Larz ~イージージェットは悪くない、顔ピアスのひとびと、世紀末遊園地 | ツアーレポート

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アンヌマリーさんの車で空港まで送ってもらい、いざドイツへ。
アンヌマリーさんの車に乗る時は、いつも愛犬カリンが一緒だ。
カリンの毛がつかないようにと、手術服のような薄青色の羽織が支給される。

ジュネーヴからベルリンまでは、格安航空会社イージージェットを利用することとなっていた。
格安航空と聞いてまず思い浮かべるのは、昨年シチリアに飛ぶ際に使ったライアンエアー。
鬼軍曹のような係員による徹底した荷物検査。
預け荷物だけでなく機内持ち込み荷物に至るまで、一切の妥協を許さない個数制限とサイズ・重量制限がある。
そして規定を外れたものに関しては、容赦なく罰金が科せられる。
(昨年の恐怖体験の詳細にご興味がある方がもしいらしたらば、コチラの記事からどうぞ)

アレックスの家に1/4の荷物を置かせてもらい軽くしてきたと言えども、削ることの出来ない芸道具などは依然かさばったまま。
最後の最後、どうしようもなくなったら「かたわれ」(村田さんのライフマスク。白い顔に黒くて長い羽根が垂れている)をかぶって帽子だと言い張ろう、ファッションにまでは口出しする権利はないはずだ、などと話しながら戦々恐々として検査の列に並ぶ。
しかし意外や意外、イージージェットはゆるかった。
厳格な荷物検査がないばかりか、ひんぱんに笑顔までみせる係員たち。
ライアンエアーからしたらとても考えられない。
格安航空って言っても、みんなライアンエアーみたいではないのか。
もう二度とライアンエアーには乗るもんか。
かくして無事に、ベルリン着。


ドイツで出演することになっている音楽フェス、「FUSION FESTIVAL」のフライヤー。
しかしこの時点で、私たちはこれがどんなフェスなのか全く知らなかった。
HPを見てもドイツ語だし、分かっているのはとりあえずベルリン近郊なのだろうということと、今までメールでやり取りしてきた担当者さんたちはみんな英語が達者できちんとしているということだけ。

空港で荷物を待っていると、迎えの人から電話が来た。
「私たちは二人の日本人の女性です」と言うと、「僕たちは二人の男性で白と黒の服を着ています」とのこと。
さすがドイツの人、着く前に迎えに来てくれている上に電話もかけてくれるなんて。
ヨーロッパで時間通りに電車が運行するのはスイスとドイツだけという話をよく聞くが、真実のようだ。

さてはてゲートから出て待つこと30分、一向に迎えの人が現れない。
コールバックしても繋がらず、歩き回って探してもみてもそれらしき人は見つからず。
到着ゲートは人影がまばらでましてやアジア人なんて私たちしかいないのに、こんなに会えないことがあるだろうか。
途方に暮れかけたその時、ずっと空港をうろついていたパンクなカップルがふらふらとこちらに近寄って来た。
煙草の無心か何かだろうと思って身を固くすると、まったく想像もしなかった言葉が。
「すいません。もしかしてバーバラムラタですか?」
えええええ!
まったく、まったくの予想外。
確かに彼らは私たちの到着時からずっとここにいた。
けれどもその見た目たるや、どちらも顔にピアスがいっぱい、男の子の方はシド・ヴィシャスみたいな髪型に黒とショッキングピンクのパーカーで何かなよなよしてて、女の子は刈り上げた髪型にいかにもロックが好きそうな服装。
こりゃあ香ばしい人に違いないと思ってなるべく目を合わせないようにしていた彼らがまさか。
と言うか、男性二人でも黒と白の服でも何でもないじゃないか。

彼らの方は、「バーバラ」というヨーロッパ人女性と「ムラタ」という日本人男性のデュオだと思い込んでいたらしく、まさか私たちだとは思いもよらなかった様子。
驚きさめやらぬまま車に向かい荷物を積みこむと、大きいバンの後部座席には既に先客が。
覗きこむと、迎えの二人の4倍くらいハードな見た目のパンクスが三人、ちょこんと並んで座っていた。
革ジャン、モヒカン、顔ピアス、ドレッド、迷彩、鋲と、あらゆるハード要素を取り揃えているのに、意外にもシートベルトをきちんと着用している三人。
にこにこしながら、「ハロー」と挨拶をしてくれる。
か、かわいい。

