☆☆☆AMHは年齢とともに低下しません⁈ | 松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

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生殖医療に関する正しい知識を提供します。主に英語の論文をわかりやすく日本語で紹介します。

一般常識の誤り その6
「卵子は年齢とともに減少する」&「AMH=残存卵子数」ゆえに「AMHは年齢とともに低下する」。これは意外に思われるでしょうが、実は正しくありません。これまでに発表された論文では、不妊症の方を対象としている場合が多かったため、20代後半から閉経までのAMHと年齢の関係のデータしかありませんでしたので、下記の事実に気づかなかったのだと思います。
ある論文を読んでいたところ、その引用文献に衝撃的な論文を見つけました。PLoS Oneという雑誌で、生殖医療の臨床医はあまり目にしない雑誌ですので、2011年に発表されましたがほとんど知られていない情報だと思います。私たち生殖医療に携わる者にも患者さんにも驚きの事実は、「AMH ≠ 残存卵子数」つまりAMHは「残りの卵子の数」とイコールではないというものです。本論文は、卵子の供給のされ方、育ち方がどのようなメカニズムか考えさせる内容です。

PLoS One 2011; 6: e22024
要約:卵子(原始卵胞)は、胎児期に最大で700万個、出生時に200万個、年齢とともに減少します(2012.10.15「卵子の老化」をご参照下さい)。一方、生後3ヶ月から68歳までの女性3260名のAMHのデータをプロットしたところ、右肩下がりになっていません。1歳まで増加2歳まで減少8歳まで増加12歳まで減少24.5歳まで増加35歳までゆっくり減少、その後は閉経まで減少、という具合にジグザグに変化します。また、データ分析により、AMHに関与する年齢因子はわずか1/3であり、残る2/3は別の因子で決まることが明らかになりました。

解説:「AMHと残りの卵子の数は比例します」と説明されたのに、これはおかしいと思うはずです。卵子の数とは、原始卵胞のことを意味しているのですが、AMHは一次卵胞、二次卵胞、前胞状卵胞の顆粒膜細胞で産生されるため、原始卵胞の数を現してはいません。ヒト卵胞は、原始卵胞→一次卵胞→二次卵胞→前胞状卵胞→胞状卵胞の順に発育します(2013.4.22「ホルモン剤(ピル)の使い方でAMHが半減?」をご参照下さい)。原始卵胞から供給されて作られた卵胞で作られるものがAMHです。ですから、正確には「AMHは現在供給されている卵子の数」を反映しており、「現在残っている卵子の数」を反映していません。そう考えると、「現在供給されている卵子の数」が「現在育つことができる卵子の数」ですので、まさにその時点での卵巣の反応性(卵巣刺激して卵子がどのくらいとれるか)を現しています。AMHが低い方は、元の卵子(原始卵胞)が少ない方もおられるでしょうが、元の卵子(原始卵胞)は十分あっても供給される卵子が少ないだけかもしれません。ピル服用中やビタミンD欠乏の場合にはAMHが低下することは、以前ご紹介しました(2013.4.22「ホルモン剤(ピル)の使い方でAMHが半減?」2012.10.19「AMHとビタミンDの関係 その1」2012.10.20「AMHとビタミンDの関係 その2」)。ピル服用中は供給される卵子が少ないため、またビタミンD欠乏ではAMHを作る機能が抑制されるため、AMHが低下します。逆にピルを中止したり、ビタミンDを摂取するとAMHは増加します。原始卵胞は増えませんので、卵胞供給量の増減やAMH産生量の増減があるためAMHが増えることがあると考えると理解しやすいでしょう。

もう1点大切なことは、24.5歳がAMHのピークであり、それ以下でも以上でも少なくなることです。「AMHは0歳が最大で年齢とともに減少する」というのは間違いですから、24歳以下のAMH測定の際に重要な情報です。残りの卵子の数を早く知りたいと思ったとして、中学や高校くらいでAMHを採血してもあまり意味はないかもしれません。

AMHがジグザグに増減するメカニズムを考えてみましょう
原始卵胞の数はどの年齢でも減少するのですから、AMHが増加するのは不自然です。AMHが増加するのは、一生の間に3回(生後~1歳、2~8歳、12~24.5歳)あります。この期間は、原始卵胞から一次卵胞への供給量が増加していることになります。
生後~1歳プチ思春期が男女共に訪れることが知られています。この時期に、一時的にFSHが増加するためと考えられます。
2~8歳思春期前の段階になります。最近の研究で、思春期になる前に原始卵胞からの初期卵胞供給が増加することが明らかになっています。また、思春期の2年前からLH-RHとFSHが分泌されることが知られています。
12~24歳:思春期~思春期直後の時期、つまり生殖能力を持つようになる時期です。女性では8~12歳から思春期が始まり10代後半までに思春期は終わり(成長の停止まで)ます。まさに、妊娠の準備が完了する時期と言えます。
24~35歳でAMHがゆるやかに減少するのは、加齢による原始卵胞の減少分を原始卵胞から一次卵胞への供給量増加によってカバーしているのではないでしょうか。そして、カバーしきれなくなった時(35歳以上)、AMHの減少に歯止めが効かなくなったと考えると自然です。やはり、35歳までが妊娠適齢期といえそうです。

このように、原始卵胞からの卵胞供給はFSHと関連がありそうです。逆にFSHを抑制すると、卵胞供給は減少します。FSHの抑制とは、ピル使用中やGnRHa使用中を意味します。2013.5.21「☆☆ピル(OC)のメリット」でご紹介した、「ピル使用により卵子の減少を食い止め、妊孕期間を遅らせることができる」のは何故かという質問の答えがここにあります。

興味深いことに、AMH欠損マウスでは、原始卵胞からの卵胞供給が約3倍に増加するため、原始卵胞が枯渇するのが早くなることが知られています。しかし、FSHは高くありません。つまり、AMHは原始卵胞からの卵胞供給やFSHに対する感受性を調節している可能性が示唆されます。

「AMH ≠ 残存卵子数」ではありますが、妊孕性(妊娠できる力)をAMHが反映していることは間違いありません。