精子濃度と妊娠率 | 松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

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生殖医療に関する正しい知識を提供します。主に英語の論文をわかりやすく日本語で紹介します。

Lancetは臨床データを取り上げた論文としては最も信頼度の高い雑誌のひとつです。本論文はLancetに1998年に掲載された有名な論文で、一般集団における精液所見と妊娠率を前方視的に検討したところ、4000万/mL以上では妊娠率は変化しないことを示しました。

Lancet 1998; 352(9135): 1172
要約:一度も妊娠トライをしたことのない20~35歳の女性430名を前方視的に検討しました。精液検査をした後、避妊を解除して半年間追跡調査したところ、半年間で256名(59.5%)が妊娠しました。精子濃度と妊娠率の関係をグラフにしたところ、精子濃度が2000万/mLまでは妊娠率が直線的に増加し、2000万/mLで妊娠率が約10%/月でした。2000~4000万/mLでやや横ばいになり、4000万/mLで妊娠率が約16%/月でした。4000万/mL以上では妊娠率は増加せず、最大でも20%/月止まりでした。

解説:WHOの精液検査基準での精子濃度は、1999年に2000万/mL以上、2010年に1500万/mL以上と、どんどん基準が甘くなっています。自然妊娠の可能性を考慮すると4000万/mL以上を正常と考えた方がよいのかもしれません。また、本論文では、精子運動率や精液量は自然妊娠を予測する因子にはならず、正常形態精子率(あるいは奇形率)が精子濃度とは独立して自然妊娠を予測しうることも示しています。もちろん、精子の状態はその都度大きく変化しますから、一回の検査で全てを論じることはできません。ただし、自然妊娠(タイミング妊娠)ということを考えた場合には、精子濃度4000万/mLで線を引くことが理にかなっていると思います。