この夏、今までとは違う
亡くなった方と
残された方の間には温度差がある
残された方々は、病院でチューブに繋がれた姿などが鮮烈な映像として残っていて
それが元気な時の面影とかけ離れているために
一層受け入れがたい
1日でも長く命を永らえてほしいという気持ちと
こんな状態を本人は望んでいないだろう、という気持ちの狭間で葛藤を続けた傷も癒えない内に
触れることが出来なくなってしまう
「今も苦しんでいないだろうか」
「本当に良かったのだろうか」
肉体を持って生きている人々は
自分の心の痛みで感じる苦痛を、亡くなった人々に反映して苦しんでしまう
けれども
亡くなった方々は
すでに肉体から解放されているし
心が痛む感覚も、生きている人とは異なる
もちろん
残して来た大切な人が
「さびしい」と言って泣いているのを見れば
「僕だってさびしい」と考えている
けれども、そう思うと同時に
亡くなった方には、残してきた人々が
絶対に大丈夫
だという確信がある
だから
この男性も、彼女に寄り添って
肩をあやすように叩きながら
「大丈夫、大丈夫」と繰り返している
それを彼女に伝えると
「全然大丈夫なんかじゃない！」
と悲しむ
この世とあの世では
大丈夫の感覚が全く違うのだ
この世では
転んだり
失敗したり
失恋したり
傷ついたり
ましてや、大切な人を亡くしたら
全然大丈夫じゃない
あの世では
失敗も、落ち込みも、悲しみも
乗り越えられずに打ちひしがれて時でさえ
大丈夫なのだ
いつか乗り越えられるよ
とか
必ず笑える日が来るよ
という保証がなくても
それでも大丈夫なのだ
「仕方のないことってあるんですよね」
と言った
この世にいる人間は
もっとやりたいこともあっただろう
彼女を残して無念だろう
心配だし、悔しいし、さびしいだろう
と、考える
彼にももちろん、そういう想いはある
それでも
仕方がないと納得しているし
彼女は大丈夫だと確信している
人間は心の痛みをダイレクトに身体で感じるから
傷が癒えずに興奮している時は
彼は冷たい
私だけ悲しんでいる
勝手に死んじゃって、自分だけ楽になってズルい
と恨めしく思ってしまう
そんな時には
「ふざけんなよ！お前1人置いていけるか！」
「俺はいつまでもお前を離さないゼ」
言ってほしいと願うけれど
そんなことを言うのは
アドレナリンやドーパミンがドバドバ出ている、興奮した生身の人間だけで
もし、時間の感覚のないあの世で
この先5年、10年後も
彼が変わらずに意気込んでいたら
実際はかなり困ったことになる
傷も段々に癒えて
落ち着いて振り返ることができるようになった時
「仕方のないことってあるんだよ」
「何があっても大丈夫だよ」
と彼が考えていてくれることが
今度は大きな慰めになって
この先も続いていく人生に踏み出す勇気にもなる
あの世とこの世の間には
受け取る側の人間の心が作り出す
温度差も時間差もある
時間も温度もあるこの世で
時間が経過していくにつれて
その差はゆっくり埋まっていく
亡くなった方々も
彼もずっと
同じところで、変わらずに
私たちのことを待っていてくれる
ずっとずっと
大丈夫だよ、と繰り返しながら
見守っていてくれている
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