手の不満が渦巻いている。文字通りのマグマだよ」
谷津嘉章

時代はミレニアムの2000年、そこから2001年となり21世紀を迎えます。プロレス界も劇的に変わっていきます。全日本は大量離脱が起こり、三沢光晴を中心とした大多数メンバーはプロレスリング・ノアを旗揚げ、橋本真也が新日本を離脱し、ゼロワンを旗揚げします。そして全日本はなんと新日本を離脱した武藤敬司が新社長になるとんでもない事態。そんなカオスな状況で生まれたのが新日本を離脱した長州力を中心とした新団体WJプロレスでした。あの伝説のズンドコ団体を瑞さんはどう描くのか?


そこはただのズンドコエピソードでは終わらせません。WJから繋がる数々のエピソードが飛び出します。

平成の仕掛け人・永島勝司さんの「時間をかければ、桑の葉も絹に変えられる」という言葉がやけに残るコラムでしたね。

★7.平成16年(2004年)
<エンターテインメントプロレス「ハッスル」誕生>
「明日は坂田が負けて、自ら髪の毛を刈る予定です」
「ハッスル」のスタッフ


個人的にインサイダーの情報が読めたのがハッスルの回。実は瑞さんはハッスル携帯サイトの仕事を手伝っていたことがあり、上記のコメントも実際に彼が聞いた話。瑞さんは「自前の選手を出さないと感情移入は難しいと思います」「ハッスルのネタは従来のプロレスが元になったものばかり。これじゃプロレスファンにしかわからない。しかも茶化しが入ってるから、ソッポを向かれている。もっと一般社会を反映させてみれば」とハッスル運営に進言したが、却下されたそうです。

そして面白いのがハッスルが新日本に参戦した2004年11月の大阪ドーム大会での実況席での隠れたエピソード。実況の吉野真治アナウンサーがかなり過激にハッスルを糾弾していたのですが、これには理由があるそうです。これは痺れましたよ!!やっぱり新日本プロレスというのは放送する側もストロングスタイルなのかもしれませんね。詳しい内容はこの本を読んで確認してください。


★8.平成29年(2017年)
<高山善廣、頸髄完全損傷>
「俺なんてどうでもいいんで、皆さん、力を貸して下さい」
鈴木みのる

平成も終盤に突入します。平成初期にデビューしたレスラーも20年戦士に。思えば1992年にデビューした高山選手は平成の怪物でした。そんな彼の盟友といえば、鈴木みのる。時にはタッグを組み、時には血まみれになるほど殴りあった仲。

高山が半身不随の大怪我を負い、この怪我が完治しないものだと記者会見で発表されたとき、涙ながら高山の支援をお願いしたのが鈴木だった。鈴木軍で悪の限りを尽くす男がその顔を捨ててまで盟友のために動く姿に多くのプロレスファンは感動しました。


そんな高山と鈴木のアナザーストーリーがこの本で読めます!


★9.平成30年(2018年)
<中邑真輔、レッスルマニアでWWE王座に挑戦>
「プロレスは、言葉以上のメッセージ」
中邑真輔

この本を締めくくる回は中邑真輔。平成から令和になる境目に、なんとWWE最大の祭典レッスルマニアでWWE王座に挑戦する日本人レスラーが出現する時代に突入。

中邑の歩みを多角的に伝えながら、「プロレスは、言葉以上のメッセージ」という中邑の言葉に結びつける瑞さん。そこに心と行動の真実を追う書籍というこの本のテーマが浮かび上がります。


★10.プロレスの歴史をノベライズする知識のデータバンク瑞佐富郞さんの世界

さて、最後は瑞さんの文章についてフカホリしたいと思います。

瑞さんの文章は週刊プロレスや週刊ゴング、週刊ファイト出身の活字プロレスの文章とは異なる世界観があります。

取り上げるテーマとはあまり関係ないのではという話を冒頭で持ち出して、回り道をさせていき、最終的に伏線回収していくというこのパターンが本当に多いんです。

瑞さんはシナリオライターの田村孟さんに師事していたことがあるんですが、そのバックボーンが生きている文章なんです。


そこを踏まえて読むと瑞さんの文章には、シナリオっぽく見えるんです。

ノベライズという言葉があります。古典文学、音楽、映画、漫画、ドラマ、ゲームなどを小説化することをいいます。私は以前ノベライズ本を何冊か読んだことがあるのですが、この世界観が瑞さんの文章にはあるんです。


そして、瑞さんはプロレスという歴史をノベライズして文章としてまとめているのかもしれません。


そして私はプロレスブログを開設する前から読者として「泣けるプロレス」を愛読し、瑞さんの文章に触れてきました。私の文章において瑞さんから受けた影響は大きいです。さまざまなライターさんからインスパイヤされましたが、瑞さんからはまるで小説を読んでいるかのようなストーリー性豊かなところを学びました。今だから言えますが、私は瑞さんのファンです!




プロレスをより深く知りたい皆さんにおすすめできる本だと思います。

 

 


素晴らしい本です!是非チェックお願いします!