~白い巨塔から退院する親友に捧ぐ~
夕暮れ時の京王線は各停ということもあってか、それほど極端な混雑もなく淡々とマイペースに、ゆっくりだが着実に調布方面に向かっている。
都内で行われたセミナーを終え、俺は今日は直帰する旨を社に伝え…なんのためらいもなく自宅のある亀戸とは逆方向の電車に飛び乗った。
謎の外国人も住まう砂壁の安アパートに暮らし、今は訳あって仙台の白い巨塔から関東の空気を…関東の洗練を…関東の震撼を切望するあの男をふと思う。
その男はこう言っていた。
仙川に住みたい。
仙川の二郎を毎晩食べたい。
仙川の素晴らしさ…かけがえのなさを、後世にまで伝えたい。
その男の暮らす仙台とは、名前こそ似ても似つかぬ街、仙川。
遠く離れた東北の中心地で、その男はただひたすらにブログの更新を待っているはずだ。
誰かが「ラーメン二郎 仙川店」に行ってくれないか、と。。。
その男にとって、心身ともに唯一の栄養源なのがラーメン二郎仙川店だ。
ふと、仙川店レポをされてたブロガーさん達のコメント欄を開くと、必ずその男のコメントが残されていた。
何故そこに!?
何故そこに、坊主頭の男がいるんだぁ!?
不必要に長く、時には本文よりも長いコメントを。
そして、店の関係者でもないのに「感謝」のコメントまでをも。
仙川。仙川。仙川。
その男、ラーメン二郎仙川店以外のブログは流し読みしている事実を俺は知っている。。。
井の頭線で渋谷から明大前まで行き、京王線に乗り換えた。帰宅ラッシュを避けるべく、「各停」で悠々と仙川へと向かった。
あ゛
「八幡山」止まりの各停に乗ってしまったようだ...
八幡山ってドコだよ...
「仙川」の2つ手前だった。
もうそれなりの回数行っているのに、まだ慣れていないのか、俺。
再度、橋本行きの列車に乗り継ぎ、ようやくたどり着いた。
仙川~、仙川~。
駅前の桜はまだ寒そうだ。
思えば、あの男と初めて会ったのもこの桜の木の下だった。
馬鹿な奴…
仙川にさえ来ることがなければ…井の中の蛙でいられたなら、こんな現在の苦悩はなかったのだろうに…
中畑清も住む街・仙川。
「仙川オレンジ」と呼ばれるテント看板が視界に入った。人影はまばらだ。
俺は財布をあさり、小銭を9枚握りしめた。
後編へ続く。
※
一部、砂壁ロード。より引用してます。