どれくらいの得点でストレス度が高いと評価されるのかわかりませんが、所要時間10分でできるのが売りらしいです。しかし、こう答えればこう評価されるというのが簡単に想像できる内容ばかりです。

 

 企業として行うべきは、こうした個人個人のストレス度をチェックすることなのでしょうか。いや、そうではなくて、ストレスを発生させている根本、ストレス源を軽減する方向での対策を考えるべきでしょう。組織の在り方、人間関係、職場の環境等……。しかし、こうした対策は後回しにされがちです。

 言ってみれば時間も経費もかかることだからかもしれません。そんなことに着手するより、個人の問題にすり替えてしまったほうが手っ取り早い……。

 このストレスチェックというものは、いわば「個人の医療化」ということです。個人を医療化することで、問題解決を図ろうとしていると言えます。いや、むしろ「個人を医療化することが問題の解決である」というストレートな考え方なのかもしれません。

そして、こうした流れは企業に限らず、学校現場においても現れています。問題を抱えた子どもを発達障害、精神疾患として精神医療につなげる動きです。

根本的な問題を解決するより、「当事者」を医療につなげて問題の決着を図ろうとする。しかし、つなげられる先の精神医療の現在の荒廃ぶりでは、医療化された個人が救われることはほとんどないといってもいいでしょう。



精神疾患が疑われる社員を受診させるための手順を指南する

 ところで、企業においてはいまや、この表題のような動きも実際あるようです。

企業のメンタルヘルス対策を重点業務としている社会保険労務士などは、企業の経営者、あるはメンタルヘルス担当者に対して、「精神疾患が疑われる場合の受診命令手順」といった指南を行っているのです。

これは「精神疾患が疑われる社員」はもとより、会社が「役に立たない人材」「人に迷惑をかける社員」と考える従業員を単に切り捨てるための方便として、精神医療を利用している感が拭えません。

ネットのあるコラムですが、社労士が以下のようなコラムを書いています。

http://latte.la/column/26649081


 取引先からの電話に大声を出したり、職場で同僚や部下を罵倒するようなことを繰り返し行う社員。会社としては、その度重なる行動から精神疾患を疑い、安全配慮義務を含め、適切な対応をとるためにも、本人に産業医への面談を何度も勧めている。しかし、本人は断固拒否し続けている。

 このような場合、会社として強制的に受診命令をすることができるのかどうか?

 それを「できるように」するのがこの社労士の仕事というわけです。

 方法としては、まず、「労働安全衛生法で義務とされている健康診断以外の受診命令をするには、就業規則にその旨を規定することが必要」と指摘。

やり方としては、就業規則に次のような一文を加えるのだそうです。

「会社は必要があると認めた場合、社員に対して医療機関での受診を命じることがある」


そして、この根拠規定があることを前提に医療機関での受診を命令し、本人がその命令に従わないのであれば懲戒処分を行うこととするのです。

就業規則にあらかじめこのように規定することによって、「病識のない」社員に医療機関での受診を強制することができるというわけ。

しかし、企業側として注意しなければならないこともあるようです。実際に裁判例でも、会社から受診を強要されたり、嫌がらせを受けたとして、損害賠償を請求された事例があるので、トラブルにならないための手段として、この社労士は次のようにアドバイスしています。

まず、受診命令の正当性を証明する客観的な根拠を残しておくこと。具体的には、対象社員の行動を観察し、特異な行動や症状、他の社員に悪影響を与えた事実などを明確に記録し、文書に残しておくこと。


そして、それらの事実を根拠にして、本人に医療機関への受診を勧め、産業医との面談を命じる。もちろん、これらの事実も、文書に記録として残しておく。


それでも受診に応じない場合には、本人自らが医療機関を受診し、健康に問題がないことを自身で証明しない限り、会社としては労務提供を受けない、という対応をとることが重要であるというのです。

 つまり、精神科を受診しない限り、もうこの会社では働けない(働かせない)ということですが、最初からこの事例をよく読んでみてください。

「取引先からの電話に大声を出したり、職場で同僚や部下を罵倒するようなことを繰り返し行う」

 こうした行為は、そもそも精神疾患の症状でしょうか。精神科を受診して、どうにかなることなのでしょうか。

 もちろんこのような行為の裏にはさまざまな精神疾患が隠れているという前提での話なのでしょうが、ではどんな精神疾患が隠されているというのでしょう。

 これは精神疾患というより、セルフコントロールのできない、未熟な、あるいは「キレやすい」社員というだけのような気がします。そういう社員は、取引先にも社内にとっても「迷惑者」以外の何ものでもない……。

それはそうかもしれません。しかし、だからといって、このような社員を「精神疾患患者」として何が何でも精神科を受診させようというのは、何か大きな違和感を抱きます。単なる「排除」であり、企業にとってはいかにもお手軽な感じです。

個人の性格の問題を「医療化」して、他者とうまく付き合えない人間を「病人」にしてしまう。会社にとってこれほど便利な方法はないでしょう。言葉は悪いが、精神科を「ダメな社員」のごみ箱として利用しているようなもの。精神科のほうもそういう人を喜んで病者として迎え入れる。精神医療はそうした社会の動きを歓迎、助長さえしているといえるでしょう。

それにしても、こうした動きは非常に嫌な匂いがします。人とちょっと違ったことを言ったりやったりすると「精神疾患」の疑いをかけられかねない。そして、そういう動きにさらに拍車をかけるのが今年の12月に施行される「ストレスチェック義務化法案」のような気がします。企業にとっての「危険因子」の排除という考え方です。