ごんたのつれづれ旅日記

ごんたのつれづれ旅日記

このブログへようこそお出で下さいました。
バスや鉄道を主体にした紀行を『のりもの風土記』として地域別、年代別にまとめ始めています。
話の脱線も多いのですが、乗り物の脱線・脱輪ではないので御容赦いただきまして、御一緒に紙上旅行に出かけませんか。

【主な乗り物:つくばエクスプレス線快速電車】
 


東京が急に暖かくなって、観測史上2番目という早咲きの桜が満開になっていた、平成25年の3月末の平日のこと、南風に誘われて、ふらりと旅に出た。

──などと書き出せばなかなか良い風情なのだが、実は、千葉県流山市で開かれる法人の会議に出席するだけであった。
仕事なのである。

この日は珍しく仕事が順調で、予定より早く都心の職場を出ることができた。
近隣にある大学の構内の桜も、ちょうど満開だった。

ひらひらと舞う可憐な花びらの中を足早に最寄り駅へ歩き、中央・総武線各駅停車の高架ホームに昇れば、頬に当たる風も柔らかくて、何となく浮き浮きとした気分になる。
普段、車や自転車での移動が多かったので、ありきたりな通勤電車でも、久しぶりに乗ってみれば旅情をそそられる。

東京は高曇りで、陽の光が強いわけではなかったけれども、週末を前にした街は、どことなく陽気な雰囲気が漂っていた。
皇居の北側を走る中央線の沿線風景も、休日のような華やかさがある。
道路は混雑しているように見受けられたが、歩道を行き交う人々の足並みも、何となくのんびりとしていた。
市ケ谷駅では釣り堀で糸を垂れる人々が見え、外堀の斜面に咲き乱れる桜並木が、鮮やかに街を彩っていた。


秋葉原駅は、いつ来てもごった返している。
電気街から萌えの街へ変貌を遂げても、昔ながらの駅の造りも、交錯する人々の流れも、大して変わりはないように思える。
学生時代は、音楽のカセットテープやCDなどを買いに、よく訪れたものだった。
品数が豊富な音楽ソフトを揃えた家電量販店が目当てであった。
中央・総武線各駅停車の千葉方面のホームで、昔ながらのビン入りの飲み物を売っているスタンドや、立ち食い蕎麦屋も、よく利用したものである。
平成24年に、秋葉原に君臨していた大型電気店が別ブランドに吸収される形で閉店、というニュースを見て、容赦のない時代の流れを感じたものだった。

高架ホームから数えて5本ものエスカレーターを乗り継いで地下に潜れば、首都圏新都市鉄道・つくばエクスプレスの秋葉原駅である。
平成17年8月に開業した、当時、東京で最も新しい通勤鉄道で、駅は秋葉原貨物駅の跡地の地下に設けられており、地上にはヨドバシカメラが大型店舗を構えている。

この再開発に伴い、南北に走る山手線・京浜東北線と東西に伸びている中央・総武線各駅停車の高架ホームが十字に交わるだけだった秋葉原駅に、広い駅前広場やバスターミナルができ、面目を一新したのだが、駅の中で乗り換えるだけならば、ホームの下にこれほど広いコンコースがあったっけ、と首を傾げたくなる空間はあるものの、その他は昔のままの佇まいに見える。



それまで、筑波研究学園都市へのアクセスは高速バスだけだった。
時刻表でおよそ60分の所要時間とされていたけれども、首都高速道路の渋滞のために、更に時間がかかることが多かった。
我が国の頭脳を目指す新しい都市を計画的に造ったと言う割りには、何だか頼りない交通アクセスだなあ、と思ったものである。


高速バスが好きな僕としては気軽にバス旅を味わえる貴重な路線だったけれども、バスはいつも大変な混雑ぶりで、10分から15分ごとにバスを発車させても、乗り場に利用客の列が途切れることはなかった。
ドイツから輸入した80人乗りの超大型2階建てバスが投入されたこともある。
ところが、つくばエクスプレスの開業後は、高速バスの本数も乗客数も減ってしまい、栄枯盛衰を感じさせるような寂れた雰囲気の路線になってしまった。


