☆☆卵子の老化 | 松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

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生殖医療に関する正しい知識を提供します。主に英語の論文をわかりやすく日本語で紹介します。

最近、時々メディアで紹介されるようになってきたのでご存知の方も多くなっていると思いますが、卵子は老化します。一生に一度しか作らないからです。誕生した時に一度卵子を作ったら二度と新しい卵子は作られません(本当は胎児の時に作られています)。後は、ただ減るだけです。
一方、精子は毎日作られていますから、あまり老化現象はありません。



排卵する卵子は一生の間に多くて500個程度ですから、ほとんどの卵子はダメージを受けて死んでいきます。元は200万個もある卵子が、上のグラフに示すように、どんどん減っていくわけです。グラフに3本のラインが引いてあるのは、もともと卵子を多く持っている方、普通の方、少ない方がいます。卵子が多い方は閉経も遅く妊娠のチャンスは高齢までありますが、少ない方は閉経が早いため妊娠するにはある程度急ぐ必要があります。また、もともと卵子を多く持っている方でも、卵巣の手術をすることにより、急に卵子が少なくなります。残りの卵子の数(原始卵胞から供給される卵子の数)は、最近血液検査で調べることができるようになりました。それが、AMH(抗ミュラー管ホルモン)です。
一方、死んだ卵子だけではなく、生きた卵子もダメージを受けていますから、20歳で排卵した卵子は20年分のダメージが蓄積しており、40歳で排卵した卵子は40年分のダメージが蓄積しています。このダメージの蓄積は、卵子の質の低下につながります。つまり、年齢とともに異常な卵子が増えていきます。このため、女性の年齢増加につれて、妊娠率が低下し、逆に流産率と奇形率が増加します。この仕組みは、現代の医学では変えることができません。新しい卵子が作れないからです。従って、不妊症かどうかは別として、早く妊娠を目指した方は、妊娠するまでの時間もお金もかからず軽い治療で済みます。しかし、治療開始が遅くなればなるほど、妊娠するまでの時間もお金もかかり、高度な治療が必要になり、最終的には妊娠できないで終わる方が増えます。卵子が少ない方は、高齢の方に近い状態と考えられています。時間は戻せませんので、残りの卵子の数を把握したうえで、今から効率のよい治療をしていくことが大切です。今の医療技術をもってしても、女性の場合には妊娠できる年齢に上限があります。しかもその上限には大きな個人差があります。