執念の実況男が放つ狂気の特異作~『1000のプロレスレコードを持つ男』おすすめポイント10コ~ | ジャスト日本のプロレス考察日誌

ジャスト日本のプロレス考察日誌

プロレスやエンタメ関係の記事を執筆しているライターのブログ


恒例企画「プロレス本を読んで感じたおすすめポイント10コ」シリーズ。今回は59回目です。このシリーズはライターの池田園子さんが以前、「旅とプロレス 小倉でしてきた活動10コ」という記事を書かれていまして、池田さんがこの記事の書き方の参考にしたのがはあちゅうさんの「旅で私がした10のことシリーズ」という記事。つまり、このシリーズはサンプリングのサンプリング。私がおすすめプロレス本を読んで感じたおすすめポイント10コをご紹介したいと思います。


さて今回、皆さんにご紹介するプロレス本はこちらです。




アナウンサー・清野茂樹による“プロレステーマ曲"本が登場!

プロレス実況でおなじみのアナウンサー・清野茂樹が、プロレスラーの入場曲である“プロレステーマ曲"について語り尽くす! 自身のプロレステーマ曲との出会いから現在にいたるまでの自伝的な部分から、各スター・レスラーたちが使う曲の解説、プロレステーマ曲の歴史と進化論、はたまた愛好者たちとの熱すぎる対談、1000枚を超える自身のコレクションの中からのディスクガイドなど、どこを切っても濃すぎるその内容には絶対に驚かされるはず! 清野茂樹のプロレステーマ曲に対する愛と情熱がひしひしと伝わってくる、“ストロングスタイル"な1冊です!

【CONTENTS】
1章 プロレステーマ曲BEST3(甲本ヒロト/ファンキー加藤/DJ JIN)
2章 清野茂樹のプロレステーマ青春狂想曲
3章 プロレステーマ曲進化論
4章 プロレステーマ曲スーパースター列伝
5章 清野茂樹十番勝負
6章 プロレステーマ曲未解決ファイル
7章 清野愛蔵プロレスディスクガイド

著者
清野 茂樹(きよの しげき)
1973年8月6日、兵庫県神戸市出身。プロレス世界3大メジャー団体を実況する、唯一のアナウンサーとして知られる。広島エフエム放送でアナウンサーを経験後、2006年よりフリーとなる。幼い頃からの夢であったプロレス実況を実現させ、2015年には新日本プロレス、WWE、UFCという世界3大メジャー団体の実況を史上初めて達成。その対象はリング上だけに留まらず、コンサートに出演直前のももいろクローバーZ、世界陸上でウォーミングアップをするウサイン・ボルト、日比谷野外音楽堂のステージに登場する細野晴臣など……何でも実況してしまう“特殊実況"を得意とする。







今回は2017年に立東舎さんから発売されました清野茂樹さんの『1000のプロレスレコードを持つ男 清野茂樹のプロレス音楽館』を紹介させていただきます。

実はこの本なのですが、以前「私とプロレス」でインタビューさせていただきました「伝説のテレビカメラマン」辻󠄀稔さんから「是非、ジャストさんに!」ということで自宅に送られた5箱のダンボールに入ったプロレスグッズの中にあった一冊。読み進めていくとめちゃくちゃ面白かったので、「おすすめプロレス本」シリーズで取り上げたいなと考えました。


今回はこの本を読んで感じた個人的な見どころをプレゼンしていきたいと思います!よろしくお願い致します!


★1.「プロレス実況のトップランナー」清野茂樹さんとは?

この本の著者である清野茂樹さんは、「プロレス実況のトップランナー」という異名を持つフリーアナウンサーです。

まず実況者としての清野さんの凄さは、「おーーーーーっと!」「掟破りの逆サソリ」「名勝負数え唄」「人間山脈」「風車の理論」「エリート・雑草逆転劇」などの独特な表現は「過激実況」と形容された古舘伊知郎さんイズムを感じるマシンガントークではないかと考えています。

プロレスだけではなくスポーツ実況を変えたとも言える古舘伊知郎さんのスタイルを未だに追い求めている第一人者は清野さんで、テレビ朝日のアナウンサーでさえ、古舘さんのスタイルをやる実況者はほぼいないと思います。

もうひとつの実況者・清野さんの凄さは、「能ある鷹は爪を隠す」といいますか、ご自身は相当なプロレスマニアにも関わらず、その知識を実況で表に出さずに解説者やゲストのコメントを引き出したり、冷静沈着に現場の状況を実況することに徹するセルフコントロールだと考えています。

