ベネズエラは、今、革命前夜の大混乱の最中にある。
 首都カラカスを中心に、大統領のニコラス・マドゥロ退陣を求める大デモが連日のように繰り返されている。これに対し、マドゥロ政権は、デモ隊に発砲も敢行し、これまでに野党や民主化を求める市民側に30人以上の犠牲者が出ている(写真=デモ隊に催涙弾で攻撃する機動隊、4月19日のデモ)。

 

 

店に商品なく、治安は最悪
 首都のスーパーの棚からは商品が消え(写真)、殺人事件が日常的に起こるなど治安は最悪の末期症状が、ベネズエラでは1年以上もずっと続いたままだ。

 


 1昨年の総選挙でマドゥロ与党は大敗し、議会は野党が多数を占め、また民主化勢力が多数で求めた罷免を問う国民投票も握りつぶし、マドゥロは大統領の座に居座り続けている。
 これまで本日記で何回か、南米のならず者国家ベネズエラの状況を報告してきた(16年9月5日付日記:「ベネズエラの極左マドゥラ政権に退陣求める大デモ;高インフレとマイナス成長、高犯罪率の『赤い暗黒』の夜明けは近い」、15年12月8日付日記:「ベネズエラ総選挙でもマドゥラ与党の左派大敗、中南米左翼の退潮にさらに拍車」を参照)。

 

3年連続マイナス成長、インフレ率は2000%
 世界最大の原油埋蔵量を誇る中南米の大国が、1999年に誕生したウゴ・チャベス左派政権とその跡を継いだ現マドゥロは政権のもとの失政で、今や海外から食料や工業製品を輸入する外貨に事欠き、食料品や薬品の払底で餓死や病死が相次いでいる(写真=同じ左派ポピュリストのブラジル大統領=当時=ディルマ・ルセフにチャベスの写真を贈呈するマドゥロ)。

 


 何しろ2014年から昨年まで、ベネズエラ経済は3年連続のマイナス成長に落ち込んだ。昨年のマイナス幅は、10%に達した。3年を足し合わせると、2013年比で経済は23%も縮小した。
 インフレ率は700%を超える。いや、店に商品が売っていないのだから、インフレ率もただの物差しに過ぎない。庶民の実感は、1000%、1万%であろう。ちなみにIMFの今年のインフレ率見通しは、2000%、来年は2880%である。

 

食料難で国民もやせ細る
 ダイエットに関心を持つ人にはブラックユーモアだが、食料不足のため過去1年間でベネズエラ国民の4分の3が体重を減らし、1人当たりでは実に8.7キロも痩せたという。
 サウジアラビアをも上回る原油埋蔵量を持つ、本来は豊かな国なのに、食料難で難民がコロンビアなどに流れ込んでいる。内戦でもないのに難民など、世界でもベネズエラと北朝鮮くらいのものだ。
 餓死するか、抗議デモで街頭で死ぬか、あるいは難民となるか、ベネズエラ国民はギリギリの選択を迫られているのだ。

 

アメリカ系工場も接収の無法
 このところ民衆デモが盛り上がっているのは、上記の状況のためだが、3月29日にはマドゥロ政権の息のかかった最高裁が、野党多数の議会を機能停止させたことが1つのきっかけとなった。国内外の反発で、だった2日でマドゥロ政権は最高裁に決定を撤回させたが、野党指導者の政治活動禁止や拘束を続けている。
 さらにマドゥロ政権は、トランプ政権を刺激しかねない強権も振るっている。昨年7月のアメリカ系のキンバリー・クラークの工場を一方的に国有化したのに続き、4月18日にはGMのベネズエラ工場を接収した。
 GMのベネズエラ工場は2700人を雇用し、同社はベネズエラの自動車産業の最大手だ。今のところトランプ政権は、北朝鮮問題にかかりきりだけに表だって非難をしていないが、アメリカの資産が接収されたのだから、いずれは強硬な反発を示すだろう。

 

この混乱を救えるのは軍しかない
 さらにメデイアを握るマドゥロ政権は、SNSなどで野党・民主化勢力を支援したとして、スペインの通信大手テレフォニカの現地子会社を捜索対象にした。マドゥロは、テレビでテレフォニカがクーデターを煽っている、と非難している。
 こうした破綻国家では、国民の命を救うために軍部がクーデターを起こすのも、正当化されるだろう。
 ただチャベス政権時代、軍はたびたびクーデターを企てたが、その度ごとに潰され、軍部内の反極左派は根絶やしにされたに近い。
 正義のために、軍は決起せよ、と願う。

 

昨年の今日の日記:「憲法記念日に寄せて――安全保障観なき護憲を高唱する左翼・「進歩」派の現代の空想」