虚実皮膜の怪物レジェンド10~「忘れじの外国人レスラー伝」おすすめポイント10コ~ | ジャスト日本のプロレス考察日誌

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恒例企画「プロレス本を読んで感じたおすすめポイント10コ」シリーズ35回目です。このシリーズはライターの池田園子さんが以前、「旅とプロレス 小倉でしてきた活動10コ」という記事を書かれていまして、池田さんがこの記事の書き方の参考にしたのがはあちゅうさんの「旅で私がした10のことシリーズ」という記事。つまり、このシリーズはサンプリングのサンプリング。私がおすすめプロレス本を読んで感じたおすすめポイント10コをご紹介したいと思います。

この企画は単行本「インディペンデント・ブルース」発売以降、色々と試行錯誤してましてブログ運営における新しい基軸となったと思っています。今後もさまざまなプロレス本を読んで知識をインプットしてから、プレゼンという形でアウトプットしていきます。よろしくお願いします!


さて今回、皆さんにご紹介するプロレス本はこちらです。


カール・ゴッチ、ザ・デストロイヤー、アンドレ・ザ・ジャイアント、ビル・ロビンソン、ダイナマイト・キッド、テリー・ゴーディ、スティーブ・ウィリアムス、バンバン・ビガロ、ビッグバン・ベイダー、ロード・ウォリアー・ホーク――。
昭和から平成の前半にかけて活躍し、今はもう永遠にリング上での姿を見ることが叶わない伝説の外国人レスラー10人。
本書は今だから明かせるオフ・ザ・リングでの取材秘話を交え、彼らの黄金時代はもちろんのこと、知られざる晩年、最期までの「光と影」を綴る。

◆目次◆
第1章 “神様”カール・ゴッチ
第2章  “白覆面の魔王”ザ・デストロイヤー
第3章  “大巨人”アンドレ・ザ・ジャイアント
第4章  “人間風車”ビル・ロビンソン
第5章  “爆弾小僧”ダイナマイト・キッド
第6章  “人間魚雷”テリー・ゴーディ
第7章  “殺人医師”スティーブ・ウィリアムス
第8章  “入れ墨モンスター”バンバン・ビガロ
第9章  “皇帝戦士”ビッグバン・ベイダー
第10章  “暴走戦士”ロード・ウォリアー・ホーク

◆著者略歴◆
斎藤文彦(さいとう ふみひこ)
1962年、東京都杉並区生まれ。プロレスライター、コラムニスト、大学講師。
オーガスバーグ大学教養学部卒業、早稲田大学大学院スポーツ科学学術院スポーツ科学研究科修了、筑波大学大学院人間総合科学研究科体育科学専攻博士後期課程満期。
在米中の1981年より『プロレス』誌の海外特派員をつとめ、『週刊プロレス』創刊時より同誌記者として活動。
海外リポート、インタビュー、巻頭特集などを担当した。著書は『プロレス入門』『昭和プロレス正史 上下巻』ほか多数。


2020年11月に出たばかりの新作!集英社さんから発売されました斎藤文彦さんの「忘れじの外国人レスラー伝」をご紹介します。

斎藤さんの本はこの企画でも度々取り上げていますが、集英社さんから新書という形で出るということでどうしても気になりまして読ませていただくとこれがまた素晴らしい作品でした。

この「忘れじの外国人レスラー伝」をなるべくネタバレ少なめにおすすめポイントをプレゼンしていきます。よろしくお願いいたします!


★1.プロレスライター斎藤文彦さんの爽やかな世界観がより分かりやすく新書で読める!

まずこの本の著者である斎藤文彦さんについて、改めてになりますがご説明します。

斎藤文彦さんはプロレス評論家、プロレスライターとして活躍されています。通称はフミ・サイトー。長年週刊プロレスで記者、編集で携わり、コラム「ボーイズはボーイズ」は人気連載でした。WWE(当時WWF)やWCW、ECWの日本語映像版VHSの制作や解説も担当されました。週刊プロレスで外国人レスラーの取材となると斎藤さんが担当している印象が強かったです。また、スポーツ社会学、メディア文化論専攻の大学講師もされています。そんな斎藤さんはプロレス本も数多く執筆されています。

この本では斎藤さんの魅力をより分かりやすく抽出しているという印象があります。これは編集や製作サイドが今までの斎藤さんの読者層よりも広めに設定しているのだろうなと感じました。

斎藤さんのあの爽やかな世界観がある文章を新書で読めてしまう。そう考えるとなかなかレア作品かもしれません。


★2.伝説の外国人レスラー10人の生き方が分かる!

