2015年5月16日
Jリーグ第12節

鳥栖 VS 名古屋 1-0(豊田)


前:4勝3敗4分 7位
後:5勝3敗4分 6位


~とてつもなく、大きな1勝
 そして新星 鎌田 の衝撃


■前提
2015年の第12節。
GWの連戦を1敗4分で乗り切った鳥栖。

対する名古屋は連勝も連敗もあり、安定していない。
さらにドミンゲスやダニルソン、田口と怪我人が続出。

それでも川又、永井にトゥーリオ、さらにノバコビッチが控えに居るほどの陣容。
鳥栖から見れば羨ましい・・


■スタメン
GK:赤星
DF:丹羽 菊地 谷口 吉田
MF:藤田 高橋
MF:水沼 池田 キムミヌ
FW:豊田

■前半
スタメンはここ最近のメンバーが揃う。
個人的にキモとなるのは「谷口」の位置。

相手に高さがあるならボランチに使って、DFにミンヒョクを入れて高さを確保したい。
運動量やスピードに特徴のある相手ならボランチでは機動力が足りないので
高橋を入れて、谷口はCBとするのがベストと思っている。

そして今日の相手はノバコがいなくて、永井の居る名古屋
スピードがあり、攻撃の高さはそこまでない、と読んでの采配、か。

そしてある程度はその采配は的中する。
永井はサイドで縦に突破できるものの、左足の精度が低く、決定機を作りきれない。
それを読んだ鳥栖DFは菊池、丹羽を中心に縦に行かれることは諦め
最後のプレーに対してプレスを怠らず、コースを限定することで対応した。

ドリブルもスピードは脅威だったが、中に行ってシュートだけはさせない、
そういう対応をすることで防いだ。

丹羽、菊地の実に老練な守備を見ることが出来た。


一番のピンチは川又が身体ごと押し込んでのボレー。
しかしこれは赤星が見事なセーブ!

さらにこぼれ球にもしっかりと菊地が反応してクリア。

さらにそのこぼれ球をトゥーリオがシュートするも
吉田が足にあて、赤星がはじいてクリア!
鳥栖のDFの連携と硬さが戻ってきたのを感じたシーンだった。

それ以外にもこの日の菊地はクロスに対して
「自分がクリアする」という意志がはっきりと見えた。

GKが林であればある程度任せて、キャッチさせることで
逆にこっちのチャンスとなる。

しかし赤星は弾くことはできてもキャッチまで期待できないシーンが多い。
それも踏まえて、DFとGKとでしっかりと連動し、
跳ね返すこと、セーフティーにクリアすることを明確にしていたと思う。



鳥栖のチャンスはミヌの突破から豊田
このスルーパスからのシュートはやや身体が流れ浮いてしまった。


豊田の献身性や決定力に不満はないが、
やはり1試合を通してみると足元の技術のなさから
こういうミスやシュートを外すシーン、トラップミスも良く散見される。
ここが改善されれば本当に代表クラスなのだろうが・・・


ともあれ、永井のスピードというわかりやすい名古屋の武器はしっかりと押さえ
川又、矢野らの高さに手を焼いたものの、何とか防ぐ。
攻められてはいるものの、鳥栖ペースといった印象で前半を終えた。

さらに水沼の運動量が目だち、もともとの技術の高さもあって
ドリブルで1枚はがせる場面を多く見られた。
これにより攻撃のアクセントとなり、起点となった。

また藤田も復調しており、精度の高いパスのちらし、
そして、状況を良く判断してのプレーが高質だった。
守備でも最後のシーンまでよく戻ってプレスし、
まさに鳥栖の心臓として躍動していた。


