テレビでよく見る「潜入取材」は「盗撮」じゃないの? 合法と違法の違いを弁護士さんに聞いてみたカメラ



♪みっち~のテポドン攻撃にはハゼドンミサイル発射~ ♪

テレビでよく見る、痴漢の現場をおさえた瞬間や麻薬の取引の現場をおさえたドキュメンタリー。警察とテレビが協力して犯罪を撲滅! いい話じゃないか…と、ちょっと待てよ? これって本人たち撮られていること知らないよね? となると、これはもしかして「盗撮」じゃないの? それとも、これが「報道の自由」ってやつ?

今回話を聞いたのは、弁護士法人木村晋介法律事務所の木村晋介先生。潜入捜査と盗撮の関係を、法的観点から解説してもらった。

先生! まずは、盗撮するとどんな法律に抵触するのですか? 罰則は?


実は、盗撮自体には罰則はありません。罰則にあたるとしたら、住居侵入名誉毀損ですね。その上で、何が潜入捜査にあたるかどうかは、以下の

・目的
・場所
・対象


これら3つのポイントをおさえていく必要があります。


―では、まず「目的」から教えてください。

・目的

犯罪予防ないし犯罪の摘発のために行われるということは「公共性」があるということになります。名誉毀損やプライバシーの侵害の可能性があっても、「犯罪が確実に起こる」という公共性があれば潜入取材というのも許されると思われます。しかし、この目的ひとつで決まるわけではありません。


―なるほど、では次に「場所」について教えてください

・場所

場所は大きなポイントになります。警察の捜査の場合、人の部屋(プライベートな場所)に入り込んで撮影をする場合は裁判所から令状をもらわなくてはいけません。たとえば、どこかに麻薬が隠されているとの情報が入ったときに、警察はその裏取りをして裁判所に提出します。そして、潜入捜査する必要がある、と裁判所が判断したものの場合に令状が出ます。

ただ、テレビの場合には令状はありません。だから、建物の中には勝手に入っていけませんね。最初に言った住居侵入になります。また、撮影されている場所が、他人の私的な場所であるとすればプライバシーの侵害になります。

つまり、先ほどの公共性とのバランスが大事なのです。本来なら捜査機関に申告するものですが、テレビの場合、犯罪が行われる可能性がとても高いと、その時間に余裕がないだとか、そういうことだからこそ撮る、という動きが出ますね。


―電車の中などの場合はどうなるのですか?

そういう場合には各電鉄会社に管理権がありますので、そこに許諾を得る、という形になります。なので、その場所について管理権を持っている人との間に合意が取れるか、というのがポイントですね。

もうひとつ「場所」で大事なのは、その場所にいる、ということが「恥ずかしい」場合。たとえばキャバクラなど、一般人を基準にして考えた場合、その場所にいるということを撮影されるのはその人の社会的評価に影響しますね。そういう場合には、よほどの高い公共性が必要になります。


―でも、そこで確実に取引が行われる、ということになれば…?

キャバクラでも関係ないですね。ただ、キャバクラにいる人が犯罪にまったく関係なくても映像に映ってしまう、というのは良くないですよね。特に、テレビなどの取材班が撮ったものには守秘義務がないんですよ。警察には守秘義務がありますので、情報が流れにくいです。ここがテレビの潜入取材と警察の潜入捜査との大きな違いですね。


―では、マンションの一室にに外国の女性が何人かいて客を待っている…というような潜入取材もよくありますよね。そういうものには違法性はあるのですか?

建物の管理の侵害にあたるので、いかに公共性があるとはいえメディアが勝手にやってはいけないことですね。ただし、その建物が「人を無差別に入場を許している場所」である場合、盗撮しながら客を装って入る、ということはありえるでしょう。不特定多数の人が自由に出入りできる場所であれば住居侵入にはなりません。


―では3つ目の「対象」について教えてください。

・対象

潜入捜査をするためには、ターゲットがピンポイントである必要があります。痴漢なら、常習的な人間にめぼしをつけていきますね。そういう場合には許されます。場合によっては警察官が怪しい人間の写真をとって、被害者に見せたりした上で対象を確定します。


―写真を撮る? 問題ないのですか?

これも捜査の延長上の行為なので、違法というわけではありません。


―つまり、盗撮には違法と合法があるということですか?

そうですね。盗撮の概念は「相手にわからないように盗み撮る」ということです。そこに、違法性と合法性があるだけです。その中の判断基準として、目的、場所、対象の3つのポイントがあるのですね。


―では、潜入取材は言葉としては「盗撮」なんですね?

そうです。本来なら警察がやるべきことなのに視聴率欲しさにテレビがやっていますが、結果的にあまり問題視されていない…ということに過ぎません。ただ、なんで警察に頼まなかったのか、ということは問題になりますね。


―たとえば警察とメディアが協力して一緒に動いて現場をおさえる、というドキュメンタリーはどうして可能なのですか? 警察がOKをだすんですか?

もちろんです。警察だって広報したいんですよ。警察嫌いの人たちっていっぱいいますから、自分たちがしていることを知ってほしいとおもっての上でのサービスのようなものですね。


―仮に、ターゲットが実は犯人ではなかった!という場合にはどうするんでしょうか。

撮られた人が被害者ですよね。データを全部削除してくれ、という話になるでしょう。これには応じなきゃいけません。


―雑誌の「Flash!」や「フライデー」なんかの場合はどうなんでしょう?

その辺は確実に違法ですね。ただ、それを撮られたことで名誉毀損で訴えるか、といったら訴えない場合が多いです。たいがいプロダクションからとめられますから。でも、メディアが使っている論理として「パブリックフィギュア」とい言葉があります。有名人は不倫をした場合でも公共性があるのだ、ということです。個人的には公共性はないと思うのですけどね。不倫も個人の問題ですから…。


なんと「潜入取材」は「盗撮」という言葉でくくられることが発覚! 盗撮に合法違法があるなんてビックリ。メディアと法律の需要と供給がしっかり組まれたいい形ですね。