TPPの概要発表を受けて思うこと | 岐路に立つ日本を考える

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 私は日本を世界に誇ることのできる素晴らしい国だと思っていますが、残念ながらこの思いはまだ多くの国民の共通の考えとはなっていないようです。
 日本の抱えている問題について自分なりの見解を表明しながら、この思いを広げていきたいと思っています。


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 TPPの概要が発表されました。賛成するにせよ、批判するにせよ、内容の理解が前提となりますから、とりあえず今わかっている点について、簡単に整理した上で私の見解を述べさせて頂きます。

 農産物については、まず大半の野菜類については従来の関税が0~3%でしかなかったことから、関税撤廃の影響は極めて軽微だと思われます。タマネギなどは従来8.5%の関税だったので、影響がないとはいえないですが、これもそれほど国内農業にダメージを与えるとは考えにくいです。果実については従来の関税率が最高で17%でしたので、撤廃の影響はやや出てくる懸念はありますが、生食では大きな影響はないのではないかと思います。リンゴ果汁については中国産が圧倒的に多いので、この一部がTPP加盟国に置き換わる可能性はありそうですが、国内農家への影響は軽微だと思われます。主食用の米の無関税枠の拡大は国内消費量の1%程度に留まる上、米の内外価格差が消失している現在においては、国内の米生産に対する影響も極めて軽微でしょう。豚肉については大幅な関税の低下が話題になっていますが、現在でもコンビネーション輸入(本来だと関税の高くなる低価格な肉と、関税の安い高価格な肉を一緒くたにすることで、安い関税率しかかからなくようにする裏技)が蔓延していて、実質的には輸入豚肉の関税率は4.6%程度だと言われていましたので、影響はないも同然かと思います。牛肉は38.5%の関税が段階的に9%にまで下がるということで、それなりに影響が出そうにも見えますが、和牛と輸入牛は私の中では別物でしかなく、和牛の消費量の抑制にはあまりつながらない気がします。それよりも、アメリカへの和牛の低関税輸出枠が年間200トンに制限されていたのが3000トンまで15倍に拡大し、しかも関税自体も廃止となることも見逃すべきではないかなと思います。3000トンというのは国内生産量の1%にすぎませんので、15倍に低関税輸出枠(今後は無関税輸出枠)が増えると言っても過大評価はできないですが、バランスのよい取引になったと思います。

 食の安全が阻害されるといわれていた点についても、科学的根拠に基づいていれば国民の生命と健康の確保のために必要なSPS処置(食の安全を確保するための規制)は可能とされましたし、遺伝子組み換え作物の表示についても従来通りで構わないとの結論になりましたので、これについても杞憂で終わりました。

 国民皆保険制度については、混合診療の導入を含めて、現行制度の変更は求められないことになりましたので、この点については安心してよいでしょう。

 著作権については、非親告罪化が懸念されていましたが、オリジナルの著作物の収益に大きな影響を与える場合に限定されるということになりましたので、日本のパロディー文化がこれによって影響を受けるという懸念は事実上なくなったといえるでしょう。

 企業が国を相手に国家主権を超えて訴えることができるというISDS条項については、大きな誤解がまかり通っていたようです。確かにカナダが環境規制を強化したことによって、アメリカの燃料メーカーが操業停止に追い込まれて訴えを起こした事件は、アメリカ企業の勝訴に終わりました。企業利益に環境保護政策が負けたということでISDS条項は危険という話になったのですが、しかしこの事件を詳しく調べてみると、それほど単純ではないことがわかりました。カナダは連邦レベルで環境規制を強化したものの、各州がそれより緩い個別の環境規制を導入することを禁じていなかったわけです。つまり、環境規制の緩い州の内部で生産されたものがその州の内部だけで流通する場合には緩い規制が認められるが、その州の外側に持ち出す場合には連邦レベルの環境規制をクリアしないといけないために認められないというダブルスタンダードを作ったわけです。そうすると、環境規制の緩い州にアメリカの燃料メーカーが売る場合には、外部からの持ち込みになるために連邦レベルの規制をクリアしなければならないということで、競争条件が同一にならないという点を争ったわけです。つまり、国の内外で企業の競争条件に不平等があるという点が問題にされたものです。企業利益の侵害を楯にしてかなり無茶な訴訟が起こせる可能性があるというのは、杞憂に過ぎないといえるでしょう。

 一度緩めた規制を再度強化することは認めないとするラチェット規定についても、「食や人命の安全に関わる規制強化は含めない」との合意が取れていますので、過大な懸念は不必要になったと思います。

 労働分野については、他国で類似資格を獲得したら日本国内でも行えるようになるのではないかとか、単純労働者の受入れが認められるのではないかといった懸念がありましたが、これも杞憂に終わりました。むしろ児童労働の禁止とか強制労働によって作られた製品の輸出入を禁止する規定が入りました。

 以上見てきたように、TPPの合意内容は反対派の懸念をほぼ払拭するものとなっていると思われます。詳細部分がわからないので断言はできませんが、その可能性は高いと思われます。

 ただ、自由な投資や貿易が促進されることによって、日本経済の外的依存が高まっていくことそれ自体がいいことだとは、私は今なお思えないです。国防・安全保障上の処置がどの程度取れるようになっているのかという点がわからない点も気になるところです。例えばアメリカ企業の中にも中国系企業もあるわけで、こうした企業に国内企業と同等の資格を与えて活動できるようにするという点に危険はないのかということに懸念を覚えます。そもそも国内のTPPに対して期待する議論というのは、国内に頼っていたのでは経済成長できないという前提に基づいていたところもあり、その前提が正しいとはいえません。

 もちろん、TPPのようなものが次々できていく中で、蚊帳の外にいて果たしていいのかという議論も理解できます。TPPのルールが今後の多国間の自由貿易協定の土台とされるであろうことの意義も大きく、ルールを守らない中国のような国に対する牽制になるという意義も理解できます。世の流れとしてこれは受け入れるしかないのかもしれません。

 それゆえになお悩ましい思いを持っています。


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