僕がつくばエクスプレスを利用したのは、開業後、かなり経ってからのことだった。
最初は、平成20年の真夏である。
両国の花火大会を見物に行った帰り道、浴衣姿に身を包んだ妻と大変な人混みに揉まれながら、少しばかり歩き疲れた頃合いに僕らの前に現れたのが、つくばエクスプレスの浅草駅の入口だった。

流山には仕事で何度か出かけたが、いつも車だった。
南流山駅と、会議の場所がかなり離れていて、路線バスの本数も少なく、タクシーを使うしかなかったのだが、基本料金で行けるような距離ではなかった。

それでも、最近はつくばエクスプレスを使うようになった。
電車の方が遙かに所要時間が短いため、仕事が忙しくなると車で行く余裕がなくなったのである。
内実は、つくばエクスプレスの魅力に取り憑かれた、と言っても良い。

何と言っても、スピード感が半端ではない。
最高時速130kmという俊足ぶりは、乗車していても充分に体感できた。
他社の特急で、これより遅い列車はいくらでもある。
秋葉原駅から南流山駅までの22.1kmを、わずか20分程度しかかからない。

車は、目的地まで乗り換えがいらず、自分でハンドルを握る楽しさはあるけれども、渋滞があるから1時間半はかかるのが常だった。
渋滞にはまって、着いたら会議が終わりかけていた、ということもあった。

その頃、新しい楽しみも加わった。
南流山駅の近くにある「こんがり亭」というパン屋さんである。
ブログ友達がやっているお店で、前年の11月に初めて寄った時からファンになった。
値段もリーズナブルで、会議の出席者の夕食用に、また妻へのお土産に、たくさん購入するのが常となっていた。
残念ながらブロ友さんは用事で不在だと聞いていたけれど、この日も寄ろうと心に決めていた。


秋葉原駅の地下ホームでは、ちょうど、つくば行きの快速列車が発車を待っていた。
まだ帰宅時間の前だから、それほど混んではいない。
間接照明が照らし出す、少しばかり薄暗いホームの人影は疎らだった。

車内を覗き込んだ時に、嬉しさのあまり飛び上がりたくなった。
座席配置が、首都圏ではとんと見かけなくなった、4人向かい合わせのボックス席だったのである。

かつて、近郊電車の大半はこのような座席配置で、車窓を楽しみながらの旅ができたものだった。
当時の背もたれは垂直でシートも固かったし、前後の間隔が狭くて、前に座る乗客と膝の位置を譲り合うようなこともあった。

少しでも乗客を詰め込もうとして、窓に背を向けるロングシートの車両が大半を占め、味気ない乗り物となりつつある昨今の首都圏の近郊電車の傾向からすれば、新参のつくばエクスプレスが、このような車両を製造していたとは、思いも寄らないことだった。
これまでに乗ったつくばエクスプレスの電車は、ロングシートばかりだったのだ。
 

定刻に、するすると動き出したつくば行き快速電車は、しばらく地下を走る。
暗い窓外を、時折照明が一筋の矢のように通り過ぎていく。
コーッと甲高い走行音が車内に鳴り響く。

地図によれば、JR山手線と京浜東北線の地下を北上、御徒町駅の手前で東にカーブし、春日通りと都営地下鉄大江戸線の直下を走り、新御徒町駅で停車する。
再度カーブして北へ進路を戻し、浅草駅へ。
いわゆる浅草六区の地下にあたり、東武鉄道や地下鉄銀座線、浅草線の浅草駅とかなり離れているのだが、隅田川花火大会の日は、人波に押されるまま、ここまで歩いてしまったのである。
僕にとって、浅草駅は、つくばエクスプレス初乗りの地であったから、いつも懐かしさを覚えるし、秋葉原の地下駅への入り口に「浅草まで4分」と大きな看板が掲げられているのだが、浅草寺や仲見世を目指す観光客は、つくばエクスプレスの浅草駅で地上に出れば、戸惑うのではないだろうか。


