レグテクト | kyupinの日記 気が向けば更新

レグテクト

レグテクト=アカンプロサートカルシウム 

アルコール依存症患者の断酒補助剤、レグテクトが2013年5月27日に発売されている。レグテクトは従来の嫌酒薬に比べ、脳に働きかけるタイプの新しいアルコール依存症治療薬である。余談だが、5月27日は大安ではなかった(先勝)。

剤型は333mg錠のみである。この薬は漸増せず、最初から朝、昼、夕食後、1日6錠服用するように推奨されている。腎機能の衰えている人は少なめに始めた方が良い。実際、アメリカの書物では、クリアチニン・クリアランス値が30~50ml/分の人は1回333mgから始める(つまり1日3錠)ように薦められている。

レグテクトは、ドイツのメルクセローノ社からの導入品であり、日本では日本新薬が販売するようである。アメリカでも333mgの剤型しかなく、しかも1日6錠から始めるなど日本と同じである。(精神科関係の薬は、この方がむしろ珍しい)

日本ではレグテクトだが、アメリカやヨーロッパでは、カンプラル?(Campral)と言う商品名である。たぶん、日本では似ている名前の薬があったためと思われる。

海外の発売の状況
1987年フランス
1994年ヨーロッパ各国
2004年アメリカ
2013年日本


いつもながら日本では発売がかなり遅れている。ただし、レグテクトは2012年時点で、世界で24カ国しか発売されていないので、大幅に遅いとまではいえない。

日本では従来、ノックビンとシアナマイドが嫌酒薬として処方されていたが、これらはアルコールの分解を阻害し、簡単に言えば僅かのお酒で悪酔いさせ、飲酒に嫌悪感を抱かせるタイプの薬である(アルデヒド脱水素酵素阻害薬)。つまり、身体面に悪影響を及ぼし、2次的に飲酒を阻害するタイプといえる。

上記の2剤は、日本ではシアナマイドがより多く使われていたが、真に飲酒をやめるつもりのない人たちには無意味である。シアナマイドは液剤であるが、これはシアナマイドが空気中で不安定だったことによる。ノックビンは半減期がなんと60~120時間と言われており、いったん服薬すると、完全に中止しても体内から一掃されるまで1~2週間を要した。また、アルデヒド脱水素酵素を非可逆的に阻害すると言われている。それに対し、シアナマイドは薬効を及ぼす時間が比較的短く、またアルデヒド脱水素酵素を可逆的に阻害するタイプなので、まだ安全性が高く扱いやすかったのである。

レグテクトは上記2剤に比べ、脳の「飲酒欲求」を標的とする。つまり本質的な部分に作用すると言われている。

レグテクトの作用機序はまだ完全にはわかっていない。興奮性神経伝達物質、グルタミン酸の作用と関連する神経系の過活動に拮抗すると考えられている。レグテクトの薬理作用は、部分的には、NMDA受容体に対する拮抗作用によってもたらされている可能性がある。

一般に、適応が取れていないが、飲酒の渇望を抑制する薬物として、書物的に、あるいは経験的に、トピナ、ガバペン、ブプロピオンが挙げられると思う。この3剤は、トピナ、ガバペンは抗てんかん薬、ブプロピオンは抗うつ剤である。

また、オピオイド受容体拮抗薬(ナルトレキソン、ナルメフェン)も飲酒の渇望を抑制する。

オピオイド受容体拮抗薬は、アヘン類オピオイドやアルコール飲用によって生じる「ハイな気分」を軽減、消失させる。またこれらは、慢性的なアヘン類やアルコールの乱用からの離脱に伴うこれら薬物への渇望を軽減、消失させる。これらはアメリカFDAにより、アルコール治療薬として認可されているが、本邦では発売されていない。

レグテクトは、飲酒を中断した後、禁酒を継続するつもりのある人に対し治療目的として処方されるが、断酒の気持ちがない人には無意味である。

その意味で、レグテクトでさえ、その患者さんの断酒のモチベーションのあり方は非常に大きい。また、精神科におけるカウンセリングや断酒会、生活指導などの役割がより小さくなるわけでもない。

あくまで、アルコール依存症患者の断酒補助薬なのである。まだ禁酒を達成していない人にはレグテクト効果は証明されていない。

レグテクトの副作用は初期に出現しやすく、一般に一過性のものといわれている。頻度の比較的高いものは、頭痛、下痢、鼓腸、腹痛、知覚異常である。また種々の皮膚反応もみられる。レグテクトは急激に中断可能である。これは長期に服薬していても同様である。(つまり離脱症状がない)。また、レグテクトには習慣性もない。

アメリカの書籍では、クリアチニン・クリアランス値が30ml/分以下の人はレグテクトは服薬すべきではないとされている。

注意事項として、レグテクトは希死念慮を悪化させることがあるといわれている。過去に自殺未遂などがあった人はできれば避けたい患者である。本邦では、禁忌として、

禁忌(次の患者には投与しないこと)

1. 本剤の成分に対し過敏症の既往歴のある患者
2. 高度の腎障害のある患者[排泄遅延により、高い血中濃度が持続するおそれがある。]


が挙げられているが、慎重投与として、

慎重投与(次の患者には慎重に投与すること)

1. 軽度から中等度の腎障害のある患者[排泄遅延により血中濃度が上昇するおそれがある。

2. 自殺念慮又は自殺企図の既往のある患者、自殺念慮のある患者[自殺念慮、自殺企図があらわれることがある。]

3. 高齢者[血中濃度が上昇するおそれがある。

4.高度の肝障害のある患者[使用経験がない。]


上記のように注意喚起している。また「重要な基本的注意」として、

本剤との因果関係は明らかではないが、自殺念慮、自殺企図等が報告されているので、本剤を投与する際には患者の状態を十分に観察するとともに、関連する症状があらわれた場合には、本剤の投与を中止するなど適切な処置を行うこと。 患者及びその家族等に自殺念慮、自殺企図等の行動の変化があらわれることのリスク等について十分説明を行い、医師と緊密に連絡を取り合うよう指導すること。

と言う記載もある。

レグテクトの半減期は、腎機能により変化するが、20~33時間程度と言われている。一部の患者さんでは、毎回2錠、計6錠も飲まなくても有効である人もいるらしい。

なお、レグテクトの催奇形性リスクはCである。

【C】
動物生殖試験では胎仔に催奇形性、胎仔毒性、その他の有害作用があることが証明されており、ヒトでの対照試験が実施されていないもの。あるいは、ヒト、動物ともに試験は実施されていないもの。注意が必要であるが投薬のベネフィットがリスクを上回る可能性はある(ここに分類される薬剤は、潜在的な利益が胎児への潜在的危険性よりも大きい場合にのみ使用すること)。


参考
精神的渇望とトピナ