見た目のハードさとは裏腹に、車内はとても静か。
かかっている音楽こそパンクなものの、時折誰かがぼそぼそと喋るだけで至って穏やかな2時間半の道中だった。

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遂に到着FUSION FESTIVAL。
どうやらここはLarz(ラーツ)という街らしい。
会場のどの辺りかは分からない、平屋の倉庫のような建物(あとから判明するがこれが事務所だった)の前で「ここに居る人たちが全てを知っているよ」と降ろされる。
車から降りて気温の低さにびっくり。 
ベルリンからどのくらい離れたところに来たのだろう。
すっかり秋のような空気の色。

フェスティバル前々日にも関わらず、敷地内には多くの人がひしめき合ってる。
どこからどこまでがスタッフさんなのだろう。
そしてもれなく皆さん顔ピアスをしている。
顔に何も付いていない人を見つけるのがむしろ困難なくらいだ。
事務所の近くにはテントの集落もある。
会場に向かう前にも、キャンプサイトのようなものをいくつか見た。
宿泊があるとは聞いているが、道中に町のようなものは全くなかった気がする。
この寒い中、「はい。これがあなたたちの宿よ!」とか言ってテントを渡されたらどうしよう。
よぎる不安。

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事務所から始まり、数人の人に手渡されようやく「ここで待っていれば担当の人が来るから」とソファのある部屋に通される。
至る所に描かれたグラフティ。
皆さんの見た目とも相まって、ハードだ、ハードめなフェスティバルのようだ。

しばらくして現れた担当・エリーちゃんは、顔にピアスは付いているものの知的で優しげな女の子。
まずは食事を食べましょうということで、フェスティバルの食堂に案内してくれた。

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一日目のフェスティバルごはんはタコライス的なもの。
FUSION FESはベジタリアン・ビーガンフェスらしく、フェスティバルごはんはもちろん敷地内の屋台などでも肉を食べることは出来ないと言う。
ハードな印象と反して意外だが、ヨーロッパの肉食に疲れてしまうことの多い私たちにとっては願ってもないこと。

ご飯を食べながら、エリーちゃんは様々なことを説明してくれる。
このフェスはカルチャーコスモスというアソシエーションが主催しているもので、今年で15年目を迎える。
会場となる広大な敷地はカルチャーコスモスの所有物で、かつては旧ソ連軍の軍用鉄道駅だったそうだ。
敷地を買い取った彼らはそこに住みながら、FUSION FESをはじめ様々なフェスを年間通して開催している。
FUSION FESの平均動員は実に6万人。
フジロックフェスティバルの約半分だ。
敷地内に数多ある格納庫と、個別に建てられた野外ステージが舞台となる。
この日敷地内にいる人々はみんなスタッフさん。
2日後のフェス初日に向けて、みんな夜を徹して作業をしているのだそう。
フェスのために働くことで無料でフェスに参加できる仕組みらしく、色々な人が集まってきている。
エリーちゃんもいつもここで働いているのではなく、普段は「演劇手法を使っての教育」に携わっているとのこと。
「まだ新しい教育学だけれど、非行の抑止に役に立つと考えられているの」とエリーちゃん。

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食事の後、会場内を少し案内してもらう。
一番上はキャバレー、二番目はシャワー、三番目は映画館。
ごつごつした埃っぽい敷地に、様々な色と形が散らばっている。
まるで世紀末の遊園地みたいだ。
崩れかけたような車が走りまわり、荒くれた見た目の人々が至る所で作業に没頭している。
格好良くて胸が高鳴る。



宿泊場所は、車で15分程のペンションだった。
「ミュージシャンの中にはキャンプを好む人もいるけれど、パフォーマーは体を冷やしたりしたら大変だからちゃんと宿泊を用意することになっている」とエリーちゃん。
よもやキャンプか、なんて思ったのは失礼な話だった。

会場から宿までは、予約制のシャトルが送迎してくれる。
シャトルの事務所に希望時間を伝えると、その通りに迎えにきてくれるのだそうだ。
運行時間は24時間。
なんと整ったシステムだろう。



ペンションにあった妙なガウン。
妙だけれども暖かい。
この日会場ではすべての上着を着込んでも寒く、貸してもらった毛布を体に巻いて歩いていた。
飛行機に乗るために減らした上着たちが悔やまれる。
これからも毛布を巻きつけて過ごすことになるのだろうか…。