棺桶に入れられた父が黒服の男たちに運ばれていく。
父が動いたように見えたので、必死で男たちを呼び止め、「父はまだ生きています、箱から出して！」と訴えるのだが、人々は憐んだ様子でこちらを見つめ、「きっと空目だと思います」などと言う。
ようやくわたしも何かを察し、代わりに父の側に立ち、どうして死んじゃったのと子どものように喚く。
父は驚くほどちゃんと答えてくれた。俺だって死にたくなかった。現場での仕事で部下を庇うため。最後まで聞く前に、過呼吸のような自分の息遣いで起きた。そのまま声を上げて泣いた。夫も驚いて起きてくる。泣きながらいま見た夢を伝えると、悲しい夢だねと頭を撫でてくれた。
この時世で自分の生活が大きく変わること、遠方にある故郷になかなか帰れないことを暗示しているような夢だった。夢占いでは、家族が亡くなる夢は精神の自立を求める吉夢だそうだが、夢とは思えないほどの悲しみにしばらくぼんやりと起きていた。いつの間にかまた眠ってしまったようだ。薄暗闇のなか、静かだが強い雨の音で起きた。
あとどのくらい会えるのか。故郷の両親や祖父母、兄弟たちや、隣にいる夫にすら、ふとそう思う。