動脈と静脈を流れる血液のごとき“意志”と“意思”――ウルトラマンロビンvsマサ高梨を見た! | KEN筆.txt

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鈴木健.txtブログ――プロレス、音楽、演劇、映画等の表現ジャンルについて伝えたいこと

BGM:増田直美『Destiny Light』

 

2023年1月14日17:09、その衝撃的な発表は「M78星雲通信」という聞き慣れぬ媒体からひっそりとリリースされた。そこには「2月4日闘道館の相手は(中略)ウルトラマンロビンvs高梨将弘に決定です!」という、日本語的にはいささか文法を逸脱したテキストが躍っていた。

 

 

月一でイベントをやらせていただいている身でありながら、泉高志館長の方からそのような裏情報はいっさい流れてこず(館長、コンプライアンス、カ、カテェ)、まずは名古屋の老舗団体(東海プロレスに次ぐ歴史の長さ)SGPの大会が東京で見られるというだけでもえらいこっちゃなのに、その上ワンマッチ興行でありかつ対戦相手がDDTきっての技巧派・高梨選手というのは本当に驚かされた。これはつまり、ウルトラ一族のオファーをサイバーエージェント系列会社のサイバーファイトが了承したことになる。

 

ここ最近は宇宙大戦争やムーの太陽関連の試合で、バラモンご兄弟によってボコボコにされるところしか見せていなかったロビンさん。それは全盛時を知る一人としても見るに堪えられぬほどのものだった。考えてみれば32年もの長きに渡り名古屋を中心とした地球の平和を守り続けている。あのウルトラセブンでさえわずか1年間(49話分)しか肉体が持たず、上司に「やめろ! やめるんだウルトラセブン! 今度こそ、本当に死んでしまうぞ!!」と警告され、ゴース星人&パンドン組による史上最大の侵略をなんとか凌ぎ西の空に明けの明星が輝く頃、一つの光となって光の国に帰っていった。それほどウルトラ一族の任務は過酷なのだ。

 

その事実を踏まえれば、32年間も地球(主に名古屋とその猫たち)を守り続けているのは驚異的。それは痛いほどわかるのだが、やはり僕らのヒーローがローキック一発で動きを止められるようなシーンは正直、見たくない――人の心を持つ者であれば誰もがそう思うはずだ。

 

そんなロビンさんが高梨選手とシングルマッチで対戦するというのだから、生まれて初めてプロレス専門媒体に事実確認の問い合わせをしようと思ったほど意表を突かれた。とはいえ、ツイッターもやらない宇宙人なので、この不定期連載のM78星雲通信がアップされる尾内淳隊員のフェイスブックしか情報源がないとあり、メディアとしてもどうにもできない。

 

とにかくロビンさんを信じ、当日を待つしかなかった。数日前、闘道館のイベント情報ページに立派なフライヤー画像がアップされたので少し安心できた。それまでは使い回しのようなスペシウムポーズ画像だけだったもんなー。

 

 

とにもかくにも、メッセンジャーを通じロビンさんと連絡を取り「当日は直前まで別の取材があるので多少遅れるかもしれませんが、取材にいかせていただきます」と告げる。いや、取材抜きにしてもこの機を逃したら一生SGPを見られぬまま終わってしまうかもしれない。

 

ここ数年は地元・名古屋でも円谷系の宇宙人たちがある時期を境に侵略してこなくなったことも響き、あまりSGPの興行は開催されておらず、ましてやそれがトーキョーシティーとなると、東京湾にシン・ゴジラでも現れぬ限りロビンさんが流星号に乗って上京することもないだろう。実は当初の予定でいくと前の取材が終わるのは17時頃。そこから急いで移動しても30分はかかるから、着いたら試合が終わっている可能性も高かった。

 

そこで取材を受けていただく新崎人生選手に「申し訳ありませんが、あとに取材が入ってしまいましたので30分ほど開始を早めていただけますか?」と打診したところ、ノー問題ということに。おかげで、これなら17時に間に合うという時間で終了した。

 

「今日はありがとうございました。これから闘道館さんでウルトラマンロビンさんと高梨将弘選手の一騎打ちがあるので、その取材にいってまいります」

「ええっ、そんなカードが実現するのですか!?  それは急がないと!」

 

あの新崎人生も、この一戦が組まれたことの重要性を一瞬で理解した。そして盟友であるザ・グレート・サスケのことを宇宙大戦争でいつも支えてくれているロビンさんに対し「頑張ってください」と合掌(盛っています)。こうして都営新宿線と都営三田線を乗り継ぎ、巣鴨駅へと到着したのである。

 

