偏見と虚構を凌駕し、幻想を高めるリアリズム〜『格闘家 アントニオ猪木』おすすめポイント10コ〜 | ジャスト日本のプロレス考察日誌

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恒例企画「プロレス本を読んで感じたおすすめポイント10コ」シリーズ。今回が63回目です。このシリーズはライターの池田園子さんが以前、「旅とプロレス 小倉でしてきた活動10コ」という記事を書かれていまして、池田さんがこの記事の書き方の参考にしたのがはあちゅうさんの「旅で私がした10のことシリーズ」という記事。つまり、このシリーズはサンプリングのサンプリング。私がおすすめプロレス本を読んで感じたおすすめポイント10コをご紹介したいと思います。


さて今回、皆さんにご紹介するプロレス本はこちらです。





書籍の概要
プロレス界の寵児であり、レジェンドとしてその名を刻んだ伝説の男はなぜその地位を不動のものとしたのか?
時代を越えて歴史に爪痕を残した猪木イズムを解き明かす!

”燃える闘魂”アントニオ猪木。プロレス界に爪痕と歴史を刻んだ圧倒的な強さ、技術の源流と進化を、猪木自身の言葉で解き明かすことで「アントニオ猪木の強さと格闘技術のリアル」を後世に遺す、

前人未踏・空前絶後、完全無欠の”格闘技術論”。  

彼の強さと格闘技術の奥深さを、客観的な事実を交え、より丹念に検証。 四半世紀の時を超えて蓄積された情報や取材結果に基づいて再び執筆作業を進めるなかで見つけた真の『格闘家・アントニオ猪木』の実体とは。

伝説のレスラー、アントニオ猪木の軌跡と彼をめぐるレスラーや関係者たちの証言をもとにプロレス界に燦然と輝くその強さの秘訣を紐解く。

目次
第1章 猪木の源流
日本プロレス・最強格闘家集団の実態
柔術・アマレス・高専柔道・相撲〜猪木に格闘技を伝授した指導者たち
ゴッチが学んだ格闘技プロレス キャッチ・アズ・キャッチ・キャン
新日本プロレスの原点がカール・ゴッチである理由
発展途上にあった猪木のプロレス・スタイルを補完したレジェンドレスラー
第2章 猪木の格闘奥義
禁断の果実〟異種格闘技戦~プロレスと真剣勝負の狭間にある恐怖
〝バーリトゥード王者〟イワン・ゴメスとの邂逅 なぜ両雄は闘わなかったのか
猪木が認めた最強レスラーたち
第3章 猪木と格闘技ブーム
〝虚構〟vs.〝現実〟 空前絶後の70年代格闘技ブームの正体
原点は『チャンピオン太』〜梶原一騎とアントニオ猪木の出会い
〈年表〉 梶原一騎vs.アントニオ猪木/第一次格闘技ブームの誕生から終焉まで
第4章 猪木、ライバルを語る
絶体絶命からの逆襲~モハメド・アリ
猪木も認めた最強の男〜柔道王ウイリエム・ルスカ
〝熊殺し〟ウイリーを超えた蹴り~ザ・モンスターマン
アルティメット大会に出したかった男~チャック・ウェップナー
なぜ相手の腕を折らねばならなかったのか~アクラム・ペールワン
殺人的スケジュールだった欧州遠征~ローラン・ボック
第5章 スパーリング・パートナーが語る猪木の格闘術
検証インタビュー1 佐山聡
検証インタビュー2 藤原喜明
検証インタビュー3 山本小鉄
検証インタビュー4 石澤常光
検証インタビュー5 北沢幹之
第6章 プロレスと格闘技
猪木と格闘技とプロレスと
猪木が語ったプロレスの定義
<写真解析>格闘技術解説
<独占インタビュー>アントニオ猪木かく語りき

