韓国、「少子高齢化深刻」再来年から高齢社会へ「備えなく呆然」 | 勝又壽良の経済時評

韓国、「少子高齢化深刻」再来年から高齢社会へ「備えなく呆然」



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日本よりも深刻な高齢化
少子化対策かなりの遅れ

韓国は18年から、65歳以上の人口が総人口の14%以上を占める、「高齢社会」に移行する。7%以上を「高齢化社会」と定義されているが、とうとう最終段階へ入った。与野党の政争が激しく、重要法案は5分の3以上の賛成を必要とする「国会先進法」が存在する。野党が反対に回れば何ひとつ議決できない跛行国会である。この結果、経済改革は宙に浮いたままだ。それにはお構いなく、現実は「高齢社会」へひた走っている。

この「国会先進法」とはいかなる内容なのか。2012年5月、与党の強行採決を抑制し、円満な国会審議を進めることを目的に「国会先進法」が成立した。これによって、与野党間で意見の食い違う法案は、本会議で在籍議員の5分の3以上が賛成しなければ成立しないことになった。一見、理想型であるが現実は全くの逆である。与党が多数を占めても、5分の3以上の議席を占めなければ、「無力な与党」に過ぎない。このちぐはぐさが、韓国政治を停滞させ、同時に経済をも巻き込んでしまった。

韓国の「高齢社会」は、二つの問題を提起している。一つは、お年寄りが老後生活へ向けての経済的準備をしていないこと。もう一つは、労働力不足の問題である。韓国の合計特殊出生率は、世界でも最低水準に落ち込んだままだ。若者が結婚を避けている結果である。政治が、この問題点を解決できずに対立を繰り返している。何とも、絶望的な状態に追い込まれている。この鬱積のハケ口が、「反日」に向けられているのだ。ある点では、救いのない社会と言える。

日本よりも深刻な高齢化
『サーチナー』(1月27日付)は、「国家としての将来は如何に、日本より深刻な高齢化」と題して次のように伝えた。

韓国社会の特色は、口角泡を飛ばして議論するが、決して実行に移さない点にある。韓国政治はまさにその典型例である。与野党はそれぞれ自己の正統性を主張して譲らないのだ。野党は、すぐに国会での審議をボイコットする。街頭演説やデモ行進に勢力を使う、奇妙な存在である。民主主義の原則から言えば、多数党の政策を実行すべきである。「国会先進法」で縛るのは、憲法改正など超重要法案に限定すべきだが、その柔軟性に欠けている。これによるダメージは直接、国民生活に及ぶ。

(1)「少子高齢化は日本だけの問題ではない。韓国も同様の問題に直面しており、むしろ韓国は日本より深刻な状況となっている。中国メディアの『新華網』はこのほど、証券会社がまとめた報告書を紹介。同報告では少子高齢化問題が韓国にとって、『これまで経験したことのない厳しい兆戦』となる可能性を指摘している。報告のまとめた具体的な数字として、韓国の総人口に占める40歳以下の人口の割合は、1995年は69.4%だったが2015年には48.1%にまで低下した。さらに2050年には32%まで低下するとの予測を伝えた。これは寿命が伸びているだけでなく、新生児の出生率が減少傾向にあることも関係している」。

韓国の総人口に占める40歳以下の人口の割合は、2015年に48.1%にまで低下した。すでに、半分以下になっている。少子化の影響によるもので、比率は一段と下がって行く。この影響が端的に表れるのは、住宅需要の落ち込みである。不動産価格の下落は必至であり、これが韓国国民の資産価値を下落させる大きな要因になる。不動産価格の下落ほど、先行きの展望を暗くさせるものはない。不動産を換金して生活費に充てたくても、手持ち財産の目減りでは目算が狂うであろう。