会場内へ飛び込むと、ちょうど今から単独トークショーがおこなわれるというところ。ロビンさんのことだ、おそらく私が着くまではウルトラトークでつなごうと気を利かせたのだろう。いや、恐縮です。

 

▲内股に手をはさむキュートな姿勢と、マスクの構造上飲めないのに置いてあるペットボトルが気になって仕方がないトークライブ中のロビンさん

 

その中でロビンさんは、なぜ高梨選手を指名したか語った。なんでも過去にHEAT-UPで対戦経験があり、その時に「波長が合うと思った」らしい。それでいつかもう一度闘いたいと願い続け今回、DDTと掛け合って1兆℃の火の玉ばりの情熱で首を縦に振らせた。

 

念のため調べてみると2014年8月30日、HEAT-UP王子BASEMENT☆MONSTER大会で確かに両者はシングルマッチをおこなっていた。ただ、この時は途中で暗黒星人が乱入したため9分38秒、無効試合に終わってしまった。もちろんその直後、二人は緊急タッグを結成し暗黒星人A&同Bを退治したのは言うまでもない(2分11秒、ダイビング・ボディーアタックからロビンさんがAをピンフォール)。

 

タッグではほかに何度か顔を合わせているが、一騎打ちはこの時以来6年5ヵ月ぶりとなる。トークの後半、司会(この日のリングアナウンサー)のwondermanさんから「ロビンマニアの健さんから質問がございますか?」と振られる。疑念ならいくらでもありますと前置きしつつ、まずは新崎人生からのエールを本人に伝えたあと、今大会最大の謎について切り込んだ。

 

「ロビンさん、今回のフライヤー画像には高梨選手のことが“高梨将弘”ではなく“マサ高梨”となっているのですが(スクリーンに映された画像も)…高梨選手は現在、本名をリングネームにしていることが、光の国までは距離があるので情報として伝わっていなかったのですか?」

 

▲出過ぎた質問をする私(写真提供:闘道館)

 

前日のツイッターでも「明日はマサ高梨として出場するのか!?」と突っ込んだのだが、それに対し高梨選手本人は「マサ高梨表記なのはきっと初心忘れるべからずというロビン選手からのメッセージなのでしょう」と、心が洗われるような受け取り方をしていた。なので私もそのことを伝えたのだが、当の本人は「いやー、名前変えているの知らなかったよー」と呑気に頭をかいた。

 

フェイスブックにおける発表ではちゃんと“高梨将弘”となっていたのに、いつの間にか旧リングネームと混同していたようだ。ただし、wondermanさんに確認するとあくまでも本日の公式記録では“マサ高梨”でリリースするとのこと。さらにトークが終わる頃、試合の準備をしていた高梨選手がささやいた。

 

「実は僕、海外ではそっちの方が言いやすいし憶えられやすいから“マサ”でやっているんですよ。だから今日は、そういうつもりになってマサ高梨でやります」

 

▲試合直前、マサ高梨でいくことを告げる。国内だといつ以来になるのか(写真提供:闘道館)

 

そうか、ロビンさんはイギリスの伝統あるランカッシャースタイル(ご自身は“ランカシャー”ではなく弾む)の体現者だから、アジアのプロレスを知る高梨選手とは文字通りスペシャルグローバルなプロレス(略してSGP)の会話ができるはず。今やDDTでは登場しないマサ高梨が見られるのだからこの日、足を運んだ観客の皆様は鼻が利いていると言っていい。

 

トークで「アメリカのプロレスは脚を決めるのに対し、ヨーロッパのレスリングは腕を決める。今日はマットプロレスでもあるから飛び技もウルトラデスティニーもウルトラダイナマイトも出しません!」と手の内を明かすようなことをサラッと言ってのけたロビンさん。とはいうものの、普段怪獣や異星人をバッタバッタと倒している技を封印して高梨選手に太刀打ちできるのか。

 

17時35分、いよいよ試合が始まった。まずは高梨がアジアドリームタッグとSPWタッグのベルトを携え、いつもと変わらぬ入場シーンを闘道館のド真ん中に現出させる。

 

 

続いて『SHININ' ON LOVE』のウォウウォウという勇ましいシャウトが響く中、名古屋の英雄が東京・巣鴨に姿を現す。なお、レフェリーはロビンさんが呼ぶのを忘れたため(ウルトラうっかり)リングアナ席からwondermanさんが兼任した(マットを叩かずフォールカウントを数える方式)。

 

開始のゴングからロックアップで組み合うと基本通り手首を取り合い、そこから流れる湧き水のごとくレスリングが繰り広げられていく。激しい見た目でなければ、かといって静寂の中で黙々と進んでいくものとも違う。とにかく両者が一つの生命体のように動くことで、レスリングという血液が動脈と静脈を滑走していくような攻防だった。

