次に気になったのは果たして「巡礼の年」からどの曲がフィーチャーされるのか?ということだった。


まず頭に浮かんだのは一番の人気曲「エステ荘の噴水」だ。リストの晩年の曲で、流れるようなアルペジオが描き出す水の流れは、ロマン派の枠を超え、フランス印象派に多大な影響を与え、ラヴェルの「水の戯れ」やドビュッシーの「水の反映」が生み出されたことはあまりにも有名だ。しかし、この曲は明るめの曲なので、「色彩をもたない・・・」という少しネガティブなイメージには合わない気もした。


その他に浮かんだのは、第一年スイスのオーベルマンの谷、第二年イタリアのペトラルカのソネット3曲やダンテを読んで(ソナタ風幻想曲)など、単独でも取り上げられることの多い曲たちだ。でも決め手を欠いたまま、発売日を迎え本書を読むことになる。


結論はスイスの第8曲、Le mal du pays(ル・マル・デュ・ペイ と、本書ではカタカナで登場する)であった。これは意外というか、聴きこんでいない私には印象に残っていない曲であった。本書と平行して調べてみると、一般的には「郷愁」と訳されるこの曲は、小品ながら同じテーマを転調しながら繰り返し、盛り上がりそうで盛り上がりきらないリストお得意の手法のメロディー(私は「寸止め」と呼んでいる)が素敵な、聴けば聴くほどいい曲であった。


しかもこれは大好きなオーベルマンの谷とも関係があり・・・。オーベルマンというのは19世紀前半にヨーロッパに自殺熱(!)を引き起こした小説のタイトルなのだが、その主人公が「自分の唯一の死に場所こそアルプスである」とパリから友人に書き綴った望郷の念の込められた手紙がモチーフとなっている。つまり単なる郷愁・望郷よりも、もっと切実な、死を意識した想いなのだ。


このことを知って、さらにこの曲を聴いて「色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年」を読むとかなり印象が変わると思うし、より深く登場人物に感情移入できると思う。未読の方は是非CDを購入してから読まれることを強くお勧めする。


本書の発売によって、急遽国内盤のラザール・ベルマンのCDが再発されることが決定し、輸入盤も品切れ状態が続いたようだ。なんで見越して予め再発しておかないの?と思ったけど、そうだ、小説が超秘密主義だったんだ(笑)。レコード会社も嬉しい悲鳴だろうな。


ピアニストはベルマンがいいと思う。本書では対比する形でアルフレッド・ブレンデルも少し登場するが、こちらは興味を持った方用かな。個人的には英国リスト協会会長のレスリー・ハワードのもいいと思う。


ちなみにベルマンのは、単体で購入するよりリストイヤーに発売されたDGのリスト・コレクション(輸入盤で34枚組!で7000円ほど 同じくらいの値段で16枚組のものもあるので注意)の方がお得感があるかと。


で、まだ小説本体には届かず・・・つづく♪(ブログのタイトルも巡礼の年 第二年なのだ)