(2)「総人口に占める65歳以上の人口の割合は現在7%だが、18年には14%、2026年には20%にまで上昇すると予測している。韓国の少子高齢化問題が日本より深刻といえる理由が、この年齢層の急増にあると指摘している。日本の場合は、退職後も多くの人が何らかの仕事に就くケースが多い。それゆえに『積極的な消費者』として経済成長に貢献できる。少子化に対処できないとしても、高齢化という点では経済にマイナスの影響を与えないばかりか、貢献する力があるということだ」。

日本は65歳定年制である。韓国は、今年から60歳に引き上げられたばかりだ。日本の方が「高齢化対策」が進んでいる。しかも、日本では65歳を過ぎても健康であれば「働きたい」という人々が多いのだ。経済的な理由というより、働くことに生き甲斐を見いだす「勤労観」が存在する。日本が、戦後の高度経済成長を実現できた背景の一つには、この揺るぎない「勤労観」の存在がある。

日本のように高齢者になっても勤労意欲を持つことが、「積極的な消費者」として経済に寄与する。「生産者でもあり消費者でもある」からだ。これは、産業構造の多様化がもたらしたメリットであろう。その点、韓国は儒教社会ゆえに、「勤労観」が確立していない。『論語』では、労働者は「小人」(しょうじん)扱いである。教養人は、「大人」(たいじん)として尊称される社会である。働くことを蔑視する儒教社会の中韓は、本質的に発展性の乏しい社会と言うべきだろう。

(3)「韓国の場合は対照的に、38.5%もの家計が老後の生活を支える収入源がない。明らかに老後の準備が不足している。老後の収入源がある場合でも77.6%もの家計が国民年金だけに頼る状況である。これでは『積極的な消費者』として経済成長に貢献することは難しい。韓国は、子どもを育てるために親が資産を注ぎ込む。その親は、老後の準備ができないまま退職、新しい仕事を探しても見つからず、やむなく自営業を始める人が増えている。報告書では退職後も働ける環境を整備するよう韓国政府に提案したうえで、韓国の人びとが、『老後の生活に備える意識』を向上させる必要があると訴えている」。

韓国では、38.5%もの家計が老後生活を支える収入源がない、という悲劇的な状況にある。年金未加入の人々であろうか。この層は、生活保護世帯になるであろう。老後の収入源がある場合でも77.6%もの家計が国民年金だけに頼る状況である。韓国の自殺率は、OECD加盟国中で最も高いのだ。理由は生活苦であり、お年寄りの自殺が目立っている。何ともお気の毒と言うほかない。こういう書き方をすると、「日本はどうか」という反論が必ず出てくる。日本は、国際的な「老人幸福度」で世界5位に入っている。

韓国のお年寄りが経済的に困窮しているのは、子どもの教育費に資金を使い果たしていることだ。大学進学率は70%強である。日本の約50%をはるかに上回っている。儒教社会は学歴社会でもある。この教育費を北欧のように国家負担にしない限り、韓国の老後問題は解決できないであろう。韓国社会のこうした「価値観」は、一朝一夕で解決するはずがない。となれば、韓国は救いがないことになろう。重ねて、「お気の毒に」と言わざるを得ないのだ。

(4)「少子高齢化問題は、『少子化』と『高齢化』という別々の観点でみたとき、確かに韓国の『高齢化』状況は日本より深刻である。『これまで経験したことのない厳しい兆戦』となりえることがわかる。飛行機は片方のエンジンが停止しても即座に墜落することはないが、推進力がゼロなら結果は明白だ」。

韓国の少子化も深刻である。若者は結婚をしたがらない。正確に言えば、結婚して子どもを持てない経済的な環境に追いやられている。大企業と中小企業の間に、極端な賃金格差が存在している。その大枠をつくっているのが財閥制度である。財閥による特権的な支配力が、従業員給与に差別的な格差を生んでいる。

ならば、財閥制度の廃止に踏み切れば良さそうだが、その改革力=イノベーション能力が欠如している。韓国メディアも最終的には財閥擁護派に回っている。この矛盾した関係をどこで打ち壊すのか。韓国経済が行き着くところまで行って、どうにもならない状況に追い込まれる。GDPが2%を割り込む。それは目前であるが、その時初めて目を覚ますのだろうか。それも、保証の限りではない。