この本は天国に旅立った10人の外国人レスラーの生涯をまとめた作品です。

“神様”カール・ゴッチ、“白覆面の魔王”ザ・デストロイヤー、“大巨人”アンドレ・ザ・ジャイアント、“人間風車”ビル・ロビンソン、“爆弾小僧”ダイナマイト・キッド、“人間魚雷”テリー・ゴーディ、“殺人医師”スティーブ・ウィリアムス、“入れ墨モンスター”バンバン・ビガロ、 “皇帝戦士”ビッグバン・ベイダー、"暴走戦士”ロード・ウォリアー・ホーク(ホーク・ウォリアー)。

どのレスラーも日本で一時代を築いた外国人レスラーばかりです。そして数多くの外国人レスラーと交友があり、取材を積み重ねてきた斎藤さんだからこそ書ける作品でした。


★3.おしゃれな文章世界を持つ斎藤文彦さん

斎藤さんはおしゃれな文章を書かれるのが魅力なのですが、こちらについては以前この記事で詳しく書かせてもらいました。


そしてこの本は230ページくらいのボリューム。プロレス入門に比べる半分以下のページ量なので、料理でいいますと、ワンプレートにさまざまな料理をのせた一品という感じでしょうか。

斎藤さんの文章ってフレンチのフルコースみたいなものなので、それがワンプレートで食べれるのでよく考えるとお得かもしれませんね!


★4."プロレスの神様"カール・ゴッチ
さて、ここからは本書の内容について少し触れていこうと思います。

まずプロレスの神様と呼ばれるゴッチさん。実はゴッチさんが神様と呼ばれているのは基本的には日本だけなのです。なぜ彼が神様と呼ばれているのかを斎藤さんが分かりやすく書かれています。

あと色々と読み進めると再確認できることがあるわけなのですが、個人的にはゴッチさんはオリンピックにも出るアマチュア・レスリングの猛者で、そこからプロレスラーに転向して、イギリスのビリー・ライレー・ジムでキャッチ・アズ・キャッチ・キャンを習得しているんです。この事実は知ってはいましたが、改めて考えるとキャッチ・アズ・キャッチ・キャンをやる前にアマチュア・レスリングに出会っていたんだなと。キャッチ・アズ・キャッチ・キャンの方がアマチュア・レスリングより歴史は古いわけですから。そのパラドックスというのがゴッチさんのレスラー人生っぽいなと思いました。

そういえば斎藤さんはゴッチさんの映像作品(KAMISAMA)を製作していたことがありましたね!


★5."人間風車"ビル・ロビンソン

ゴッチさんがレスリングからキャッチ・アズ・キャッチ・キャンを習得したのに対して、幼い時からキャッチ・アズ・キャッチ・キャンを始めていたのがビル・ロビンソンさん。

ロビンソンさんにとって、プロレスは何なのか。これについては斎藤さんの「生涯追求したキャッチ・アズ・キャッチ・キャン」「レスリングの求道者」というフレーズがしっくりくるような気がします。プロレスを通じてレスリングの旅をしていたように思います。

ロビンソンさんのレスラー人生を通して、プロレスのルーツも分かるし、プロレスの変遷も分かる。そういうレスラーってあまりいないのでよく考えるとロビンソンさんはプロレス史における稀な存在かもしれません。

そして晩年に高円寺に住んでいたロビンソンさんのエピソードが抱負にあるのは見所だと思います。

★6."人間魚雷"テリー・ゴーディ(ゴディ)