■後半
後半も水沼の運動量、藤田を中心にゲームを支配する。

豊田へのロングボールが基本の鳥栖だが、
その競り合いは やはりトゥーリオや牟田を擁する名古屋に負けることが多かった。

それでもこぼれ球への反応は鳥栖のほうが早く、
また名古屋の選手にこぼれたとしても、そこへの詰めが早く、
しっかりとプレスであたることで鳥栖ボールにしていた。

あれだけ巧い名古屋の選手たちだが、
それだけ鳥栖のプレッシャーというのはきついのだろう。

名古屋の決定機は、一度だけ丹羽が「抜け出したのはどうせ永井だろう」・・と思ったか知らないが
川又の抜け出しを放置し、左足で質の高いクロスを入れられたシーン。

ここに飛び込んだ矢野のヘディングはしかしわずかに外れてしまった。
これ以外にもセットプレーはやはり脅威であり、矢野がフリーになるシーンが多かった。

それでも精度に欠いた名古屋の攻撃を防いだ鳥栖は、
疲れの見えるミヌに変えてペクソンドン
さらにコータに変えてチェソングンを投入。

そして残り5分、ロスタイムを含めてのわずかな時間に
期待をこめられたのは若干18歳の鎌田だった。

前節ロスタイムの劇的なゴールの印象が残る鎌田は
投入されるなり、交代の意味を理解していた。

最初のプレーで選択したのは、並みいる名古屋のDFの間を狙ったスルーパス。
これはトゥーリオに難なくカットされるも、

「狙っていくんだ」という強い意志を感じるプレーだった。

さらに独特な姿勢とボールの持ち方、名古屋の疲れもあり
鎌田はボールを取られない。

高揚する期待感とともに、残り時間の短さから焦りが見える中、
実に冷静に、そして的確にプレーする鎌田はまさに異彩を放っていた。

そして後半ロスタイム、試合も終わるかという、そのとき、
その瞬間は訪れた。

右サイドからボールを受けた鎌田は右前方のスペースをちらっと確認すると
左の空いたスペースに向かってドリブルを開始。

左サイドのフリーな選手を使うのか、
そのまま左足で狙うのか?

名古屋のDF陣が鳥栖の左サイドに重心をかけたその瞬間。
鎌田の左足から放たれたゆるやかなスルーパスは
名古屋DFの間をすり抜けて豊田の足元に一直線に届いた・・・

すぐ傍を通るゆるやかなボールに、名古屋DFは誰も触れない・・・

才能 という言葉を現実で見るとすればこういう場面なのかもしれない
そしてゆるやかであったからこそ、あのGK楢崎でさえも飛び出しを躊躇せざるを得なかった。


そして、豊田はやはり豊田だった。

どれほどトラップが下手であろうと足元のシュートが下手であろうと
1試合に1度しかないであろう、決定的なチャンスを「決める」のは豊田である。

そんな技術があるのか?といつも不思議に思うほど
プレッシャーがかかればかかるほど、
ギリギリであれば、あるほど、

豊田の才能も光り輝く

鎌田のパスをワンタッチで右足ややアウトにかけたシュートは
楢崎の横をすり抜けてゴールへ・・

アウトにかかったボールは、ゴールに向かって角度を変えて、
実に美しいコースを切り裂いてゴールネットを揺らす。


歓喜に沸く鳥栖の選手とサポーター!

「これしかない」

そういう仕事をやり終えた表情の豊田。。。
まさに職人の業。

そして鎌田はふてぶてしいながらも新人らしく豊田に向かって喜び、駆け出す。
喜びのあまり、ゴール裏で転ぶ鎌田w

そして抱き合う豊田と鎌田

18歳と30歳の、それでも同じ【勝利】だけを目指す二人の
見事な技と精神力が結実した素晴らしいゴールだった。


試合はこのまま1-0で終了。
鳥栖がアウェーで見事な勝利を飾った



■まとめ
鳥栖は勝ててない中でも、
「何か一つ運が傾けば勝てていた」ような試合をしていた。

そしてこの日は赤星のファインセーブであり、
鎌田のスーパーなスルーパスであり、
それらが鳥栖に傾いた故の勝利だった。

だが、それを掴んだのも、
その流れが来たときに勝てたことも
すべては偶然ではなく、

この瞬間のために、ずーっと休まず努力し、
そして戦い続けたからこそ得られた勝利だった。


セカンドボールをよく拾えてたこと
藤田が復調し、良い体制でパスをもらえる選手が増えたこと
プレスの強さは、名古屋相手でも通用したこと
豊田の決定力は相変わらずなこと
赤星の守備範囲を理解したうえでのDF陣の対応が出来たこと
サイドからのクロスだけでなく、鎌田 というテクニックタイプの選手による
スルーパスという武器を手に入れたこと

非常に収穫の多い 1勝となった。


■選手総評
赤星 6.5
素晴らしいファインセーブで勝利を手繰り寄せた
欲を言えば、弾くとしてもそこじゃない、、感はあったが
DF陣もそれを分かっての対応が出来てきており、
結局はGKというのはDFとの連携が前提であるので
このレベルの守備力を発揮できたことは非常に素晴らしい結果といえる


丹羽 6.5
代表クラスのスピードを持つ永井に、突破はされるも決定的な仕事はさせず。
中央のDFと連携し、個人で止めるのではなく、チームとして守りきった。
それこそが守備の強さに繋がった。

谷口 6.5
川又の飛び込みをしっかりとケアし、最後の得点のシーンでは
カットから、豊田への囮の動きまで献身的にプレーした。
寄せも強く、長い距離のパスも精度が高く、地味に鳥栖に欠かせない選手になってきた。