少子化対策かなりの遅れ
『中央日報』(7月28日付)は、「韓国野党代表、少子化、このままだと国の生存自体が問題」と題して次のように伝えた。

野党第一党の『共に民主党』の金鍾仁氏はかつて、朴大統領が大統領選挙に出馬の際、公約づくりと担当した経験を持つ。来年の大統領選に立候補も噂されている一人だ。それだけに、ここでの問題意識には現実味がある。大学教授の座にもあったから、実現に向けて努力をするであろう。

(5)「 野党第一党の『共に民主党』の金鍾仁(キム・ジョンイン)非常対策委員会代表が7月27日、少子化対策に関し、『このままいけば大韓民国の生存自体が問題だ』と述べた。金代表は、『最も心配なのが我が国の女性が結婚を避ける時代になったという点』とし、『5月基準で婚姻(2万5500件)と新生児数(3万4400人)がともに過去最低値になったという。政府がいかなる形であれ解決しようと努力するべき』と強調した。金代表は『ワーキングママ弁当懇談会』を開き、『政界が少子化問題を深刻に受け止めなければいけない』とし、このように明らかにした」。

韓国政界が、この少子化問題を取り上げる場合、対症療法では解決困難であろう。経済制度を抜本的に改革しない限り、実効はあがらない。具体的には、野党が反対している政府の経済改革案を受け入れてみる度量も必要である。労働市場の改革=流動化は、労働者が不利な立場に追いやられるのでなく、自由な転職市場をつくるきっかけになりうるのだ。雇用を守ることは同時に、雇用をつくり出すことでもある。そのカギは、労働市場の流動化にある。

(6)「 続いて、『フランスは出生率が最も低い国だったが、40年間にわたる努力の末(出生率が)最も高くなった。子ども5人を産めば親が働かなくても政府が支援するお金で十分に暮らせるようにしたため』とし、『出生率奨励のためには女性が安心して生活できるようにしなければいけない』と主張した。また『育児施設などというが、最も大変なのはお金で、費用が多くかかるため子どもを産まないということ』とし、『(この問題を)解決するには政策と制度的な配慮を通じてしなければいけない』と語った」。

フランスでは、子どもが社会全体の「財産」であるという認識である。子どもをいかに増やして行くか。それは短期的には実現不可能である。超党派で10年単位のスパンに基づいて実行することだろう。そのためには、与野党がこのテーマについて共同の認識を持つ。政策協定するくらいの取り組みでなければ、人口増は期待できない。この問題は、日本でも同じ取り組みが求められる。

(7)「懇談会では育児について、『職場に保育施設があっても規模が小さかったり、距離が遠くて事実上利用が難しい。地域社会で働く女性専用の保育施設があればいい』『育児休業を使うだけでも職場の人たちの目が気になる。男性は育児休業を使えばのけ者にされる雰囲気』『保育施設に通えない場合、家政婦を雇わなければいけないが、月180万-200万ウォン(約18万-20万円)かかっても税制優遇を受けることができない』などの建議事項があふれた。金代表は、『このような内容が国会にもっと伝えられなければいけない。そうしてこそ(政界が)事案の緊迫性を感じる』とし、『女性から多くの票を受けるべきだと考える集団から動くことになるだろう』と答えた」。

韓国では、「男性が育児休業を使えばのけ者にされる雰囲気」という。いわゆる「イクメン」は、まだ普及以前の状態のようだ。儒教社会らしい頑固な生活スタイルが踏襲されているのだろう。日本では、「イクメン」が時代の流れになりつつある。こう見ると、「少子化対策」を巡る国民意識では、日本が先を歩いている。日韓では、10年近い差を感じるのだ。