南千住駅の先で、JR常磐線と地下鉄日比谷線に挟まれる形で地上に駆け上がると、車内の隅々までさっと光が行き渡った。
ところが、顔を上げて窓に目を向ける人は僅かで、まばらに人が立つ程度の車内では、気怠そうに目をつむっていたり、うつむいて携帯をいじったり、雑誌・新聞を読むのに余念がない乗客が大半だった。
隅田川を渡り、更に高度を上げて、北千住駅3階のホームに滑り込むと、どっと乗客が乗り込んできて、車内は一気に賑わった。

北千住駅を出た快速電車は、地下鉄千代田線やJR常磐線と並走しながら荒川を渡り、東武伊勢崎線と交差する辺りで、再び地下に潜ってしまう。
雑然とした東京都内の地上風景を眺められる時間は短い。
青井、六町、といった、それどこ?──と思わせる駅を通過しながら、しばらくは綾瀬川に沿って地下区間を走り、埼玉県に入って、八潮駅の手前で地上に出る。


全く速度を落とさずに通過する八潮駅は、首都高速道路6号線の八潮PAのすぐ近くであるらしい。
上り車線だけのパーキングエリアだが、流山から車で帰る時は、必ずと言って良いほど、八潮PAで一服したものだった。
下り線は、手前に加平PAが設けられ、いずれにしても、ようやく都心部の渋滞から抜け出したか、とホッとする区間である。
車での所要時間は、ここまでが8割程度を占めていたと言っても過言ではない。
八潮と言えば、だいぶ遠くまできた印象があったけれども、秋葉原からの距離は僅か15km程度である。

後に、首都高速6号線の上りの渋滞に悩む常磐道の高速バスを八潮PAに停車させ、つくばエクスプレスに乗り換える方策が乗客に提示されたことがあった。
東名高速道路の江田バスストップでも、最寄りの東急田園都市線江田駅への乗り換えの便宜が図られているが、高速バスの利用客がわざわざ電車に乗り換えるものかなあ、と首を傾げたものだった。
渋滞による遅延を忌避する人は、最初から鉄道を利用するのではないだろうか、と思ったのだが、八潮駅から秋葉原駅まで100円に運賃が割り引かれたためか、一定の効果が得られたと聞いている。
 

地上に出れば、建物がひしめき合っていた都市景観は消え、のどかな田園風景が主体の車窓となった。
関東平野が見渡す限りに広がって、窓の外を過ぎゆく景色の移り変わりが、時が止まったかのようにゆっくりとしたテンポに変わる。
中川を渡り、窓外を白い帯となって横切っている東京外環自動車道と国道298号との三重立体交差をくぐれば、三郷中央駅を通過する。

三郷中央駅も、歩いていける距離ではないものの、首都高速と常磐道のジャンクションが近い。
その先で、つくばエクスプレスも高速道路も、揃って江戸川の広大な河川敷を渡る。
埼玉と千葉の県境である。

つくばエクスプレス線の造りは誠に豪勢で、全てが地下、もしくは掘り割り、高架構造である。
踏切は1つもないという。
だからこそ、思い切ったスピードが出せるのだろう。
地価が高く、建物が密集している都市部に差し掛かると、ためらうことなく、地下に潜り込んでいく。
贅沢な鉄道を建設したものだと思う。


地下に入れば、大きな街に近づいたのだな、と思うようになった。
JR武蔵野線と乗り換える南流山駅も地下にあった。
快速電車は、北千住駅からここまでノンストップである。

南流山駅の地下ホームの構造は、なかなか興味深い。
単なる島式ホーム1本でありながら、上り電車と下り電車の停止位置が、ほぼ1編成近く、前後にずれている。
武蔵野線との乗換駅なので、狭いホームの混雑を少しでも緩和するためだろうか。
つまるところ、南流山駅は、6両の2倍とまでは行かなくても、10両分くらいの長さが保たれていることになる。
長いトンネルを造るのと、幅の広いトンネルを掘ってホームの幅を広げたり2本のホームを設けるのと、どちらが費用が掛かるのだろう、などとどうでも良いことが気になってしまう駅である。


