宝塚歌劇とジェンダーの話をすると、「伝統」だから変えられないのでは？

という話が出ると思います。

しかし1950年代まで男性加入を検討していたり→宝塚歌劇とジェンダー⑦男性加入検討

男役トップスター頂点の現行システムも1970年代からのもの→宝塚歌劇とジェンダー⑥トップスターとはなにか

等、宝塚歌劇団100年の「伝統」と思われている物は創設当時から続くものではないことが分かりました。

またこれらは企業の戦略として創られたり、社会的文脈のなかで変化したりと非常に流動的なもののようです。

逆に未婚問題は宝塚歌劇団設立当初から女性の働き方が変わっているのに「伝統」のもと100年以上労働環境が変えられていません。

宝塚歌劇とジェンダー⑪タカラジェンヌの結婚問題 part.1

宝塚歌劇とジェンダー⑫タカラジェンヌの結婚問題 part.2

川崎氏(2005, p.182)も

宝塚歌劇団はいたるところで「伝統」を語るが、それを保守する集団というより、良くも悪くも「伝統」を創り出して延命するシステムなのだというほうが実態に即しているだろう

と述べています。

え、でもそれが文化だし、宝塚歌劇団の女性だけ、が崩れるとなると相撲や歌舞伎は…？

となると思います。こちらも調べてみるとジェンダー問題ではよく取り上げられる議論のようです。

・相撲

女相撲が盛んだった相撲も明治時代以降に「地位向上」とし「土俵の女人禁制」が作られたそうです【参考：一橋大学社会学部佐藤文香ゼミ生一同 (著), 佐藤文香 (監修).2019. ジェンダーについて大学生が真剣に考えてみた――あなたがあなたらしくいられるための29問 p.108】

内館牧子. 2006『女はなぜ土俵にあがれないのか』幻冬舎新書によれば

土俵に女性が上がれないのは神事だから

だと述べましたが、小谷野氏(2020, p.7)はそうなると日本相撲協会は宗教法人になり、政教分離のため優勝力士に総理大臣杯などを渡すことが出来なくなると述べています。

こちらの本がとても興味深かったです！

小谷野敦. 2020. 歌舞伎に女優がいた時代. 中公新書ラクレ

・歌舞伎

男性だけと思われている歌舞伎も創始は出雲の阿国という女性が1603年に男装し人気を風靡したものです

【参考：河竹登志夫. 2001, 歌舞伎. 東京大学出版会 p.127】

そもそも歌舞伎の発祥は今のタカラジェンヌのような存在によるものだったのですよね。

これが遊女歌舞伎となりますが、1629年に風俗を乱すとして禁止され、

代わって少年による若衆歌舞伎になるも1652年に同じく禁止されました。

【参考：三橋順子（2008）女装と日本人（講談社現代新書）p.80】

以来、女性は舞台に上がらず女形を出したと思われていますが、

現在のような女性が出ない歌舞伎が形成されたのは昭和7年（1932年）頃からで、歌舞伎に女性の俳優はおり、小谷野氏は

「女形や女優を使わないのが歌舞伎の伝統というわけではない」

と述べています。(小谷野, 2020, pp.208-9)

また、三橋氏（2008, p.85）は

遊女歌舞伎や若衆歌舞伎に観客が熱狂したのは、異性装者が表現する双性的な美と魅力で、その身体が女か少年かにはあまり比重がなかったのではないか

とのことです。宝塚もまさに双性的な美と魅力の世界ですが意外とその身体的性は問われていないのかも…？と。

私達が伝統と思っているものは意外とそうでもなかったりするようで、

これはこれで伝統論の議論が盛んにあるようです。

大学院でも「創造性」という授業の中の1コマが伝統でした。

その中で印象的だったのが、Carrollの言葉。

Carroll （2003,p.217）は

伝統とは、変化を起こすための柔軟な資源で、創造性を展開させるためのエンジンだ

と述べています。

【Carroll, N. 2003. ‘Art, Creativity and Tradition’. In Gaut, B. N. and Livingston, P. (eds). The Creation of Art: New Essays in Philosophical Aesthetics. Cambridge University Press.】

重んじられるべき伝統はあるが、なにがそう認められているかには注意が必要で、不具合や差別があるならば、変えていかなければならないだろう（佐藤、他.2019. p.108）

というのはその通りだなぁと…

そう考えると伝統だからとかそういう文化だからというのは変えられないという言い訳にならないなと感じるのでした。

つづきます

宝塚歌劇とジェンダー⑯伝統だから変えられない？