サフラン | kyupinの日記 気が向けば更新

サフラン

アヤメ科の植物、サフランは香味料、染料として4000年以上使用されている。ギリシャのクレタ島はサフランの輸出により栄えたと言われている。(とは言っても紀元前15世紀頃の話だが・・)


十字軍の遠征以後、ヨーロッパ、中東で盛んに栽培されるようになった。日本では明治19年頃から栽培されるようになったらしい。また日本ではクロッカス属の秋咲き種をサフランといい春咲き種をクロッカスと呼ぶが、これは実は異なるものだ。日本で手に入るサフランは大部分は中国産と言われている。スペイン産のものもある。サフランの雌蕊を薬用として用いるのだが、1個の花から取れる雌蕊部分はわずかであるため、ハーブとしてのサフラン1kgを調整するのに約40万本のサフランを必要とする。日本の主産地は大分県竹田市であるが、1軒の農家が出荷できる量は1kgに満たない。そういうわけで、サフランはとても高価である。


サフランの用途は主に、染料、香料、薬である。サフランは赤紫の花を咲かせるが、ハーブ・サフランは、赤紫~濃紅色の粉末である。染料としても使われるぐらいなので、水溶液などが服などにつくとなかなか取れない。香料としては、イタリア料理のパエリアなどに使われる。他の料理にも使われていそうだが、これについては僕は詳しくない。独特の良い香りがする。


薬用としては、
1、婦人科領域   
2、精神科領域


に特に用途がある。婦人科領域については、古代エジプト・ギリシャの時代から、婦人薬として用いられ、鎮静、鎮痛、通経薬、血の道症、月経不順、ヒステリー、更年期障害などに使用されてきている。子宮興奮作用もあるため、妊娠中に服用すると流産の危険がある。(妊娠中は禁忌)稀少月経、遅発月経、生理痛などに効果がある。 もともとサフランは、抗血栓作用、抗凝固作用がある。月経困難症の病理が微小血栓にあるのではないか?という説があり、もしそうなら、サフランの効果が説明できる。


2、精神科領域
サフランには精神安定化作用、抗不安作用があることが昔から知られている。船酔いの防止に使われていたという。いわゆる自律神経失調症の基本処方となっている。古典的には、「心憂鬱積、気悶して散ぜぬものに血を活かす。久しく服すれば、精神を愉快にする。また驚悸を治す。」「驚怖し。恍惚たるには、さふらんを水に一夜浸して服す。」とある。17世紀の植物学者、トゥルヌフォールは、ある夫人がサフランを摂取しすぎて笑いが止まらなくなったのを見たと記している。


昼間にサフランを服用した場合、少し眠い。夜にサフランを服用した場合、不眠に効果があり、特に熟眠感が得られるようだ。精神科のいわゆる、不安、緊張、抑うつにも効果があるようだ。うつ病の人に使用した場合、やや口数が増えるなど精神症状が変化することがあるので、どういう機序かわからないが、うつにも効果があるように思われる。だから、ベンゾジアゼピンが際限なく増えてしまっている患者さんに使用する場合がある。(眠剤を減らすためにこれを用いる) 使用量であるが、だいたい0.25~1.0g程度と思われる。(1日量)


うちの病院では、0.15~0.3g就前に処方することが多い。実はこの生薬は1gが500円ぐらいするのでかなり高価だ。一般の薬局で買うともっと高い。ツムラだと202番になるが、これは欠番となっている。しかしオースギ202として、大杉製薬が発売しており、これは保険適応がある。(しかし単独で使えない、他の漢方と併用する必要あり)  だからこれを服用したい人は漢方専門医か、漢方に興味を持っている精神科医に相談するしかないと思う。実際のところサフランは普通の精神科病院では、なかなか置いていない。体力的には普通~強めの人が合う。体が弱い人は下痢をしたり、胃を悪くすることがある。ただ量を減らしてうまくいくこともある。


ところで、この薬剤の禁忌は、
1、妊婦
2、月経過多の人(出血が増える)
3、喀血してるような人
4、乳癌


乳癌に悪い理由は、乳癌の再発防止には卵巣機能を抑制することになっているから、サフランの卵巣機能を正常化し更に盛んにさせることは悪化の原因になるため。


最後になって、こんなことを言うのもガクっと来るかもしれないが、この薬でうつ病を治すのはやや難しい。精神に作用するとは言っても、その作用は小さいからだ。補助的に使うことに価値がある。一般に精神科の西洋薬は、漢方、生薬系の薬物に比べ段違いに効果が大きい。こういうことを知っておいてほしい。


ある30代後半の拒食症の患者さん。あまりに睡眠薬が増えすぎたので補助的にサフランを使っていたら、20年ぶりに生理が来たそうだ。本人はすごく喜んでいた。まぁこんな風な薬なんだ。


(これは2003年頃にウエブにアップしたものをいくらか加筆したものです)