著者プロフィール
木村光一(きむらこういち)
1962 年、福島県生まれ。東京造形大学デザイン学科卒。広告企画制作会社勤務を経て、'95 年、書籍『闘魂転生〜激白 裏猪木史の真実』(KK ベストセラーズ)企画を機に出版界へ転身。'98 〜'00 年、ルー出版、いれぶん出版編集長就任。『INOKI アントニオ猪木引退記念公式写真集』(原悦生 全撮/ルー出版)、『朋友 GOAL AFTER GOAL』(宮澤正明 全撮/ルー出版)、『My Bible』(蝶野正洋著/ルー出版)、『実録地上最強のカラテ〜ゴッドハンドの系譜』(真樹日佐夫著/いれぶん出版)他、プロレス、格闘技、芸能に関する多数の書籍・写真集出版に携わる一方、猪木事務所のブレーンとしてU.F.O.(世界格闘技連盟)旗揚げにも協力した。編著作に『ふたりのジョー』(木村光一著/梶原一騎・真樹日佐夫 原案/文春ネスコ)、『アントニオ猪木の証明〜伝説への挑戦』(アートン)、『闘魂転生〜激白 裏猪木史の真実』(KK ベストセラーズ)、『闘魂戦記〜激白 格闘家・猪木の真実』(KK ベストセラーズ)、『格闘ゲーム リアル研究序説』(東京ポリゴンズ名義/ KK ベストセラーズ)、『INOKIROCK』(百瀬博教、村松友視、アントニオ猪木、堀口マモル、木村光一共著/ソニーマガジンズ)、『ファイター 藤田和之自伝』(藤田和之・木村光一共著/文春ネスコ)がある。




今回は2023年に金風舎さんから発売されました木村光一さんの『格闘家 アントニオ猪木 〜ファイティングアーツを極めた男〜』を紹介させていただきます。

木村さんといえば、ブログにも度々登場してくださり、お世話になっている作家さんです。

私とプロレス 木村光一さんの場合


「第3回 蜜月と別離」  




プロレス界のエースとアントニオ猪木を追い求めた孤高の闘魂作家による対談という名のシングルマッチ!

プロレス人間交差点 棚橋弘至☓木村光一 





木村さんはこれまで数多くのアントニオ猪木さんに関わる書籍を出されてきました。また猪木さんのプロレス論や格闘技論に最も迫ったインタビューを世に送り出してきた孤高の闘魂作家なのです。

2022年10月1日に逝去された猪木さん。そこからさまざまな形で猪木さん関連書籍が発売されましたが、猪木から亡くなってからちょうど1年後の2023年10月、いよいよ最後の切り札とも言える木村さんの新作が発売されました。


「猪木さんの強さとは何か?」
「なぜ猪木さんは凄いのか?」
「猪木さんと他のプロレスラーの違いは何なのか?」



1996年に発売された木村さんの著書『闘魂戦記〜格闘家・猪木の真実〜』を全面的に見直し、猪木さんの強さと格闘技術の奥深さを、客観的な事実を交え、より丹念に検証。 四半世紀の時を超えて蓄積された情報や取材結果をまとめ上げたのがこの『格闘家 アントニオ猪木』なのです。


YouTube『男のロマンLIVE』TERUさんと木村さんのコラボから派生した「シンINOKIプロジェクト」として誕生したこの本は「俺たちの猪木祭り」と題して、SNSを使った劇場型プロモーションを展開。ある意味、猪木信者たちが次々と「ワッショイ」「ワッショイ」と神輿を担ぐように盛り上がったのは木村さんに対する信頼感と期待感、そしてまだまだ猪木さんについて語り尽くせないという飢餓感もあるのかもしれません。


今回は『格闘家 アントニオ猪木』を各章ごとにこの本の魅力をプレゼンしていきたいと思います!


よろしくお願い致します!



★1.まえがき 猪木のプロレスの正体とは何だったのか

まえがきを書かれたのはこの本のプロデューサーを務めたのは『男のロマンBlog/Live』を主宰するTERUさん。

読んで感じたのはこれはいい意味でネット民だから書ける文章だったような気がしました。自分の言いたいことがあるが、途中で「◯◯なのだが」とか挟んできたり横道がそれる感じとか。でもそれはネットでブログとかYouTubeで配信してきたTERUさんだからこそ書ける一文だと思います。そして核心に迫るときはやはりストレートでした。

「だって、プロレスなんでしょ?」

我々プロレスファンが長年向き合ってきた偏見と先入観。そこに誰よりもずっと「なんだとこのヤロー!」と抗っていたのが猪木さんだったという論調はその通りだと思います!

