ギリシャ危機から日本が学ぶべきこと | 岐路に立つ日本を考える

岐路に立つ日本を考える

 私は日本を世界に誇ることのできる素晴らしい国だと思っていますが、残念ながらこの思いはまだ多くの国民の共通の考えとはなっていないようです。
 日本の抱えている問題について自分なりの見解を表明しながら、この思いを広げていきたいと思っています。


人気ブログランキングへ

 ギリシャのデフォルトが確実な状況となり、ユーロ圏のみならず世界中の経済に大変な影響が出ることが懸念される事態となりました。

 このような事態に至っていることに対しては、一般的には、ギリシャ政府側の取り組みが不真面目なものばかりだったと思われがちです。特に現在のチプラス政権はわがままし放題の舐めた真似をしており、そのために良識を持つ「支援機構」側が拒絶しているような印象を持たれている方も多いのではないかと思います。しかし具体的に見ていくと、どうも様相は随分と違っているように見えます。

 そもそも現在のギリシャの国民生活の疲弊度は、相当に大きなものがあります。ギリシャの労働組合の研究所である「INE-GSEE」の発表では、ギリシャにおける年金受給者の45%は貧困ラインの665ユーロ(日本円で9万円程度)を下回る額しか受け取っていません。実際、ギリシャの貧困率は2014年で36%と、ユーロ加盟国の中では一番高い状況です。就業者数は2008年には460万人いましたが、2014年には360万人まで減っており、失業率は2008年の7.8%程度から2014年には26.5%程度まで上がりました。若年層に至っては失業率は50%を超えるとも言われています。チプラス政権が「人道的危機」と呼ぶのには、それなりの理由があるわけです。

 ギリシャ政府の歳出(地方自治体を含む)は2009年の1280億ユーロから830億ユーロ程度まで切り詰められました。今や年金と給与の支払いで歳出の80%程度とも言われており、公共サービスが実質的に提供できないところまで追い込まれています。これにより名目GDPは2008年の2420億ユーロから2014年には1790億ユーロまで減少しました。GDPの減少は26%ほどにもなります。こうしたGDPの減少によって、政府純債務対GDP比率は、120%程度から174%程度にまで跳ね上がり、却って危機が深刻化したと考えた方がよいかと思います。

 こんな中で、「支援機構」側は付加価値税の実質的な増税(軽減税率品目を減少させる処置)によりGDPの1%分の増税をしようとか、低所得年金受給者向けの手当の廃止(つまり、実質的な年金の減額)をするよう、求めてきました。「支援機構」側は貧しい低所得者層に対しては極めて厳しい対応を迫っているわけです。その一方で、「支援機構」側はチプラス政権が打ち出した大企業への増税策(50万ユーロ以上の利益のある企業に対して、2015年度1回限りで12%の特別法人税を実施する案)は拒絶しているのです。ちなみにギリシャの法人税率は26%ですから、大きな利益を上げている企業に対しては法人税率を38%(一応1回限り)にしようという程度の話です。決してメチャメチャな企業課税とまではいえないと思いますが、これは認めないというのが「支援機構」側の考え方です。つまり、「支援機構」は担税力の点で余力があると思われる大企業への課税強化に反対しつつ、貧困化が進んでいる庶民の生活を直撃するような「支援」案を提示しているわけです。

 チプラス政権は付加価値税の実質的な増税についてもGDPの0.74%相当分までは認めるという譲歩もしていますし、年金受給開始年齢の段階的な引き上げも容認しています。(但し、「支援機構」側は引き上げ時期のさらなる前倒しを要求していますが。)こういう点から見ても、必ずしも非現実的な政策を示しているわけではありません。

 よく考えてもらいたいのですが、「支援機構」側が求めるさらなる緊縮策を実施してギリシャ国民にさらなる耐乏生活を強いたとしても、それにより内需は抑制され、ギリシャ経済を成長軌道に載せることなどできないでしょう。実際ギリシャ財政は2014年度でプライマリーバランスはGDP比0.4%の黒字になっていますが、その結果として国内需要とGDPが抑制され、却って危機が深刻化する流れとなっているわけです。プライマリーバランスの黒字をさらに高めれば危機から脱却できると「支援機構」側は主張するのでしょうが、現実にはそれによって危機から脱却できるなど幻想に過ぎないことが見えてきているわけです。

 この流れを変えるには、こうした緊縮政策から抜本的に転換を図り、GDPを拡大させる方向に向かわせることこそ必要だということになるでしょう。雇用を生み出し、国内のインフラを整備するために積極財政を行う方向に転換しないと、ギリシャの問題は却って解決しないと考えるべきです。そしてこのギリシャのおぞましい経験を、私たち日本人は日本の財政問題の鑑として、よく心に刻んでおくべきだとも思います。
 

人気ブログランキングへ