熱さと冷静さの両面を併せ持ち、古舘伊知郎さんの系譜を感じる清野さんの実況スタイルで、実はオリジナルだったりします。

その一方で著書となるとガラッと変わります。

まずヤフーニュースや『もえプロ』(パルコ)という書籍の清野さんは、初心者やマニアにも届くようなめちゃくちゃ分かりやすい文章を書くように心がけている印象があります。熱さというより明るさを感じる文章の世界観はライターとしての清野さんの凄さであり、魅力だと思います。

そして清野さんの内面を潜むプロレスマニアとしての狂気の部分が文章では爆発するのが、自身の著書。昭和プロレステーマ曲研究家・コブラさんにも言えるのですが、好きなものに対する突き抜ける愛と情熱と知識が文章表現されているのがもうひとつのライター清野さんの凄さであり、魅力です。

つまり、清野さんは実況アナウンサーとして2つの顔を持ち、ライターとしても2つの顔を持つ。表舞台で分かる範囲でも清野さんは4つの顔を持つ男であるのです。

その清野さんの狂気性が遺憾なく発揮されているのがこの本なのです。

だから清野さんってめちゃくちゃ奥が深い方なんですよ。




★2.清野茂樹のプロレス音楽館へ、ようこそ!

この本では清野さんが保管されているプロレス関連のアルバムのジャケットが冒頭と最後にカラー写真で掲載されています。これのセレクトとかも含めていい意味でイカれている!

およそ1000枚のプロレスレコードの写真を見ていると「これは貴重」「永久保存版」だと思う一方で、「我々は何を見せられているんや(笑)」とこれまたいい意味で呆れてしまう。

でもこの本のメインタイトルは「1000のプロレスレコードを持つ男」。サブタイトルには「清野茂樹のプロレス音楽館」とあります。

その世界観をまず冒頭と最後のジャケット写真を見るときちんと表現されているように思います。ちなみにひとつひとつのプロレスレコードのジャケットには、清野さんの注釈が細かく記されていて、そこにはプロレスレコードマニアとしての清野さんの凄みを感じました。

ここから、この本の見どころを各章ごとに紹介していきましょう。

★3.ミュージシャンが選ぶテーマ曲名作BEST3

清野さんといえば、プロレステーマ曲マニア界でもトップランナーともいえる存在で、その界隈の猛者たちも清野さんには一目を置くほどです。何しろコブラさんが「全日本プロレスの木原文人さんと清野さんはテーマ曲マニアのレジェンド」と語っていたほどです。

そんな清野さんのアナウンサーとしてのバックボーンのひとつがラジオDJ。だからこそミュージシャンとの対談のキャストも豪華。 

伝説のロックミュージシャン・甲本ヒロトさん、プロレス中毒ミュージシャン・ファンキー加藤さん、ヒップホップユニットRHYMESTERのDJ JINさん。

ちなみにヒロトさんとの対談は清野さんが在籍していた広島FM時代に放送された『プロレスワンダーランド2005』という番組の内容の一部を再録したもの。

お三方のプロレステーマ曲BEST3のセレクト、なかなか渋いですね!ヒロトさんがアレクサンダー大塚選手『AO CORNER』を3位に選んだのは妙に嬉しかったですね!恐らくこの曲を歌っている青西高嗣さんは光栄に感じているかも!

あとミュージシャン目線の選曲理由がなかなか面白い!加藤さんが中邑真輔選手の『The Rising Sun』について「これがかかると、会場中のファンが一緒に声を出して歌うんですね。歌うそのメロディのトップの音階が『ラ』なんですよ。『ラ』というのは、男性がおもいっきり声を張って出る、ギリギリの音色の平均だと言われていて、おそらく会場に行っても男性ファンが多いと思うんですけど、歌っている側が一番熱く歌えるメロディラインになっているんです」という指摘は「そうだったのか!」とめちゃくちゃ唸りました!


ちなみにJINさんが「坂口征二さんは、『燃えよ荒鷲』の前にジョニー・ペイトの『シャフト・イン・アフリカ』(ヒップ・ホップやファンクミュージックのクラシック曲)をテーマ曲として使っていた」という情報が出た時が驚きました(笑)でも後でコブラさんの『昭和プロレステーマ曲大事典』を読み直すと邦題名『アフリカ作戦』という項目があり、映画『黒いジャガー アフリカ作戦』のサントラで、冒頭25秒をカットして使用していたようです!