 

 

予告通り、最初は腕関節狙い→それを切り返し→さらに切り返すという言葉なき会話が続く。その中で関節が決まるごとに高梨は「うあっ!」と声をあげ、ロビンは口も覆われたマスクのためこもったうめき声を漏らす。この痛みによって生じる音が動脈であり、その間にも静脈を流れる血は途切れない。

 

▲高梨の顔つきはDDTや市ヶ谷で闘っている時となんらそん色がなかった

 

とにかく両者の動きは心臓のごとく停まることがない。わずかに、マットから手か足先が出たらエスケープとみなされるため、そこが呼吸を整える場となるのみ。高梨がこうしたレスリングを見せるのはDDTでもあるが、前述したような試合のイメージしかなかったロビンがここまでじっくりとグラウンドの動きを見せ、かつ高梨の攻めを常に切り返さんとするのは実に新鮮。言うまでもなく、宇宙大戦争のウルトラマンロビンしか知らない者が見たら言葉が出ないだろう。

 

▲腕攻めから徐々に足も狙っていくロビン。トーホールドだ

 

私はプロのレスラーではないから、その技術がどれほどのレベルなのかなど言及する立場にない。ただ、それが巧かろうが巧くなかろうが普段とは違うスタイルで闘おうと思って高梨戦を望んだロビンさんが、意志通りのプロレスをやっていることだけは動かしようのない事実だった。

 

▲アキレス腱固めを決められたロビン。伸ばせばマットの外に手が出てエスケープできる位置にいるにもかかわらず、同じ技で切り返さんとした

 

そしてその意志はとてつもなく固かった。試合が進むにつれロビンの息の方が荒くなってくる。全身コスチュームであるのに加え、口を覆ったマスク。さらには試合後に明かしたのだが、覆面の下にある頭で被るようなカバーのサイズが合わず、動くたびに顔の前へ来てしまい視界を遮られた。

 

▲この攻防の中では“大技”になる弓矢固め

 

通常であればそれほど密にグラウンドをやることはないが、このスタイルだとフェースロックやスリーパーのような首より上が攻められる技をやられるたび見えなくなる。よって、ロビンのスタミナの消耗はかなり激しかった。

 

ところが…ロビンはそのスタイルを途中で変えようとしなかった。地球年齢で数えて現在57歳、年間の実戦数も多くはないにもかかわらず止まらぬ攻防を続けているのだ。我々は、1990年にイギリスでデビューしたプロレスラー・尾内淳を見ていない。しかし、時空を超えて今、目の前で必死に闘っているのはウルトラマンの格好をしていても尾内淳だった気がする。そう、初代ブラック・タイガーことマーク・ロコに師事し伝統あるヨーロッパのプロフェッショナルレスリングに心を奪われ夢中となったあの青年のように――。

 

▲中盤を過ぎたあたりから執拗に狙ったSTF。やはり意地でも高梨に決めて見たかったのだろう。足4の字固めの攻防にも力が入る

 

必死だったのはロビンだけではない。高梨も途中でギアチェンジする素振りがまるでなく、とことんこのスタイルでやろうという意思が伝わってきた。ハッキリ言えば、プロレスの幅では正義のヒーローでさえ圧倒する技量を備えている。DDTや他のリングにおいても、その多様性が武器となっている。

 

それでも高梨は、ロビンがジルバで踊り続ける限りワルツを踊ろうとしなかった。「自分が怪我で長期欠場中もお電話下さり『高梨君とデビュー30周年記念で闘いたかったんだよね』と優しく言ってくれたのは忘れられません」

 

試合前夜、高梨はこうツイートしている。我々の知らぬところであったロビンとのハートウォーミングな接点…本人以外知る由もない思いが、そうさせていたのだろうか。

 

▲ロビンがスピニング・トーホールドを出すのは珍しい。ちゃんとひきだしの中にあったのだ。だが高梨も決められる前に首固めの要領で切り返さんとした

 

「残り時間5分!」

 

wondermanリングアナのコールで、我に返った。どうやらこの一戦は15分1本勝負でおこなわれているらしい。あとあと、最初の発表では20分1本勝負となっていたことに気づいたが、現場でそこを拾ったものは皆無。フォールに次ぐフォール、サブミッションに次ぐサブミッションの果てに、ロビンがコブラツイストへいったところでフルタイムとなった。

 

▲がんじがらめに固められながらそれでもギブアップしなかったロビン。アブドミナルストレッチ(コブラツイスト)で絡みついたがフルタイムのゴング

 

終了のゴングからわずか二十数秒後である。ロビンが「これじゃお客さんが納得しない。延長戦だ」とアピール。いやいや、たとえ15分でもこれほど濃密なレスリングを見せてもらったのだから…納得していないのはこの場であなただけですよ!と言いたくなった。

