生食か、加熱食か!? | 暮らしに虹をかける会

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こんにちは、吉冨です。


「野菜は生食がいいですか、加熱食がいいですか」という質問をされることがあります。


これは、野菜だけでなく、肉、魚、穀物、その他の食材すべてにおいて、そもそも生がいいのか、それとも加熱がいいのかという食事の普遍的なテーマのひとつではないでしょうか。


自然界で生きている動物たちはもちろん火なんて使いませんから全て生食ですよね。火を使用している(加熱料理している)のは人間だけです。





火を使用した調理・料理は、人間の単なる贅沢的行為なのか、それとも栄養学的にも生物学的にも必要な行為なのか、というかなり大きな深いテーマになってきます。これは、実はとても重要なことだと筆者は思っています。


そこで、私たちホモサピエンスであるヒト族の本来の食性という視点から迫っていきたいと思います。検証するにあたり、考古学、人類学から見ていく必要があります。




◎進化における肉食と火の使用


まずは、ヒトの登場や進化の過程をみていきましょう。今から約1億年前にツパイやメガネザルのような原猿類が誕生し、約3千年前にはテナガザルのような尾がないヒト上科が誕生します。そして、約1700万年前にはオランウータンに類似した大型のサル系のヒト科が誕生し、ついに約700~600万年前に人類が登場します


ここから人類の過程を年代の流れから見ていきましょう。(必ずしも進化したとは限りません)
特に脳の容量の変化に注意してください


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猿人(アウストラロピテクス)…約400万年前、脳は400~500cc、身長120~140cm
直立二足歩行、道具の使用(ナイフの役割)



ホモ・ハビリス…約200万年前、脳は700~800cc、身長130cmほど



原人(ホモ・エレクトス)…約180万年前、脳は900~1100cc、身長160~180cm



ネアンデルタール人…約50万年前、脳は1300~1600cc、身長160~180cm
(以前は旧人とされていたが、今ではおおむね別とされている)



新人(クロマニヨン人など)…約20万年前、脳は1500~1600cc、身長160~180cm

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猿人(アウストラロピテクス)が食べていたものは、葉、木の実、果実、虫、魚、動物などでどちらかというと植物性が多かったといわれています。アウストラロピテクスのような類人猿は私たち現代人よりはるかに植物性食品(葉、根)の消化がすぐれていました。腸も現代人より大きかったとされています。




※アウストラロピテクスの頭蓋骨


しかし、この頃から直立二足歩行道具の使用(ナイフの役割)により少しずつ狩猟のスキルが上達していき、いよいよ約200万年前から脳の発達をはじめとした体格の変化および食性の変化が見られます。


約200万年前のホモ・ハビリス脳は700~800ccまで容量が発達します。石器により獲物の殺傷が可能になり、皮をはぎ、肉を切り取り、骨髄を砕くことが容易になり、肉食が増えたことにあります。また地球の気候変動も起きており、寒冷化により植物性が減ってきたことも関係しています。



※ホモ・ハビリスの頭蓋骨の成形


約180万年前のホモ・エレクトスでは脳は900~1100ccまで上り、ネアンデルタール人新人のクロマニヨン人になると脳容量はさらに大きく最大1600ccまで上ります。


この体格の変化を解剖学から見ると、今まで植物性に適応していた大きな腸が小さくなり、逆に動物性脂質の摂取が増えたことにより脳が大きくなるという、いわゆる「脳と腸のトレードオフ」が発現したといえます。





進化の過程におけるこのトレードオフの現象はなにも人間だけではありません。例えば、鳥類における進化では空高く飛べるようになるために、腸が縮小し、代わりに羽のまわりの筋肉を増大させたのです。この場合「筋肉と腸のトレードオフ」ということになります。脳より羽の筋肉を優先させる必要があったのでしょう。


話をヒトに戻しますが、ではこのトレードオフの現象と体格の変化(脳容量の増大など)は、単に肉食だけがそうさせたのかということになりますが、実はこれだけではまだ説明になりません


ヒトは他の大型類人猿に比べ、歯(臼歯)・顎・顎の筋繊維・口・胃をはじめとした消化器官のほとんどがかなり小さいのです。さらに、食物の通過時間はかなり短い動物です。(胃に関して言えば、犬は2~4時間、猫は5~6時間、ヒトは1~2時間)


これらを解剖学的に見ると、生の肉食だけではこのような変化は起こりません。ここには、火による加熱、つまり「料理」が要因としてあるのです。





言い換えれば、ヒトは料理(火を通す)することで進化してきたのです。


火を通した肉や野菜は生のままより消化率が一段と上がります。植物性の場合、火を通しデンプン質がゲル化することで、体内の消化酵素が働きやすくなり、例えば小麦の澱粉の消化率は95%まで上がりますが、生では71%です。他の消化率を見ますと、ジャガイモで加熱95%・生51%、バナナで加熱95%・生48%です。