菊地 6.5
永井、川又、小川ら、名古屋の攻撃を守備の連携で完封。
その中心にいたのは間違いなく菊池だった。
永井のドリブルを完璧に読みきったシーンは圧巻。


吉田 6.0
試合の中で集中を切らすシーンがたまにあるが、
集中してるときのプレーへの激しさ、強さは特筆もの。
攻撃時のビルドアップのパスには難があるものの、それでも無難にプレー。


藤田 7.0
困ったときには藤田に預ければ、次にいい体制の選手にボールが届く。
そんな縁の下の、的な活躍に加えて、DFの前のスペースに対しての守備も
身体を張ることを厭わず、戦い続けた。


高橋 5.5
守備の場面では飛び込んでくる相手に対して粘り強く対応し、完封に貢献した
攻撃の場面でやや困ったときに、雑なパスをすることがあり、危険を招くことも。


水沼 6.5
交代するまで、すべてを出し切るほど走りきった。
充実した内容で、対面の相手にも攻守ともに圧倒した。
最後シーンでの仕事は少なかったが納得の出来。

キムミヌ 6.0
前半の決定機を演出。後半はやや疲れが見えたか。
もう少し吉田との連携が向上すればいい形でボールがもらえるだろう。


池田 6.0
攻撃での貢献は少ないものの、肉弾戦を挑むタイプのトップ下。
磯村に対してもボディーブローのように利いており、
名古屋の疲労は、池田が献身的に戦い続けた結果でもある。


豊田 7.0
これぞ、エース。
そして、最高の場面では常に最高の技術を発揮する。
技術の平均値が高くはない。
それでも最も重要な場面でもっとも良いプレーを出来るのがエースたる所以。
新星鎌田のパスを結果につなげた最高のシュートで勝利を得た。


ペク 5.5
疲れの見えたミヌに変わってサイドで出場。
攻撃のときの運動量に不満はないが、途中出場ながら守備のプレスがやや弱く。


チェソングン 5.5
無難にプレーした。
基本能力は高いが、飛びぬけた何かがあるわけではなく交代では色を出しにくいか。
だがどこで交代しても大きな穴を作らないという意味では、
疲労を考慮した交代をする上で貴重な存在。


鎌田 7.0
残り5分で、考えうる最高の結果をもたらした。
彼が入ることで確実に空気が変わる。
とっておきのジョーカーとして素晴らしい成果を挙げた。
しっかりとした足元の技術に加え、
相手に対して仕掛ける、ゴールを狙う!という強烈な意志を感じるプレー。
物怖じせず、挑み続ける彼の姿勢はまさに鳥栖の希望の星となった。

アシストとなったスルーパスは、もはや、ただの才能の塊。



森下 6.5
前節に続いて勇気ある交代。
残り5分という是非は、外から考えるほど簡単ではない決断だっただろう。
怪我人が多いとはいえ、名古屋にアウェーで勝ちきったことは大きい。

さらに、内容も希望が持てるようになりつつあり、
鎌田が活躍したことも大きい。

活躍すれば次も出番がある、という好循環も見せており、
今後の展開次第では最高順位も狙える位置に居る。

と、同時に順位の後ろも団子であり
結局鳥栖は今後とも戦い続けることが必須である。


■最後に
何度 書いたか分からない。
もはや漫画にしたら、ボツ間違いなし。

何故、これほどまでに 「劇的」なゴールばかり生まれるのか。

それはロスタイムに入ったときの気持ちが確実に違うからだろう。
信じきることは思いのほか難しい。

それでも鳥栖の選手は残り5分になっても
ロスタイムになっても、来ないかもしれないチャンスを願って走ることをやめない。

ロスタイムでも「チャンスであれば走る」選手はたくさん居るだろう。
そしてその中から劇的なゴールが生まれることもあるだろう。

だが、もう終わりそうなその瞬間まで
何もチャンスに見えなくても走り続けるのは どれだけ居るだろうか?


谷口のカットからのオーバーラップ
そして、最後の最後まで諦めない豊田の気持ち。


それこそが、鎌田の才能による、予想外のあのスルーパスに対して

名古屋は反応できず、豊田は反応できた、

そしてそれにより鳥栖は劇的なゴールを奪ったのではないか?



鳥栖は走り続ける。
これまでも、そしてこれからも。
走り続ける限り、僕らは声を枯らして応援するだろう。

そして、鳥栖の試合には 必ず、”感動”がある。


豊田の笑顔とその背中には、想像も出来ない重みを背負った男の
言葉にならない思いが溢れてると感じた。


素晴らしい勝利をありがとう。