僕の目的地は、流山市内にある。
秋葉原から22.1kmをひたすらに走り込んで、あっという間の到着だった。
あまりに呆気なくて、せっかくのクロスシートを手放したくなくなっていた僕は、そのまま立ち上がらず、腰を落ち着けてしまった。
少しばかりの後ろめたさが、胸中に込み上げてくる。
会議が始まるまで、あと1時間ほど残っていた。
もしかしたら、少しばかり遅刻するかもしれない。

僕にとって、つくばエクスプレスの経験済みの区間は、秋葉原駅から南流山駅までだった。
この先は未知の区間だから、いっそのこと、つくばまでの未乗区間を乗り潰したい、という誘惑に、どうしても勝てなかったのである。
南流山は、仕事と趣味の境界駅だった。
これがロングシートの車両だったら、僕はきちんと下車していたかもしれないので、放浪の責任の半分はつくばエクスプレスにある。
 

ちょっとばかり不良になった気分で、誰にも言えない旅を始めた僕を乗せて、快速電車は南流山駅を発車した。
流山の市街地をくぐる地下線をしばらく走行し、その間に総武流山電鉄の線路をくぐる。

つくばエクスプレスが出来るまでは、常磐線馬橋駅から分岐する全長5.7kmの小さな私鉄の終点が、会議の最寄り駅だった。
大正5年開業という、つくばエクスプレスとは比べものにならない老舗の鉄道だ。

20年以上前、社会人になったばかりの頃、初めて仕事で流山を訪れた際に、1度だけ乗ったことがある。
鉄道ファンになった子供の頃から、鉄道書籍などでその存在は知っていたものの、まさか大人になって仕事で使うことになろうとは、不思議な縁であった。
短い編成の電車が、代わり映えのない住宅地の中を走った記憶があるだけで、その他は何にも覚えていない。
大回りになるけれども、今回は帰りに乗ってみようかな、と思う。

つくばエクスプレスは、関東平野を貫く真っ直ぐな高架となり、流山セントラルパーク駅を過ぎ、希少種オオタカの住む鬱蒼たる山林に分け入って、東武野田線との接続駅である流山おおたかの森に到着する。
 

電車のモーター音は勇ましく高鳴り、小刻みな揺れも絶えず感じられて、快速電車の走りっぷりはなかなか勇ましいけれども、線路際に建物が少ないためか、車窓風景は至ってのんびりと過ぎていく。

暗くなり始めた黄昏の田園。
桜咲く華やかな都心とは全く異なる、寒々としたモノトーンの車窓。

ここには、まだ春が訪れていないかのようだった。
ドヴォルザークの「新世界」第2楽章の壮大な調べが、ぴったり似合いそうな大柄な景観である。
もしくは、ミレーの「晩鐘」の舞台であろうか。
目まぐるしい東京の街から僅か30分ほどで、このようにのんびりと鄙びた景色に心を和ませることができるとは、旅の至福である。
 

利根川の広大な河川敷を渡れば、いよいよ茨城県に入り、守谷駅に到着した。

僕にとって仕事と趣味の境目が南流山駅であったが、つくばエクスプレスでは、守谷駅が車両運用において重要な境界を成している。
茨城県石岡市にある気象庁地磁気観測所で観測されている地磁気に影響が生じないよう、秋葉原駅から守谷駅の先までが直流1500V、その先からつくば駅までが交流2万V・50Hzへと電化方式が変わるのである。
JR常磐線の取手駅と藤代駅の間にも交直流の切り替えが行われているのも、また、守谷駅で接続する関東鉄道常総線が非電化であるのも、この地磁気観測所への配慮である。