さらに熱により細胞壁を破壊し、栄養成分を吸収しやすくなります。動物性の場合、コラーゲンを変性させ肉がやわらかくなり、タンパク質は加熱により変性し消化酵素によって消化・吸収がしやすくなるのです。調理卵の消化率は94%、生卵では51%。


料理したものは生のままより消化しやすいのです。これは家畜動物における実験調査でも明らかになっています。


ヒトの顎の弱い筋肉では生の固い食べ物を噛むのに適さず、火を通して柔らかくなった食べ物には適しています。腸が他の霊長類より小さいのは生の食物繊維を保持しておけず、料理によって高カロリー量を摂取することが可能になったため、食物繊維の多い食材を積極的に食べる必要はなくなったのです。
また火を通すことで、肉に寄生する細菌や寄生虫、植物にある毒性分を除去することが可能になりました。


ヒトの進化の過程においては、生食集団より料理集団の方がはるかに繁栄しにくかったといわれています。(ローゼルら 2005)


ヒトは動物の中でも特殊な生き物でした。火を発見し、それを利用する手口を探り、その火を使って料理することで進化してきたのです。



◎加熱食のデメリットと生食としての食べ物


火を使った料理食は消化や吸収の観点から言えば、とても動物にとって効率がよく、かつ労力エネルギーを抑えることのできるとてもよい方法でした。しかし、加熱食には当然デメリットがあります。


たとえば、ビタミンやミネラルという微量栄養素を多く失うというデメリットがあります。もちろん、加熱によってそれらがゼロという値までにはなりません。


近代的な文明社会から離れ、原始的な生活を営む先住民族は近代人より健康的でいわゆる現代病の疾患はほとんどありません。そんな彼らでも食事のほとんどが料理を基本としていますが、ではどうやってビタミンやミネラルを得ているのでしょうか。

獲物の動物を捕えた場合、彼らはまず肝臓をはじめとした内臓や腸を生のまま食べることが多いようです。これは生でも柔らかいことが起因しているでしょう。生き血も生のまま飲みます。彼らが肉を加熱する場合は、ほとんどが筋肉質の固い部分です。


私たち日本人が以前よく食べていたレバ刺しという文化があったように、生の内臓は柔らかくビタミンが豊富に入っています。また、家族で食事をする時は捕えた大きな獲物や植物性を調理しますが、それ以外は個々が虫やミミズ、貝類、小魚などを捕っては生のまま食べることがよくあるそうです。





加熱によるデメリットは他にもよく言われるのが、メイラード化合物です。肉を焼けば焦げ目などがつきます。確かにメイラード化合物の過剰の摂取は発がん性の心配もありますが、私たちヒトは火を使用して相当な年数が経っていることもあり、他の哺乳類より有害性に対する抵抗力はしっかりもっていると言われています。通常の食事で摂取するメイラード化合物の量であれば左程気にすることはないでしょう。


また、近代人は植物性を生のまま食べれるように、高品質な植物性食品(野菜)を品種改良により生み出しています。本来の自然界にある野生種では今のヒトが生のまま食べれる消化機能をほとんど持っていませんが、私たちが開発した栽培種は繊維質も少なく毒素もかなり低減できていますので、生のまま食べるのにもってこいの食品が多く存在します。


これらを上手に利用していけば、微量栄養素はきちんと摂取できるはずです。




◎生食のみで生活している部族は存在しない


野生のものを生のまま食べて長期間生きたという記録はどこにもありません。たしかに近代社会では、品種改良により生でも食べれる高品質な野菜などの栽培種により栄養を得ることができるでしょう。しかし、他動物と同じ自然の生き方を尊重していくとしても、野生種の食べ物ではヒトはそれをきちんと消化し栄養することはできないのです。何よりエネルギー不足になるでしょう。


生食のみの実践者を対象に行ったドイツの調査において、45歳以下の女性のうち30%が無月経症状をおこしがちであることがわかったという報告があります(wikiより)。



◎まとめ

「生食か、加熱食か」の疑問の答えは「ヒトは加熱食に適しているです。

しかし、近代発明された品種改良の栽培種では生でも食べれるようになっていますので、それらを上手に使っていくのも一つの手かもしれません。が、やはり消化や吸収率の面から言えば効率や労力のパフォーマンスは決してよくないでしょう。



参考文献:『火の賜物』リチャード・ランガム著