放送番組に対する事情聴取は稚拙だ | 岐路に立つ日本を考える

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 私は日本を世界に誇ることのできる素晴らしい国だと思っていますが、残念ながらこの思いはまだ多くの国民の共通の考えとはなっていないようです。
 日本の抱えている問題について自分なりの見解を表明しながら、この思いを広げていきたいと思っています。


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 自民党がテレビ朝日の「報道ステーション」とNHKの「クローズアップ現代」において、放送法の禁じる真実ではない報道がされていたのではないのかとして、事情聴取を行ったことが報じられました。これに対して自民党の事情聴取は筋違いだとする反論がマスメディアでは広く行われました。

 読者の方からすれば意外に思われると思いますが、私は今回のマスメディア側の反論にはそれなりの説得力があると思っています。政権側は放送事業の許認可権を持っており、政権与党は圧力と受け取られかねないような処置について慎重でなければなりません。放送法第一条には「放送の不偏不党、真実及び自律を保障することによって、放送による表現の自由を確保すること」が記載されており、真実と並んで自律が重んじられている点を見落としてはなりません。そしてその意図は「放送番組は、法律に定める権限に基づく場合でなければ、何人からも干渉され、又は規律されることがない」と定めた第三条にも反映されています。今回の自民党の行ったようなやり方は、こうした放送法の原則からすれば、国民に懸念を与えても仕方のないものだったと感じます。

 もちろん、放送法は第四条において「公安及び善良な風俗を害しないこと」「政治的に公平であること」「報道は事実をまげないですること」「意見が対立している問題については、できるだけ多くの角度から論点を明らかにすること」と規定しており、公安と善良な風俗、政治的公平性、真実性、多角的角度という観点についても重要視していることは明らかです。そしてこうした4つの観点で現在のマスコミが大きな問題を抱えているのも、普通の国民があまり気付いていないとしても、明らかです。しかしながら、放送法第四条違反の放送が溢れかえっていることにまだまだ気付いていない国民が多い以上、特定の2番組だけを取り上げて事情聴取を行うというやり方は、稚拙であったと私には感じられます。つまり、たまたま出てきた特殊なミスを取り上げて事情聴取を行うことで、放送事業者に圧力を加えようとしているのではないかと勘ぐられても仕方がないからです。その結果、右で放送してもらいたいのに、左で放送されていることに腹を立てていると思う国民が多いことでしょう。事実に基づいているという条件を満たすことを前提に、右の立場も左の立場も公正に扱うならば問題ないが、現在の放送はそうなっていないということが、今回の処置によって国民に伝わったとは到底考えられないのです。

 私としては、自民党側が重視すべきは以下の2点であると考えます。1つは放送法4条の存在を広く国民に伝えるということであり、もう1つはこうした放送法の理念から外れた報道がどれほど多いのかを具体的に示すということです。そしてそのような放送番組がなぜ作られることになるのかという点に切り込み、番組制作前に結論が決まっていて、その結論に行き着くのに都合の良いものばかりを集め、都合の悪いものは無視するという制作姿勢にあることを浮き彫りにしていくべきです。そのために、放送法第四条の規定を示した上で、各項目別に違反事例をなるべく多く列挙していくべきです。その上で、ほとんどの番組が歪んだ前提において作られていること、真実性にこだわる姿勢など放送事業者は持ち合わせていないことを明確にすべきです。決して政治的なものを扱う番組だけでなく、自然科学を扱うような番組においても上記の傾向は広く見られますので、そうした番組においても違反事例ばかりであることを示すことで、政治的意図に基づくという疑念を払拭する効果も期待できます。

 そうした作業をすっ飛ばして、特定の番組だけをターゲットにした事情聴取をまず行うというのは、国民の間に疑念を巻き起こしたとしてもやむをえざるところがあると、私は考えます。


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