これまでの木村光一さんが手掛けた書籍とは異質なのは、TERUさんのまえがきから伝わってくるのです。つまり、これは令和の猪木本なのです。
 



★2.第1章 猪木の源流

いよいよ本編となる第1章。猪木さんの生い立ちから日本プロレスでプロレスデビューという過程を木村さんが綴っています。

基本的にこの本はまずは木村さんがテーマに沿ってコラムのように文章があり、その次に木村さんがインタビュアーを務めた猪木さんのコメントが掲載とというスタイル。恐らく木村さんの文章も、過去の猪木さんのインタビューに基づいた上での論理なので、大風呂敷や誇張が控え目のリアリズムに満ちたものです。



ここで特に注目したのは、日本プロレスに対する新しい見方を提示したことです。

これまで日本プロレスといえば、「国民的英雄」となった力道山の活躍、力道山死後に低迷した日本プロレスを復活させたBI砲の活躍、馬場さんと猪木さんの離脱から最終的に内ゲバによる団体の崩壊といったところがクローズアップされがちでした。

しかし、木村さんは日本プロレスが世界的に稀なエリート格闘家集団だったと評したことにより、日本プロレス幻想を高める内容に仕上げたのです。言われてみればそうかも知れません。大相撲幕内まで進んだ元力士も多数いて、柔道有段者もいて、レスリングの猛者もいる。レフェリーの沖識名さんはハワイアン柔術の猛者で、大坪清隆さんは高専柔道の達人。

そして猪木さんは当時の最強格闘家集団・日本プロレスが鍛え抜いた最高傑作だったのかもしれません。相撲、柔術、アマレス、高専柔道とさまざまなバックボーンを持つ格闘家との練習を経たことにより、この本で言うところのプロレスにおける特異点となった猪木さんの源流となったわけです。

まず日本プロレスにスポットを当てたのはさすが木村さんです!

またキャッチ・アズ・キャッチ・キャン、新日本プロレス旗揚げの背景、ストロングスタイル誕生についても踏み込んでいます。

新日本プロレスの原点がカール・ゴッチである理由について、木村さんが新しい提議を示しています。これは必見です!


★3.第2章 猪木の格闘奥義 

第2章は猪木さんが手掛けた異種格闘技戦。こちらで特に面白かったのは「バーリ・トゥード王者」イワン・ゴメスとウィルフレッド・デートリッヒ。この本を読むとさらにイワン・ゴメス幻想とウィルフレッド・デートリッヒ幻想が高まりました!



★4.第3章 猪木と格闘技ブーム 

第3章は1970年代格闘技ブームについて木村さんが切り込んでいます。梶原一騎VSアントニオ猪木年表というものが掲載されているのですが、これが圧巻です!めちゃくちゃ面白いです!



★5.第4章 猪木、ライバルを語る

第4章は猪木さんが異種格闘技戦で対戦したライバルについて語っています。


個人的には猪木さんがモンスターマンがすきなんだろうなという再認識しました。恐らく自身にとって理想の格闘技戦だったのではないかと推測しています。






★6.第5章 スパーリング・パートナーが語る猪木の格闘術


第5章は猪木さんの歴代スパーリングパートナーに木村さんがインタビューしています。佐山聡さん、藤原喜明選手、山本小鉄さん、石澤常光(ケンドー・カシン)選手の4人。石澤さんのインタビューなんてめちゃくちゃ貴重で、彼が技術論を真面目に語っているだけでプレミア感が満載です。

4人のインタビューはどれも必見です!

