アメリカ型の「株主還元」は狂っている! | 岐路に立つ日本を考える

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 私は日本を世界に誇ることのできる素晴らしい国だと思っていますが、残念ながらこの思いはまだ多くの国民の共通の考えとはなっていないようです。
 日本の抱えている問題について自分なりの見解を表明しながら、この思いを広げていきたいと思っています。


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 資本主義と株式会社が密接な関連があるのは、言うまでもないでしょう。個人ではとても担いきれない大事業を行うには、社会から広く投資資金を集める必要があり、そのために株式会社制度が発達したわけです。

 社会が大きく複雑になるほど、新たなフロンティアを開拓する資金も巨大化し、ますます大きなお金を集める必要が生じるために、公開の株式市場が整備され、企業に対して資金を集めるための開かれた場を用意しているわけです。

 しかし、昨今はこの資本主義の活動の原動力とは矛盾するような行動が、企業の側で見られます。例えば、アメリカのジェネラル・エレクトリック社(GE社)が2015年4月に発表したところによると、300億ドル相当の不動産を売却し、金融部門のGEキャピタル事業(2750億ドル相当)の売却も進めるなどして、500億ドルの自社株買いをはじめとする最大で900億ドルの株主還元を行う意向だといいます。ドル建てで言われるとわかりにくいですが、1ドル=125円の現行の為替レートで考えると、4兆円近くの不動産の売却と30兆円を超える金融事業の売却を行うなどして資金を用意し、そのうち6兆円以上を自社株買いに当てるなどして、合計で11兆円を超えるほどの株主還元を行うと言っているわけです。

 「株主還元」というと聞こえはいいですが、冷静に見れば資産売却して企業体力をどんどんと低下させる行為を行っているとも言えるわけです。収益が上がっていない企業が資産売却して配当金を確保することを「たこ足配当」と言って揶揄する考えが、少なくとも日本にはあったかと思いますが、まさにたこ足配当に似た行動をGE社は行っていることになります。しかも日本企業のたこ足配当とはスケールが違いすぎます。

 これがGE社だけの話であるなら、けったいな会社もあったものだということになるわけですが、過去10年間でS&P500種に採用されている、アメリカの上場企業のうち500社だけに限っても、過去10年間で行った自社株買いの総額は4兆ドルだそうです。つまり、この一部の上場企業に限ってみても日本円で換算すると500兆円程度が自社株買いに宛てられたということになりますが、これがどれほど企業体力を奪う行為であるかは明らかでしょう。昨今はアメリカにおいても低金利が定着しているために、自己資本を「株主還元」で減少させながら、低金利の借り入れを増やしていくという行為さえ広がっているわけですが、どこか狂っているという直感を、私たちは持ちたいものです。

 実際、アメリカ企業は挙げた収益の9割をこうした「株主還元」に宛ててしまい、従業員の給与や賞与として還元することもほとんどしない上、研究開発投資にもあまり資金を投じないようになっているわけです。

 株主から評価されやすい目先の株価の上昇という目的には、こうした「株主還元」は役に立つとはいえるでしょうが、多額の資金を新たなフロンティア開発のために投じて世界を新たなステージに引き上げていくという力は極めて弱まっているともいえるでしょう。

 こんなアメリカ型資本主義を資本主義の先進的な姿だと誤認して追尾していくような愚かな行動は、日本企業には取ってもらいたくはないのですが、残念ながらこうした流れの中に日本企業もかなり巻き込まれてきています。

 企業の存立意義とは、果敢な投資を行って社会全体の引き上げを図り、従業員に豊かな生活をもたらすことではないでしょうか。株主に対する利益はどうでもいいなどというつもりはまったくありませんが、株主利益だけにしか目が行かないような経営は狂っているという視点から、事態を冷静に捉えてもらいたいと考えます。


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