
美醜の大地 第102話
真っ暗な部屋の中で、1人の老人がベッドの上で目覚めた。
老人は絢子の祖父であり、高嶋津家の当主であった。
誰かいないかと声を出すと、部屋に執事の青木が入ってきた。
事情があって、寝室から老人を別室に移したとのことだった。
老人は安心すると、感慨深げに昔を振り返る。
老人はこれまで、様々なものを人から奪い取って生きてきた。
「土地も家屋も、会社も人もどんなにくだらぬ、がらくたであっても」
「手に入れるまでは金銀財宝のように輝いて見えるのが不思議でのう」
だが取り憑かれたように欲した物も、人も、手に入れると無価値な「がらくた」と化し、老人はすぐに飽きてしまう。
絢子の生みの母もその一人であり、彼女は人生や家族を奪われ、老人に蹂躙された被害者であった。
老人の人生は欲と飽きの繰り返しであり、「がらくた」は積み上げられてきた。
高嶋津財閥はその集積物であり、老人にとっては子孫すらも「がらくた」の一部であると言い切ると、自嘲気味に笑う。
だが青木からは衝撃の事実が告げられる。
「保親(やすちか)様も、絢子様もこの世にはおられません」
青木によると、長男の保親は1週間前に死亡し、孫(長女)の絢子も10日前から行方不明だと言う。
10日前に行われた絢子の結婚式では恨みを買った者たちにより竜楼閣は破壊され、絢子も海に沈んだ。
保親の死因は絢子に首を切られ、出血多量で助からなかったとのこと。
さらに畳み掛けるように青木は伝える。
「ご親族一同の結論として、高嶋津財閥は解体される運びとなりました」
後継者は事件を起こし、二人共に死亡し、会長も昏睡状態で、
親族は生き残る道として解体を決意した。
そして従業員、使用人はすでに解雇され、もう残っているのは青木のみとのことだった。
あまりに突然の出来事に老人は慄然とする。
すべては老人が昏睡状態のときに起こり、青木が財閥の解体をスムーズに行えるよう、親族に進言していた。
老人は青木に、何故恩を仇で返すのかと叫ぶ。
36年前。青木がまだ下男として働いていた頃、恋仲になった女中が屋敷で働いていた。
将来は結婚を考えていたほど、仲睦まじく過ごしていた2人だが、その様子を目撃した老人は女中を無理矢理犯し、口止め料を押し付けた。
女中はショックのあまり、屋敷内の木で首を吊り自殺する。
恋人の遺体が運ばれて行く様子を青木は涙を流し、見つめていた。
そのことがあって以来、青木は静かな憎悪を抱えながら、高嶋津家が滅ぶ日をひたすら待ち続けていたのだった。
老人はそれでも屋敷に残る「がらくた」にすがって生きると言うが、青木によって屋敷の物は全て処分されていた。
青木がカーテンを開けると、部屋の中はがらんどうとなっていた。
「あなたはすべてを奪われ、身ひとつでこの世に放り出されたのです」
「あなたのがらくたも、築いた城も、血を受け継いだ人間も、もはや何ひとつ戻りません」
青木はそう言うと、懐から絢子の生みの母の剃刀を取り出し、老人に近づく。
「そして、たったひとつ残ったがらくたさえも」
狼狽える老人の前で青木は自ら首を切りつけ、その場で絶命する。
「がらくた」がひとつ残らずこの世から消え去り、老人はただただ放心するのだった。
続く。
今回は前回から10日後のお話で、絢子は行方不明のままだそうです。
長男も死亡で、さらに高嶋津財閥も解体。
青木も死亡したことで、生き残った絢子の祖父は本当に追い詰められることになりました。
ハナたちだけではなく、高嶋津家には多くの人が老人の餌食になり、人生を破壊されて来たのですね。
青木の過去が辛く、老人への深い深い憎しみに共感しました。
もう野垂れ死ぬしかない高嶋津財閥の元当主。
絢子のほうは本当に死んだのか、まだ疑っていますが
次回はハナと鶴田さんの無事な姿が見たいです。
内田先生や菊乃さんの様子も知りたいです。
あと数話は平穏に終わるといいですね🍀