また日本プロレス時代の猪木さんの強さに迫る証言者として北沢幹之さんにインタビューしているのも注目です。猪木さんの強さの源流について北沢さんの証言によって確固たる答えに導いているような気がしました。

★7.第6章 プロレスと格闘技

第6章は猪木さんが語ったプロレスと格闘技について。猪木さんが1996年1月4日東京ドームで行われたビッグバン・ベイダー戦の意味について語っています。また近未来のプロレスとして、レスラーが素人の挑戦を受ける観客参加型のプロレスもいいのではと語っているのは斬新でした。やはりこの人、凄いです。発想も超人なのです。
 



★8.アントニオ猪木かく語りきと格闘技術解析

この本では猪木さんの心に残る言葉が掲載された「アントニオ猪木かく語りき」と猪木さんのテクニックを古武術の視点から検証している「格闘技術解析」が所々で登場するのですが、これが面白い!!

特に「格闘技術解析」は名アイデア。猪木さんの格闘技術を整体師兼スポーツトレーナーの山内大輔さんが、古武術の観点から詳細解きあかすというもので、これだけでもお腹いっぱいで、猪木さんの技には格闘技術としての理に適った動きや所作があることを山内さんによって証明されています。これは技術オタクは生唾もので、ペンダフ先生好みですよ(笑)




★9.おわりに

木村さんによるあとがき。この本に対する木村さんの執念と信念を感じます。長年、猪木さんを撮り続けたカメラマンの原悦生さんによる闘魂写真の数々が彩ったことによりこの本に圧倒的臨場感をもたらしました。

私がSNSで「この人のプロレス論は鋭いな」と感心しているpasinさんが木村さんをサポートしていたことも判明。さまざまな人たちの協力があったからこそ、俺たちの猪木本として世に出たのが劇場型プロレスという感じがします。

TERUさんがまえがきで「猪木さん、あなたの闘魂は連鎖し続けています」と綴り、木村さんは「いまも心に生き続ける、アントニオ猪木に本書を捧げる」とあとがきを締めくくりました。

二人の想いは一緒、猪木さんのために、猪木さんの凄さを満天下に伝えるためにこの本を出したのだということです。


改めてリスペクトしかありません!





★10.偏見と虚構を凌駕し、幻想を高めるリアリズム


「だって、プロレスなんでしょ?」「プロレスは八百長」「プロレスは出来レース」という偏見や先入観。梶原一騎さんが描いたイマジネーション溢れる虚構の世界。そこに対して勝負を挑み凌駕してきたのが猪木さんだったというのが木村さんの考えだと私は感じています。

ただ、ここで木村さんは自身の考えを立証するために、猪木さん本人のインタビューを元にしながら、日本プロレスやイワン・ゴメス、ウィルフレッド・デートリッヒと令和の時代に新たな幻想を生み出したのは、まさに革新作!また猪木さん自身の強さの立証をすることで幻想を越えた伝説に仕立てた木村さんの凄さです。

でもそこには梶原一騎さんばりの虚構はない。柳澤健さんのような「柳澤史観」はない。先入観も固定観念も決めつけもない。理に適い、現実に即したリアリズムから導き出した極論なのです。
 


この本、人それぞれの感じ方があると思ったので、そこまで内容には深くは踏み込まずにプレゼンさせていただきました。

読めば読むほど味わい深くなるこの本を多くの皆さんに読んでほしい!獣神サンダー・ライガーさんの解説のように「スゲェ!」を連呼したくなる読後感!とにかく凄い作品でした。それに尽きます。 


『格闘家 アントニオ猪木』は「だって、プロレスでしょ?」「プロレスは八百長」「プロレスは出来レース」という世間からの色眼鏡に対して、木村さんは猪木さんの圧倒的強さと確かな技術を立証し、「じゃあ、猪木さんの試合を見てくれ!考え方が変わるぞ」と文章表現による反論をすることで、猪木さんとプロレスを死守する大作です!

そして木村さんの確かな取材力、鋭い考察力、確信をつく文章力に裏打ちされた実力があるからこそ、この本は大作になったのではないでしょうか。

是非、チェックのほどよろしくお願いします!