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(その①の続きです)



南一局。親は近藤。


ここまで近藤はラス。ターゲットであるゆーみんは3着。

ここで自身が和了れば、並びを作ることができる。


しかしその近藤の想いをあざ笑うかのように、ゆーみんが7巡目に先制リーチをかける。

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待ちは14m。リーチには危険が伴うが、この待ちの強さなら当然リーチだ。



一方の近藤。この親は絶対に落とす訳にはいかない。

上家のゆーみんからツモ切られた3sをチー。

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まだまだ遠いがタンヤオで仕掛ける。そして当然タンヤオの不要牌、9mを打つかと思われたが…


近藤の選択は現物の打5m。



ゆーみんの河に5mが早い。14m、69mはリーチの本線であり、現に14mは当たりだ。

しかし、しかし。

この絶対に連荘をしなければいけない状況で、カン6mをロスする打ち方をできる人間がどれだけいるだろうか。9mを手元に残しておいては和了することができないのだ。


親は絶対に落とせない。だがリーチの本線9mをギリギリまで打たないで、連荘の可能性を追う。

麻雀を軽く考えていない、麻雀を舐めていない。

本当に素晴らしい一打である。


9mを手放したのは8mが全て枯れ、69mの可能性が消滅してから。

この素晴らしいプレー、素晴らしい精神が近藤の和了を生んだ。



圧倒的不利な状況ながら、ゆーみんから2mを打ち取る。


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これでゆーみんはラスに転落。

3者は並びを作った形。後はこのまま得点を重ねるだけ。



南一局1本場。親は引き続き近藤。


近藤が先制リーチを放つ。待ちはカン5p三色。

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この手を和了ればゆーみんを捲ることが現実的になる。絶対に和了りたい。

しかしここにもう1人参戦してきた男がいる。

井出康平だ。


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5sとドラの1sのシャンポンで追っかけリーチ。

これは難しい判断だ。ツモって満貫。裏を乗せて跳満。

非常に大きい和了だが局を1つ消化させてしまう上に、近藤に親かぶりをさせるとゆーみんを3着へ浮上させてしまう。


リスクもリターンもあるこの選択。

しかしそうそうチャンス手は何度も訪れない。また次の親番に向けて良い流れを持ってくることが大事と考えたのだろう。


ここを勝負どころと捉え、渾身のリーチ。

そして、実った。


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ドラの1sを見事ツモ!裏は乗らないが2000/4000!

ゆーみんと素点で1万点を縮めることに成功した。


一方の近藤。ラス親が落ちてしまい優勝の可能性がぐっと下がってしまった。

これから三局は大物手のみ、しかもゆーみんからの直撃を狙わなくてはならない。




南二局

魚谷→井出 1500


先ほどの近藤の親かぶりでゆーみんを3着にしてしまった井出だが、すぐに再び彼女をラスに沈める。


南二局1本場。親は井出。ドラは6s。


井出の手が良い。わずか4巡で三色のイーシャンテン。

7mを先打ちし、最終形を強くする。

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しかし。井出が喉から手が出るほど欲しい8mはゆーみんの手に槓子。

そのゆーみん。茅森から出た3mを喰い伸ばしのチー。タンヤオで井出の親を流しにいく。

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ここまでは想像の範囲内。しかし次巡、井出から出た5pをポンする。

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仕掛けてこの形。アタマも、安全牌もないとても不安定な形。

しかも和了にはまだまだ遠い。



もし井出からリーチが来たら…?

もし安全牌に窮し、放銃してしまったら…?

生半可な覚悟で仕掛けられる牌ではない。



怖くないのか?

当然怖いに決まっている。

彼女も心の中は不安でいっぱいなはずだ。



だが、仕掛ける。


楽な勝利なんてない。


どこかでリスクを追わなければ、道は開けない。


こんなチャンス手。鳴いて手を進められる手なんてもう来ないかもしれない。


だから、鳴く。

不安を押し殺して、前へと進む。


そんな彼女の決意に麻雀牌も応えたか?6mをたて続けに引き入れ47m5mの絶好のテンパイを果たす。

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一方の井出。最も良い配牌をもらっていたが気づけばもう12巡目。

そしてテンパイを果たした時、出て行く牌は4mであった…

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ゆーみんの点数申告の発声。

珍しく力がこもっていた。

それだけ大きな局面であった。


そして彼女は、「南二局を消化する」という大きな成果を手に入れた。



南三局。親は茅森。ドラは7m。


ここまで茅森がおとなしい。

近藤の親番、井出の親番。自らを主張することなく、それぞれの親にゆーみんの点棒を削る役割をまかせてきた。


その2人ともが、役目を終えた。

今度は、自分の番だ。


さて、ゆーみんであるが役牌の發が暗刻。

チーして69sのテンパイを入れる。

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この69sは山に4枚残っており、いつ誰から打ち出されてもおかしくない牌。

しかし卓の悪戯か?69sは場に出ることはなく、茅森が追いつく。

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4mを切って2p9pのシャンポンリーチ。しかもドラドラ。十分な勝負手だ。


一方のゆーみんも引かない。茅森の河に3sが早いこともあるが、通っていない1s、2sと放ってテンパイを維持。

この茅森の親を流せばほぼ優勝は確定だ。

場に強い69sが放たれることを祈る。


しかしここにもう1人。ドラドラのテンパイを組んだ男がいた。

近藤誠一である。

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メンタンピンドラドラ。5pならばイーペーコーがつき、出和了でも跳満だ。

必死で脳内で計算をする。

もしここでゆーみんから直撃ができれば、または跳満倍満をツモることができれば…?