秋葉原-つくば間の全線を運転するためには、交直流両用電車が必要になるが、直流電車と比べて製造費が高額となるため、つくばエクスプレスは、秋葉原-守谷間で使用する直流電車と、全線で使用する交直流両用電車を用意し、守谷駅に車両基地を置いている。
ならば、全線を交流電化にすれば良いではないか、との疑問が浮かぶ。
高電圧で、発電所から遠く離れた地域を走る電車まで電気を効率良く到達させ、車両に備えた変圧器で電動機に適した電圧に降圧する仕組みの交流電化は、直流電化のような地上の変電所が不要という利点があり、新幹線をはじめ、比較的近年に電化された鉄道に採用されている。
一方で、交流電化は、変圧器などを車両に装備する必要があるので、製造費が嵩む。
高圧電流を架線に流すため、周辺に電流が漏れないように絶縁距離を直流より広く確保する必要もあり、つくばエクスプレスではトンネルの口径を大きくしなければならなくなるため、都心部側を直流にしたのだと言う。
南流山駅の構造といい、電化方式といい、つくばエクスプレスは贅沢に見えてもなかなか倹約家なのである。

このような理屈を知っていても、なぜ、交流が直流より地磁気への影響が少ないのかは、よく分からない。
分からないけれども、とにかく、守谷駅を出て程なく、電車は直流電化と交流電化を隔てるデッドセクションに差し掛かる。
架線は繋がっているものの、電気が流れず、電車は惰性で通過していく。
かつて、デッドセクションを走る電車は、瞬きするように車内灯を一斉に点滅させて通過したものだったが、最新の電車は、その気配を微塵も感じさせることはない。


ここまで来れば、車内に空席が目立つようになり、居眠りをする乗客も増えてきた。
あたかも長距離列車の雰囲気である。

高架と切り通しが繰り返される新幹線のような線形を、快速電車は最高速度で疾走する。
沿線に家々の灯がともり始めた頃、暗くなりかけた曇り空を背景に、筑波山の流麗な山容が遠望できた。
ドライブで何度か訪れたことがあるだけに、はるばる遠くまで来たものだ、という実感がこみ上げてくる。
東京を出て1時間も経っていないとは思えない。

みらい平、みどりの、万博記念公園、研究学園などと、いかにも人工的に開発された土地であることを伺わせる名前の駅を次々と通過し、地下に潜り込めば、いよいよラストスパートだった。
つくば駅までの地下区間は意外に長く、ここでの快速電車の平均速度は時速112.4kmと、在来線では極めて高い速度で走破する。
そのスピードですら、どこまで続くのだろう、と不安になるほどに長い暗闇が続いたが、電車がふっ、と肩の力を抜くように速度を落とすと、終点のつくば駅だった。
 
 
この土地には、高速バスで訪れたことしかなかった。
百貨店やオフィスビルなどが建ち並ぶ最近の様相も知ってはいるものの、その面影は、閑静な地下駅では全く感じ取れない。
そもそもつくばエクスプレスの地下駅は、どこも画一的な構造で、あたかも秋葉原駅に舞い戻ってきたような錯覚に陥りがちである。

高速バスで来た時の思い出をそのまま心に留めておきたい気分になったので、僕は、敢えて外に出なかった。
もちろん、急いで戻らなければならないと言う理由もある。
秋葉原からの58.3kmの小旅行は、盛りだくさんの車窓と見事な列車の走りっぷりが満喫できたので、来て良かったと心から思う。

僕は改札を往復しただけで、そのまま、南流山駅までとんぼ返りである。
帰路は、先頭車両で前景を眺めながら、立ちんぼで過ごした。
 

会議にそれほど遅れなさそうな時間に南流山駅に到着し、幾分ホッとしながら電車を降りた僕の耳に、緊迫した口調のアナウンスが聞こえた。

『ただいま、みどりの駅での車両点検のため、つくばエクスプレス全線で運転を見合わせております。御迷惑さまではございますが、今しばらくお待ち下さい───』

僕が乗ってきた上り電車も、ホームにずれて停車している下り電車も、ドアを開け放しにしながら、全く動く気配を見せなかった。
 
危なかった、と思う。
もし、つくば駅で地上を散策したり、電車を1本遅らせていたら、僕はこの遅延騒ぎに巻き込まれて、会議が終わる時間ですら間に合わなかったかもしれない。
神様が僕の気晴らしを許してくれたのだな、と都合の良い解釈が心に浮かんで、僕は独りで苦笑しながらエスカレーターに歩を運んだ。


 
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(25.4.14)