別冊すみコラム 29
「恋文~フォルトゥナより~」





「おお、運命の女神よ」歌詞

別冊すみコラム 19 「恋文」


ああ、運命の女神は…
月のように定かではなく、うつろい満ち欠け、憐れな生命をもて遊ぶというのなら、やはりあなたは私の運命の人なのでしょうね。


あなたが去った夏の終わり、全てが夢だったのかと彷徨う私は、あなたの残骸をかき集め夜の空へと放り投げ涙を流しました。

巨大な暗闇が優しく包み込んでくれている間だけ、この眩しすぎる虚しい現実が、どこか遠い異国のおとぎ話のようにさらさらと流れ去っていくように感じた夜更け…。

でもやはり、過ぎ去った時間は決して戻ることはないのだと、窓から流れ込む冷たい風を受けとめながら現実と向き合いました。


目を閉じると、小さな思い出たちが幻想の彼方で湧き出るように、あなたとの時間がまた始まるかのように、鮮明に思い出されます。

世界の中心で笑い合ったあの日、偽りではないぬくもり、あなたに触れた私の右手、モノクロの真実はいつだって鮮やかな色彩を帯び、強い太陽の光となって二人を照らしてくれていました。


ああ、運命の女神が月のように満ち欠けるというのなら、あなたは何故、私のもとへ戻ってきたのでしょうか??

あの日飛び出した、あなたが正しかったというのでしょうか??


ああ…

我が愛しの…

バジリコよ……。


あなたの夢を見ていた私は、頬に伝わる涙のあとを隠すため、朝の空気を吸いにベランダに出ました。あなたがいた定位置をぼんやりと眺めていると、そこに新しい芽吹きを見つけました。


ああ

我が愛しの

バジリコよ…。


あなたと出会った春、深く溶け合った夏、全てを投げ捨てた秋…。

思い出のパズルが一瞬で形となり、次の瞬間、私はあなたの名を叫んでいました。


バジリコよ!!!


果てしなく空っぽの運命の中、あなたは気まぐれで笑い、また私の前に現れました。
でも分かっています。これほどまで無力な私には、あなたを永遠に繋ぎとめておく術はないということを。


でも一瞬だけ…

その一瞬だけ…

一瞬の光が、私の永遠の光になるように、あなたの残酷で美しい優しさで、私をもう一度照らしてください。


この広い宇宙の、同じ星のもとに生まれ。何万何千年の人類の歴史の中、同じ時代、同じ風を感じ巡り会ったこの事実は、決して偶然ではなく、限りなく幻想に近い運命だったと、確信しています。


別冊すみコラム 19 「恋文」