オーラスに現実的な条件を残すことができる。


ここは勝負だ。

25pで追っかけリーチを放つ!


3者テンパイの大一番。

ゆーみんが近藤の一発目に持ってきたのは…茅森に通っていない3m。

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ゆーみんの顔が苦悶に歪む。

茅森に通っていない筋は36m、69m、47s、69sの4つだけ。

ロン牌になり得る牌の数は限られている。

3mはまさにド本命の牌だ。


近藤の河には6mが捨てられており、状況を考えると愚形リーチは考えづらい。

この3m、茅森に通るかどうか。




しばしの長考。

そして彼女が下した結論は…



3m勝負であった。

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凄い。素晴らしい。

言葉では言い表せない胆力。

發を切ればいつでも降りることはできる。

だが目の前にある「局を流す権利」を彼女は手放さなかった。

本当に、格好良い一打だ。


この3mを勝負できたのだ。

ゆーみんは和了することができる。そんな根拠のない感覚が視聴者を襲う。

しかし神は、彼女にさらなる試練を与えた。

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次に持ってくるは2p。

茅森の河には5pが捨てられているが近藤には無筋。

そして実際には両者の和了牌である。


少し迷った彼女であったが3mも打ったのだ。

この2pもまっすぐ打ち抜いた。

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「ロン」


手を開いたのは近藤。頭ハネ。

メンタンピンドラドラ。現時点で満貫。裏が1つ乗れば跳満だ。

裏ドラをめくる手に力が入る……!

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しかし乗らず!

満貫止まり!


魚谷→近藤の大きな8000点の直撃。


しかし、魚谷侑未はその対価として「南三局」を終わらせることに成功した。

傷だらけになりながらも、濁流の中を逃げずに泳いだマーメイドは、ついに南四局というクライマックスまでたどり着いた。



南四局。親は魚谷侑未。


ここで各選手の条件を確認しておこう。

茅森は役満ツモ条件、井出は三倍満ツモ条件。

いずれも現実的ではない条件だ。


そして現状2着、先ほど満貫を和了した近藤の条件は倍満ツモ。

これまた厳しい条件ではあるが、不可能ではない。

チンイツか、メンホンチートイツか?

いずれにせよ一色手をまずは目指すことになるだろう。


ゆーみんは流局時手を伏せ、ノーテンを宣言できる。

この局を乗り切れば勝ちだ。



さあ、注目の近藤の配牌は……?

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どの色にもよっていない、微妙な手。

とりあえず国士も見つつ、中張牌から打ち出していく。


茅森、井出も国士へ。

しかし両者とも和了に近いとは言えない。おそらく成就することはないだろう。


ゆーみんは当然の配牌オリ。近藤に倍満が出ないよう、脇の2人にまさかの国士が出ないよう。必死で祈る。


さて、近藤の手牌は全くまとまらず、15巡目でこの形。

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メンホンチートイツのリャンシャンテン。しかし残るツモはあと3回。

2連続で牌を重ねてリーチ。ハイテイでツモり和了るしかない。

ほとんど不可能に近い、奇跡みたいな話。しかし彼は、最高位・近藤誠一は、奇跡を出迎える準備を果たした。

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東、7mと重ねメンホンチートイツテンパイ!

残るツモはあと1回!

リーチツモメンホンチートイツハイテイ、ついでに一発。

きっちり倍満でゆーみんを捲ることができる!

万感の思いをこめてリーチ!



待ちは8m!この8m、まだ山に1枚残っている!


ゆーみんはただひたすら祈るだけ。ここまで全力で、懸命にやれることを全てやってきた。後は天命に任せるだけ。


さあいよいよ近藤のツモ番。

この牌で、第12回モンド王座チャンピオンが決まる。


名人戦代表として……!


最高位戦の代表として……!


そして何より、近藤誠一として……!



全ての想いをこめてツモったその牌は……!!



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8mではなかった。





南四局

近藤1人テンパイ

試合終了




優勝


魚谷侑未



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2年連続、3回目の優勝を果たしたゆーみん。

対局中は決してこぼさなかった涙が、インタビュー時には次から次へと溢れていた。


楽な戦いではなかった。

最終戦、大きなリードを持って迎えたものの、包囲網にかけられ失点の連続。

しかしそれでも諦めることなく、前を向いて立ち向かっていった。各者の親番を消化していった。


実は彼女は第3戦まで1度も放銃をしていなかった。

そうして貯めたアドバンテージ。最終戦では放銃の連続となったが、局の消化という対価を手に入れていた。

マイナス要素である「放銃」さえもプラス要素に変えて、彼女は優勝を掴み取った。



しかし、しかしどんな言葉を尽くしても。

本人の綴ったこの言葉に勝る表現はないだろう。


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おめでとう魚谷侑未!


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おしまい