JINさんとコブラさんの凄さを感じてしまいました(笑)



★4.清野茂樹の青春狂想曲

この章では清野さんがどのようにしてプロレステーマ曲コレクターになっていったのかの過程、ラジオ局時代の話、プロレス実況で勝負するためにフリーアナウンサーとして上京した頃の話などが書かれています。

山下達郎さんとのエピソードが最高です!恐らく達郎さんは音楽を探求する、コレクションしていくという点で清野さんにシンパシーを感じていたのかもしれません!


★5.プロレステーマ曲進化論

こちらの回は、清野さんが時系列で、プロレステーマ曲の歴史と変遷を綴られています。めちゃくちゃ分かりやすいです!

平成以降のテーマ曲史も書かれているのは、コブラさんとは違うポイントです!


★6.プロレステーマ・スーパースター列伝
 
こちらの章では20人のプロレスラーの代表的テーマ曲について綴られています。これも面白い!コラムになってくると清野さんの狂気性もチラついてます(笑)

個人的には橋本真也さんのエピソードが好きですね!橋本さんといえば、『爆勝宣言』。しかし、途中の3ヶ月ほどですか。テーマ曲が『闘魂伝承』に変えたことがあったんです。ここからまた『爆勝宣言』に戻すのですが、これが最高なんですよ!橋本さんらしい!!




★7.清野茂樹のプロレステーマ十番勝負

これでもかと本書でテーマ曲について掘り尽くしている清野さんですが、さらにその歩みを止めません。

11人のテーマ曲有識者との対談は、濃厚なとんこつラーメンを食している気分!こってりしています!

個人的には木原文人さんと共に1990年代の全日本プロレスのテーマ曲を支えた『SOLLUNA』の林雅弘さんのインタビューが読めたのはプレミア感がありました!  

そしてコブラさんとの対談もあります!あれはテーマ曲マニアの頂上対談でしたね!言っていることがついていけないかもしれませんが、でもめちゃくちゃ面白い!




★8.プロレステーマ 捜査ルポルタージュ

どうやらテーマ曲マニアの極みになると、探偵や捜査という感覚になるのかもしれません!

こちらの回はさまざまテーマ曲のミステリーを清野探偵が追っている捜査ファイル。

当時見つからなかったIWA世界タッグ選手権のテーマ曲(後に発 https://ameblo.jp/jumpwith44/entry-12691101732.html の記事を参照)について7ページ、1987年に開催されたコンサート『突然卍がためLIVE』について6ページに渡りとことん調査。

やっぱりコブラさんが清野さんをリスペクトしているのがわかります!いい意味で、イカれています(笑)

『もえプロ』を読んで清野さんを好きになった皆さんはついてこれているのでしょうか(笑)暴走捜査をする清野さんもなかなか面白い!


★9.おわりに

やよい軒で飯を何杯もおかわりして満腹になった気分に、さらに追加の唐揚げが来るかのようなあとがき。

そのあとがきは、時効になった事件を追い続ける老刑事と化した清野さんの独白。

最初はフリーアナウンサーの著書だなと思って読み進めると、最終的には「俺らは、刑事ドラマを見ていたのか?」と思える妙な気分になりました(笑)

なんなんだ、これは!

今まで味わったことがない感覚。最初は和食だと思って食べていると、実は出してくるメニューが和風イタリアンだったという感じでしょうか。この例えも違うかな(笑)


とにかく読了した後には、味わったことがない不思議な感覚ですが、妙に心地よかったのは間違いありません!



★10.『1000のプロレスレコードを持つ男』は執念の実況男が放つ狂気の特異作!


実は今、清野さん、ホリプロに所属されているんですよね!


清野さんのサイトには自身のキャッチコピーとして「執念の実況男」というのがあったんですよ。

本当にそうですよ!

でも清野さんはその執念を場の空気や状況に合わせてうまい具合に出したり、引いたりしてきていて、その「執念」が見えない時もあります。赤い炎と青い炎を使い分けているという感じでしょうか。

その清野さんの赤い炎と青い炎の両方が見れたのが本書だったと思います。特に後半になると情熱を超えた狂気が遺憾なく発揮されていて、まるで覚醒モードに入った飯伏幸太選手のようでした。


清野さんの『1000のプロレスレコードを持つ男』は特異(とくい)という言葉がよく似合います。

特別に他のものと異なる。特に優れている。

まさに唯一無二。   

読めば読み進めるほど、その特異な世界の魅力にハマると思います!

皆さん、チェックよろしくお願いいたします!