そして個人的に好き章だったのがゴディさん(この本ではゴーディさん)。

実はこの本の帯の後ろに本文の一部が掲載されているのですが、その内容はゴディさんの回。

「最後に会った夜、ゴーディは『こんなビッグショーに来るのは、今夜が最後だ』という意味のことを口にしていたという。ヘイズは『なにいってんだ、また来いよ』といってゴーディの肩をぎゅうっと抱きしめた。これがロード・ムービー"フリーバーズ"のラストシーンだった。その月曜の朝、ベッドによこになったままの"自由な鳥"を発見したのは、ゴーディの妻だったカーニーさんではなくて、いっしょに暮らしはじめていたゴーディの新しいフィアンセだった。死因は心臓のそばにできていた血栓だった。名曲"フリーバード"の歌詞の最初のフレーズは"もしも、あした、ぼくがここからいなくなっても、キミはぼくのことをおぼえていてくれるかい?"である」

なんてドラマチックな文章なのだろう。さすが斎藤さんです。

★7."殺人医師"スティーブ・ウィリアムス

ゴディさんと名コンビ「殺人魚雷コンビ」を結成していたスティーブ・ウィリアムスさん。ゴディさんがまるで風の如くこの世を去ったのとは違い、ウィリアムスさんは生への執着し続けて壮絶な闘病生活を末、亡くなりました。

そして皆さん知っていましたか?ウィリアムスさんのニックネームである殺人医師(ドクター・デス)はプロレスラーになる前から付けられたものだったんです。学生時代に顔中傷だらけだったので、周りが「ドクター・デス」と呼んだそうなんです。素晴らしいプロレストリビアですね!



★8."入れ墨モンスター"バンバン・ビガロ

怪物キャラでありながら、職人レスラー、プロレス名人という唯一無二のプロレスラーであるビガロさん。

この本では斎藤さんがアメリカにあるビガロさんの家に訪問取材したエピソードが出てきます。ビガロさんがハーレーや4WDのトラックに乗って疾走しているのが見事に書かれていて、「イージー・ライダー」を見ているかのような感覚になる。さすが日本語の文章でありながら、どこかアメリカナイズを感じさせる斎藤さんです。あれは才能でありセンスなのですね。



★9."暴走戦士"ロード・ウォリアー・ホーク(ホーク・ウォリアー)

この本の最後を締めるのが斎藤さんの友人でもあるホークさん。アメリカではロード・ウォリアー・ホーク、日本ではホーク・ウォリアーと呼ばれています。

そもそも斎藤さんはホークさんとアニマルさんのロード・ウォリアーズが初来日した時、いや伝説の番組「世界のプロレス」で未知の強豪として取り上げられた時からずっと彼らを追ってきたんです。

ホークさんとアニマルさんは性格がまったく違うんです。ホークさんはやんちゃで、朝まで飲んで遊んでいるわけです。一方のアニマルさんは酒はあまり飲まないし、ドラッグもやらないし早寝早起き。色々とあって仲違いしたこともあったが、やっぱり友人だったんですね。

個人的にはグッときたのが二人の人生におけるラストシーン。二人とも同じような亡くなり方をしているんです。「少し休むね」とベッドに座って、居眠りしてそのまま息を引き取ったんです。それを奥さんが発見するんです。亡くなり方まで揃えるとは…彼らは二人でひとつの伝説だったんですね。


★10.虚実皮膜の怪物レジェンド10人のプロレスノンフィクション

さて、まえがきで斎藤さんが「プロレスとは虚実皮膜のジャンルといわれ、ファクトとフィクションの境界線が分かりにくい」と書いているのです。虚実皮膜とは、芸は実と虚との皮膜の中間にある事実と虚構の微妙な接点に芸術の真実があるという意味だそうです。

この本はそんな虚実皮膜なジャンルから飛び出したレジェンドモンスター10人のレスラー人生を綴られたプロレスノンフィクションなのです。

そしてこの本の主人公たちは天国に旅立ったみなさんばかりです。そこにはあとがきで斎藤さんが綴った「肉体的な死は必ずしも死そのものではないのではないか。偉大なるプロレスラーの生は、プロレスを愛する人びとのなかで永遠の命として生きつづけているのではないか。そしてぼくたちは、彼らのプロレス、彼らのリング上の姿、彼らが生きた時代をしっかりと記憶しておくことで、彼らとずっとずっと生を共有することができるのではないだろうか」という思いが詰まった意図があったように思います。

これからもプロレスを愛する我々はプロレスラーを語り続けていきましょう。生きているみなさんも天国にいるみなさんも含めて!継続は力です!


みなさん、是非チェックのほどよろしくお願いいたします!