KAZUMI-BOY夜話 6 | 鬼ですけど…それが何か?

鬼ですけど…それが何か?

振付師KAZUMI-BOYのブログ


その日のリハーサルを終えた私達は、楽屋に戻り、本番に向けての準備を始めた。


ツアーがスタートしてから、幾度となく繰り返されて来た同じ手順。


私達は各々のペースで空き時間を過ごし、各々のペースで支度をして行く。



そして、本番二十分前。


私は衣装を着ける前に、トイレに入ったのである。


幕が開いてから暫くは、ステージ上に出ずっぱりであるから、トイレにだけは行っておかなければならない。



私は楽屋を出て廊下を進み、少し離れた所にあるトイレに入った。



用を済ませた時である・・・。



「!?」



私は突然、全身が総毛立ち金縛り状態に陥った。



『な・・・何!?』



私は当時、髪を長く伸ばしており、肩まで届く程の長さであったが、その髪がフワーっと宙に浮き上がっていくのが分かった。



私は全身に必死に力を込め、金縛りを解こうとあがいた。



金縛りにあった時の常として、私は叫ぶ。



これもなかなか一筋縄には行かないものだが、喉と唇に意識を集中させるのである。



この・・・



あがいている時間は、果てしなく長く感じるものであるし、非常に体力を奪われる感じもする。




・・・!・・・



何かが・・・・今・・・・



私の首筋・・・・



髪が浮き上がり、露わになった首筋に触れた・・・。





『ゆ・・・指だ・・・』



スルっとした感触が私の首筋を撫でるのが分かった。






「うわぁー!!」



やっと声が出る。



同時に金縛りが解け、その瞬間に私は出口に向かって走った。





・・・と



トイレの出口脇にある洗面台の鏡が横目に入る・・・・



「!」






鏡には・・・・



私の横向きの姿が映っていた。






しかし・・・・



私の髪の毛が不自然な方向に向かって伸びている・・・






それはまるで・・・・



誰かが私の髪を一束掴んでいる様な格好であった。







不自然な方向・・・・



斜め上に向かって、掴まれた一束の髪が伸び、その束の先端は馬の尻尾の様に垂れていた。





そして・・・丁度・・・・


人間の拳一つ分ほどの長さがギュッと括れている・・・。






・・・と、次の瞬間!!!



私はもの凄い力で斜め上背後に引っ張られた。



「うわぁ~!!」



私は転倒しそうになるのを、必死に堪える。



そして私は、『誰か』に掴まれているらしい髪の束を握り返し、正体不明の『誰か』から髪をもぎ取る様に抵抗した。






その時、無意識に私の口から出た言葉・・・・





それは・・・・





「南無妙法蓮華経」であった。



私は大声で「南無妙法蓮華経」を連呼する。




私の髪の毛を引く力が弱まった。



私は出口のドアを開けると、一気に飛び出し、楽屋へと駆け出した。




廊下を走る!




もの凄い形相と勢いで楽屋に飛び込んで来た私に、皆一瞬凍りついた様に固まった。



「な・・・何だよ!?此処は!?」



私が叫ぶ。



「どうしたの!?」



私は事情を説明しようとしたのだが、壁に掛けられた時計を見ると、開演時間が迫っていた。



私は慌てて衣装を身に着ける。



「今は話してる暇が無い!!行こう!!」



私達は階段を上り、ステージ袖へと向かって行った。




続く・・・・