トヨタ自動車が6月9日、本社に勤務する社員の35%にあたる2万5000人を対象に、週に2時間だけ会社に出て働き、あとは自宅で仕事をする画期的な在宅勤務制度を導入すると発表した。日本の国家的課題となった少子高齢化の解決に向け、人材の流出を防ぐと同時に、企業として可能な取組みを実行に移すものだ。トヨタがこの制度を導入する目的は、中堅社員による子育てのための離職や、高齢の両親を世話するための介護離職を減らすことにあるようだ。

このトヨタの在宅勤務制度の発表について、韓国メディアは注目をしている。

『朝鮮日報』(6月11日付)は、社説で「トヨタの画期的な在宅勤務、韓国企業はなぜできないのか」と題して、次のように論じた。

(8)「在宅勤務は業務の集中度を低下させるのはもちろん、組織におけるコミュニケーションの阻害といった様々なリスクを伴うものと企業は認識している。しかし、トヨタはこれらのリスクを承知で在宅勤務の導入を決めた。これは中長期的にみれば企業経営そのものにもプラスになると判断したからだろう。少子化問題の解決は国全体で取り組むべきものだが、企業としても少子化は将来の担い手や消費者が減ることを意味する深刻な問題だからだ」。

トヨタ自動車が、思い切った在宅勤務制度を発足させることは、日本人として誇らしく思う。企業にとって、人口が減ることは市場の縮小を意味すると同時に、労働力の供給低下を意味する。トヨタは、日本国内で年間300万台の生産体制維持の目標を掲げている。日本での雇用維持の義務感と、研究陣を国内に置くメリットを併せ追求しているからだ。

(9)「この少子化問題は、日本よりも韓国の方が状況は厳しい。合計特殊出生率は、日本ではここ数年やや持ち直し1.4人を記録しているが、韓国では1.2人と日本よりも低い状態が続いている。ところが、韓国における企業の少子化対策は単に証拠作りのためのものばかりで、トヨタのように画期的な対策を提示したケースはみられない。500人以上の常勤社員を持つ事業場では、職場に託児所を設置することが義務づけられているが、これを実行している事業場は全体の53%に過ぎない。これは韓国における企業の少子化対策のレベルを示す数値とも言えるだろう」。

合計特殊出生率は、日本では1.4人を記録している。韓国では1.2人と日本よりも低い状態が続いている。この背景には、日本が国を挙げて「少子化対策」を取り上げている効果が出ているのであろう。その点で、韓国はまだ切迫感に乏しく、お座なりに終わっている。「イクメン」も実現までには、まだかなり時間がかかりそうだ。

(10)「在宅勤務など雇用形態に柔軟性を持たせるには、何よりも社員に求められる業務内容を明確にし、それを誰もが納得できるような形で評価する企業文化が必要だ。また状況に応じてフルタイムと短時間勤務を社員が選択可能にすると同時に、これが昇進に影響を及ぼさないようにする制度も必要になるだろう。韓国でも少子化対策として政府機関や企業の多くがこれらの取組みを試みてはいるものの、未だに定着できていない。それはこれらの考え方や文化自体がこれまでなかったからだ」。

在宅勤務の実現には、それを支える柔軟な「企業文化」の存在を指摘している。その通りであって、企業文化=社員意識の共有化が不可欠である。トヨタの企業文化は、「ボトム・アップ」である。社員提案制度が、トヨタ独自の「カイゼン」を生み出し、コストダウンを実現してきた。この同じ流れのなかで「自宅勤務制度」の必要性が、現場から上がり制度化に至ったのであろう。これぞ、トヨタの企業文化の帰結であろう。韓国は財閥制度に象徴されるように、企業文化は「トップ・ダウン」である。柔軟な「自宅勤務制度」というアイデアは出てこないに違いない。

お願い:拙著『日本経済入門の入門』(定価税込み1512円 アイバス出版)が発売されました。本書は、書き下ろしで日本経済の発展過程から将来を見通した、異色の内容です。中国経済や韓国経済の将来性に触れており、両国とも発展力はゼロとの判断を下しました。日本経済にはイノベーション能力があり、伸び代はあると見ています。ぜひ、ご一読をお願い申し上げます。

(2016年8月9日)





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