-目覚めの予感-
<いちごの場合>
ゆずちゃん…?
真剣なゆずちゃんのカオ。
あたしの傷のトコに触れてるだけなのに、どーかしたのかな…?
でも…何だかあったかい…
痛みが…ゆっくりと消えてった気がする…
何だろ、この感じ…
「…多分、もう平気だと思う」
ゆずちゃんがゆっくり手を離せば、ふうっと軽く息をついた。
「え…?」
あたしはきょとんとしたまま、ゆずちゃんを見つめる。
「傷、大丈夫だと思う。包帯外してみ?」
「でも…」
これから病院に行くのに…
あたしは戸惑い、包帯が巻かれた腕を見る。
「大丈夫。何かあったら巻き直してやるから」
ゆずちゃんの優しい笑顔。
思わずムネがキュンとする。
「う、うん…分かった…」
あたしはゆっくりと包帯を外していく。
スルスルと、解けた包帯が膝の上に落ちていく。
そして最後に…ガーゼをゆっくりとはがす。
え……?
さっき、塩酸をかけられたトコはまるで何も無かったかのよーに、キレイに元通りになってた。
「ゆずちゃん…?」
あたしはびっくりしてゆずちゃんを見つめる。
「良かった… 痕残らないで、綺麗に治って…」
ゆずちゃんは優しく笑いかけると、そのままあたしの膝の上に倒れ込んでしまった。
「ちょ、ゆずちゃんっ!?」
あたしは真っ赤になって起こそうとするけど、どうやら寝てしまったみたいだった。
…………。
あたしの膝の上で、優しく微笑みながらスヤスヤと眠るゆずちゃん…
何だか…たまらなく愛おしかった…
傷を治してくれたのは正直良く分からないけど、でもそれ以上に何て言うか…
たまらなく嬉しくて、安心して涙が零れそーになる。
サラサラの黒い髪…
ふふっ、寝顔可愛いな。
昔もこーやって、こうさぎと3人でよくお昼寝したっけ…
あの頃はまだパパも居て…
懐かしーな…
あたしはふいに涙が零れそーになる。
『泣かないで…』
え…
突然頭の中で声が聞こえた。
え、誰っ?
あたしは思わず辺りを見まわすけど、当然のごとく誰も居ない。
ゆずちゃんはあたしの膝の上で寝息を立ててるし…
『大丈夫、心配しないで? あたしはあなたに近しいもの… そしてそこの彼とも…』
空耳じゃない。
どーゆーコト…?
『…いずれ全て分かるわ。あなたの前世のコト、彼のホントの姿にも…』
あたしの前世?
ゆずちゃんのホントの姿?
何が何だか意味が分からない。
あたしは放心状態だった。
『早く眠りから醒めて…? 今度こそ正しい姿で…』
眠り…?
今寝てるのはゆずちゃんであって、あたしはちゃんと起きている。
それに正しい姿…?
あたしには全く意味が分からない。
『大丈夫… あたしが導いてあげるから……』
その後、その声は消えてしまった。
相変わらずゆずちゃんはスヤスヤと寝ている。
あたしたち以外誰も居ない部屋で、グラスの氷が溶けてカランッと乾いた音を立てた…