いよいよ2016年NHK杯:でも羽生結弦の挑戦は始まったばかりなのだ | 覚え書きあれこれ

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記憶力が低下する今日この頃、覚え書きみたいなものを綴っておかないと...



羽生選手が札幌入りして、いよいよNHK杯への注目度が高まっていることでしょう。

皆さん、くれぐれも選手たちの集中力を妨げることなく、最高の結果が出せるように試合後までは静かに見守ってくださいますように。


そういえば我らがカーマイケルさん、フランス杯から中国杯、そしてNHK杯と三連続のお仕事ですが、元気にこちらも札幌入りされたようです!!

火曜日はガイド付きの札幌見物をして、とーっても楽しかった、とメールを頂きました。フォトグラファー仲間のロビン・リトスさんも一緒だったようで、さぞ賑やかなツアーとなったことでしょうね。

また何かカーマイケルさんから面白いレポートがあればこのブログでご紹介することになっていますので、楽しみに待ちましょう。


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さて、スケートカナダでメディアの方々が取材したことは、その当時、リアルタイムでどんどん日本のファンに伝えられていたものの、かなりの部分が端折られたり、溜め置きされたものがありましたね。やはり時間の制限があると、とにかく早くネットに流さないと、と皆さん内容を抑えざるを得ないのだと思います。

ほんと、試合中のメディアセンターって火花散ってます。


記者たちは競技中にツイートし、競技後は記者会見と囲み取材して執筆、その合間にまた観戦、バタバタ走り回る、階段上り下りする、と目まぐるしいです。

フォトグラファーの中には(特に大手通信会社専属の場合)、会場内に通信用のケーブル引いてもらって撮ったそばから本社に送信する、というくらいですから、時間との勝負なんですね。

しかし雑誌のライターの場合、取材したネタをいったん持ち帰って丁寧に書き起こして、写真を選りすぐって考察も加えて、長文の記事にする。その分、選手やコーチたちの言葉が忠実に、かつ多く引用されるのは当然でしょう。

新聞の記者さんたちもちょっと落ち着いたら同じように温存しておいたものを取り出してきて、次の試合前に投下する。なのでここに来て、ようやくスケートカナダの舞台裏で何が語られたのか、の全貌が見えてくるという流れですね。

今週のNHK杯大会では、羽生選手がスケートカナダ後にどのような練習をして、どのような成果が出たのかを披露してくれるわけですが、今シーズン、少なくとも前半は昨シーズンよりもジャンプの種類と本数を増やして、それらがプログラムの中にしっくりと収まるようにしつつ成功率を上げること、に重点を置いていることが、発言の端々から伝わって来ています。

オーサーコーチはスケートカナダ終了後、(この大会で羽生選手が見せた演技について)まだまだプログラムの完成形は先の事、フリーに関してはシェイリーンと造り上げたものの「SKELETON」を覗かせたに過ぎない、と言ってました。

つまり伸びしろは十分にあるのだから、その進化を楽しみにしていろ、ということ。

そしてジャンプに関しては、ループを新しくプログラムに組み込むことにした羽生選手が、「He's like a kid who got a new toy 新しいオモチャを手に入れた子供みたい」と確かに言ってましたが、それだけ彼が夢中になって、楽しそうに練習している、というニュアンスだったと私は理解しています。

ところで羽生選手自身がそこかしこで「僕にとって四回転ループは特別なジャンプじゃないんで」と言ってるのは、皆さんご存知だと思います。

特別じゃないならなぜこだわるのか?
となるかも知れませんが、矛盾はないんですよね。

単に新しいジャンプが跳べるようになったとか、ISUの公式試合で誰よりも先に初めて成功させたとか、トウループやサルコーよりも難易度が高いとか、そういう問題じゃない。そういった意味では彼にとって「ループは特別じゃない」

それよりもとにかく「四回転の種類を増やすこと」が重要なのであって、ループは三種類目の四回転としてレパートリーに揃えるため、跳び続けるのだ、と言いたかったのだと思います。

(残念ながら、記者会見中にとったノートは後から見るとあまり頼りにならないほどの雑記なので、羽生選手の逐一の発言ということではありません。ただ、Rob Brodieさんのスケカナレポートなどを見ると、復元できる部分はありました。)


余談ですが、記者会見の中で「ショートとフリーでループは成功できなかったわけですが、これからも跳び続けて行くことに対して、心配要素とかそういうのはありますか?」という質問に対して、羽生選手が

「はい、ないですっ!

と見事なほどに即答したのが私にはものすごく印象に残っています。

(その後、「フッ」と短く笑ったことで柔らかい雰囲気になったけど、たぶん、目は笑ってなかったな。)


さらに言えば、四回転の種類を増やすことは、PCSの点を上げるとか、トリプル・アクセルを後半に二つ入れるとか、そういうのと同じで、より高いスコアが取れるようにする手段だから、といったニュアンスのこと(ここも羽生選手の発言の逐一の再現ではありませんが)を記者会見でも言ってました。このことは何故かあまりどの記事にも伝えられていないのですが、私が訳していて「あ、なるほど」と思った記憶があるのであえて記しておきます。

まあブライアンにしても、羽生選手自身にしても、「まだプログラムの肉付けも、エレメンツの精度向上も、始めたばっかりなんだから、みんな、落ち着いて仕上がりを待っててよ」ということなのじゃないかと思います。


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それにしても恐るべし、羽生結弦。

オリンピックの一つ前のシーズンに彼の選んだ戦略は、世界記録を打ち立てた2015-2016年シーズンの延長、あるいは再現を目指すのではなく、”Let's go crazy!" とか言いながらいったん白紙に戻して新しい路線を模索する、ということ。

これって山頂近くまで到達したのに、あえていっぺん、下山して、別のルートを使って再登山する、みたいなことかしら?

もしかしたら、こっちの方がより早く、効率よく登れるかも?

あるいは同じ山脈の、もっと高い山にたどり着けるかも?



中学時代の登山合宿がトラウマになった私にとって、全く理解不可能な思考です。


2014年のソチ五輪の後、私は2012-2013年のシーズンに遡って羽生選手の試合の様子をCBC解説で追ってみました。

そのシリーズの記事はこちら:

*「天国と地獄」から「リベンジ」まで:羽生結弦選手の2012-2013年シーズン
*Something special: 思い出のCBC解説2012年Skate AmericaSP
*Not his day: 思い出のCBC解説2012年Skate America FS
*「雑感」:思い出のCBC解説2012年Skate America FS
*2012-2013年シーズンのCBC解説ハイライト:NHK杯(訂正!)
*2012-2013年シーズンのCBC解説ハイライト:Grand Prix Final
*REVENGE!:思い出のCBC解説2013年ロンドン世界選手権FS(追記)


↑ このような試練や努力を経て、だから五輪の金メダルが獲得できたんだよね、と後から言うのは簡単ですが、その途上では必ずしも本人にゴールがはっきりと見えているわけではない。

霧に包まれ、行き止まりや崖崩れに阻まれ、何度も不安や迷いに苛まれたことでしょう。

それでも突き進み、頂上を目指すしかない。全てが終わった時、誰よりも先に、誰よりも高く、登れていると信じて。


同じようなことが今、我々の目の前で繰り広げられようとしています。

4年の月日が経っているわけですから、その経験の分だけ、自信も力もついているに違いない。でも4年前とは別のプレッシャーや辛さも感じているかも知れない。


羽生選手の挑戦はまだ始まったばかりですが、頂上を目指して勇敢に突き進む姿を、私はずっと追い続けて行きたいと思います。