 

▲肩で息をしながら延長戦を要求するロビン。この時もマスク内のズレを気にしている

 

十分好勝負なのに、それでもウルトラヒーローの使命だと言わんばかりに続けたがった。それを拒否する高梨ではない。5分間の延長に突入した。前半は腕狙いを徹底していたロビンも、中盤から延長にかけてはSTFへこだわる。だが、高梨も決められる前に切り返す。

 

▲ウルトラマンが絞め落とされそうになるシーンは、キングジョーのセブンに対するマウントボコりと同等のショッキングなシーンと言えるが、これもロビンは脱出。そして延長戦でありながら鮮やかな投げを打った

 

もうガス欠ではと思われる中、鮮やかな投げを打ちダブル・リストロックで高梨を追い込む。しかし、ここで5分間も終了(結果的には、20分闘ったことになる)。当て技は延長戦でロビンが出したグラウンドの状態から背中へのヒジ打ち1発のみだったと思われる。高梨は左ヒジを押さえたまましばし立てず、名古屋を守り続けてきたヒーローもウルトラセブンの最終回のごとく精魂尽き果てたようにうつぶせの状態が続いた。

 

▲ロビンが見せた切れ味鋭いダブル・リストロック。教科書のような入り方だった

 

▲延長戦もフルタイムとなり、しばし両者立ち上がれず。ウルトラスーツの中はサウナ状態と思われる

 

これほどまでに“純化”されたレスリングの攻防はそうお目にかかれない。何よりも、そこには意志と意思の双方が在った。ウルトラロビンをネタ的に楽しむ余地など一切ない、真っ当な空間をその場にいる者のみが共有できた。

 

人数が人数だから、万雷の…とはならない。それでも差し出された手に対し「いつかまたやるかもしれない再試合でロビンさんを超えるまでは…」と握り返さなかった高梨、そしてその上で座礼する両者に送られた拍手には、一音一音に“意思”が宿っていた。

 

 

一度は控室へ戻った高梨だったが、マイクを持つロビンのもとへ戻り「一緒にデスティニー!をやってください」とリクエスト。やはり男に生まれたら誰もがデスティニーをやってみたくなるものなのだ。

 

 

もちろんそれに応えたロビンさんだったが、気合が入りすぎたか息が切れていたのか「デスティニー!」の瞬間、全力で下を向いたためいい絵にはならず。そこまでを含めて、らしかった。

 

▲ロビンさん、一番の決めるところで下向かないで

 

激闘の直後にもかかわらず、このあと両者は来場者全員との撮影会に臨み、返す刀で物販も。ちなみにロビンさんいわく「レアものが入ってるよー」と3000円で販売されたウルトラ福袋の中には、イギリスにおけるデビュー戦の紙焼き写真(ただし思いっきり顔が写っていない)ほかが入っており、レアにもほどがあるレアさだった。

 

 

かくしてウルトラマンロビンvsマサ高梨という、ウルトラ福袋に劣らぬレアな一戦は本当におこなわれたばかりか、集まったお客さんが「この試合を選んでよかった」と心から思える“作品”となった。たぶんこの先、この日のようなスタイルをロビンさんが見せる可能性は極めて低いだろう。

 

だからこそ、それを形にするべく対戦相手を務めた高梨選手の懐の深さにも心からの賞賛を送りたい。よくぞ、この場に出てきたと。

 

「このあと、タイにいって向こうのシングルのベルトに挑戦するんですけど、今日の試合で“マサ高梨”を回復できた気がします。ベルトを獲ったら今度はそれを懸けてタイでやりましょう!」

 

そう呼びかけた高梨選手に対し「その時は僕が持っているSGP認定グローバルジュニアヘビー級のベルトも懸けてダブルタイトルマッチでやろう」と、御本人もまんざらではなさそう。実現したらすこぶるグローバルな選手権試合となる。もしかすると近い将来、ロビンさんがタイに上陸するかもしれない。

 

「そうなったらいいね。だって、タイではウルトラマンが大人気だから」

 

その姿でバンコクの街を歩いたら、生徒たちに駆け寄られる金八先生よろしく光の速さで囲まれ「ウルトラマン! ウルトラマン!」と大チャントが起こることを頭に浮かべながら、闘いを終えて変身を解き一人悦に入る尾内隊員57歳だった。

 

※この日の模様は、2月末配信ニコニコプロレスチャンネルニュース番組「マンスリーニコプロ」にて詳細リポートする予定です。ロビンさんより、両選手のサインが入った大会特製ポートレイトのプレゼントもありますのでお楽しみに!